アーセナルのアイデンティティとなった若手の成長
アーセナルというクラブは、どうして人を惹きつけるのか。昨季のリーグ順位は8位に沈み、CLにももう何年も出場していない。それにも関わらず、イングランドでも日本でも、アーセナルの人気は今のところ衰える気配はない。
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クラブを好きになる理由は人それぞれだろうが、アーセナルの大きな魅力の一つに『若手の成長を見守ることができる』というのがある。古くからチームに在籍し、長所はもちろん、その短所までをも知り尽くした選手が少しずつ成長していき、ついにはトップレベルに辿り着く。
長い間見守ってきた、家族や友人のようにさえ感じられる選手が苦難の末に成功を収めるところを目撃し、ともに喜ぶことができるのだ。こんな瞬間をファンに味合わせてくれるクラブは多くはないだろう。
これを可能にしている二本の柱がユース選手の積極的な登用と、青田買いだ。特に青田買いは、まだ外国籍選手がそこまで多くなかった時代にアルセーヌ・ヴェンゲルがいち早くプレミアリーグで導入し、長い間にわたってアーセナルのユニークな特徴であり、アイデンティティとなっていた。
かつてヴェンゲルは『私の仕事は人の中に眠る美しさを引き出す手助けをすることだ』と語ったが、それは見ている側からしても、非常に美しいプロセスだ。大志を抱いた若者たちがプレミアリーグという大舞台で夢を叶えるため、世界中からノースロンドンに集う。アーセナルで奏でられる、そんなロマンチックなストーリーに我々は心惹かれてしまうのだろう。
今でも言えることだが、特に一時期のアーセナルは移籍市場が開くたびに、名前も聞いたことのない若者の獲得の噂が紙面に躍るのが風物詩ともなっていた。そのたびにファンは、彼ら一人ひとりの中に将来のスーパースターの姿を思い浮かべる。もちろんその期待は裏切られることも多くあるが、それでも、「今度こそは」「この次は」「あるいは」、と夢を見るのをやめられない。
本稿では、そんなグーナーたちの夢を乗せてプレーした選手たちのうち、特に印象的なキャリアを送った選手を紹介しつつ、彼らの歩んだ道筋を参考に、アーセナルと、現在クラブに在籍中の若手選手の展望を綴ってみたいと思う。
あらゆる意味で、アーセナルの青田買いを象徴するような選手がアーロン・ラムジーだ。破格のポテンシャル、怪我による伸び悩み、才能の開花から、悲しいかな、アーセナルからステップアップを果たして去ってしまったという経緯に至るまで。カーディフ・シティから、ヴェンゲル監督直々の説得を受け、すでに合意していたマンチェスター・ユナイテッドのオファーを蹴ってアーセナル移籍を決めた、というアーセナルファンからすれば痛快な経緯でやってきたラムジーだったが、彼のキャリアは平坦なものではなかった。
(文:山中拓磨)
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