キャリア―インテリvs叩き上げ
ヴェンゲルとファーガソンのことを振り返るにあたり、2人のキャラクターの違いをいくつかのテーマにわけて考えてみたい。
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ヴェンゲルの生まれ故郷であるストラスブールは、フランス・アルザス地方の中心都市。ドイツとの国境沿いに位置し、フランス語とドイツ語が入り交じる、多言語、多文化な地域性を持つ。
ビストロを営む家に育ったヴェンゲルは、店に出入りする人々の様子を眺めながら人の心の綾を学び、ストラスブール大学で工学と経済学の学位を取った。サッカーについてはアマチュアクラブではプレーしていたものの、プロの選手だったのは30歳少し手前からの数年間だけ。その後はフランス国内で監督としての経験を積み、日本での1年を経てイングランドに向かう。
当時、本人は「自分には十分な経験がある」と思っていたというが─考えてみれば、日本に来る前にモナコを優勝させているくらいだからそれも当然なのだけど─彼の着任を報じる言葉は〝Arsène Who?(アルセーヌって、誰よ?)〞だった。
一方のファーガソンは、スコットランドのグラスゴーに生まれ、造船所の労働者の家で育つ。そしてその境遇を自伝では「恵まれない環境」と表現し、それこそが「成功の秘訣」とも語っている。
16歳でプロ選手になり、引退後は地元でパブを経営しながらアマチュアクラブを率いて実績を重ね、マンチェスター・ユナイテッドでの貢献でのちに「サー」の称号を得るまでに至った。いわば海千山千の叩き上げ社長みたいなもので、そりゃあ就任当時のヴェンゲルみたいな、中身があるのかないのかわからないのに自信たっぷりなインテリ風情は気に食わなかったに違いない。
そう考えると、ヴェンゲルがアーセナルの監督に就任したとき「知的な人物で5カ国語が喋れるんだって? でも、コートジボワール出身の少年にだって5カ国語を話せるのはいるからな」と圧をかけてみたり、自身がプレミアリーグの日程がチャンピオンズリーグを戦うクラブにとって厳しすぎると苦言を呈した際、ヴェンゲルがそれを否定したとして「新米に何がわかる! 意見するなら日本のことだけにしておけ」と一喝するのも理解できなくはない。
もっともヴェンゲル寄りの立場から言わせてもらえば、「5カ国語」発言はヴェンゲルというよりコートジボワールの少年に失礼な気がするし、日程問題については、実はヴェンゲルはファーガソンの発言に100%同意した上で、「でも変えるのは難しいんじゃないか」と言っただけなんだけど……。
少なくとも「その後、プレミアの日程に文句を言い続けたのは当のヴェンゲルだった」なんてことを、これみよがしに自伝にまで書かなくてもいいじゃないかとは思う(たしかに言い続けたけど)。
(文:キムラヤスコ)
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【了】