対メディア─何のための会見か?
ヴェンゲルのメディアに対しての物言いは基本的に知的で穏やか。ユーモアのセンスもあって気の利いた発言も多い。冒頭に挙げた「パスポートで選手を選んではいない」発言にしても、受け取り方はさまざまだろうが記憶に残る名言だ。記者をクスッと笑わせたり、「見出しに使える」ワードを供給したり、何かとサービス精神に溢れていたともいえる。
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対するファーガソンの記者会見はいつも緊張感に満ちていた。うっかり選手の問題発言のことなど聞こうものなら、間髪入れずに所属メディアと名前を確認され、即日出禁も当たり前。そうやってメディアに対して主導権を握り、発信内容をコントロールする様子がいかにも高圧的で私はイヤだったけれど、発言で心理作戦をしかけるのも計算のうちであり、「チームの弱点を晒さない」という意味でも完璧と認めざるを得ない。
「大切なのは試合に勝つことであり、会見で気の利いた答えをすることではない」という言葉もごもっとも。その言葉には、とても魅力的だがやや脇の甘いヴェンゲルへのちょっとした棘を感じてしまうのだけども……。
また発言といえば、ヴェンゲルとファーガソンの違いを感じる典型的な話がある。ヴェンゲルは、自軍の選手のラフプレーが問題になり、記者に意見を求められると、「私は見ていなかった」と言うのがお決まりで、ファンですら「またか」と失笑するほどだった。
一方、同じシチュエーションでファーガソンは「見直しておくよ」と答えていたらしい。「そう言っておけば反感を買うことなく、どうせそのうち他のニュースに紛れて忘れられる」という計算があったそうで、ここでも権謀術数に長けたファーガソンに対し、スマートなはずがちょっと天然なヴェンゲルという図式が際立ってしまう。
(文:キムラヤスコ)
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【了】