最後のプレシーズンマッチでフル出場
ビジャレアルにとってラ・リーガ開幕前最後のプレシーズンマッチとなるレバンテ戦で、ウナイ・エメリ監督は久保建英をスタメンで起用した。ポジションはレアル・ソシエダ戦に引き続きトップ下であった。
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ビジャレアルは今夏加入したダニエル・パレホを中心にボールを動かし、レバンテを押し込んでいる。その中で久保も積極的にパスを呼び込み、色を出そうとしていた。
とくに右サイドのサムエル・チュクウェゼとの連係はそこまで悪くなかった。ナイジェリア代表FWは左利きのため中央寄りにプレーすることが多く、久保との距離は必然的に近くなる。やや被り気味になってしまうこともあったのは事実だが、距離が遠すぎないことでワンタッチ、あるいはツータッチでのパスが繋ぎやすくなった。
もちろん相手DFの距離もかなり近くなるのだが、場合によっては一つのパスで一気に二人を剥がせる。久保とチュクウェゼのプレーにはそうした可能性がみられた。実際、5分には久保のパスをDF二人の背後でチュクウェゼが受け、ボックス内で1対1の状況を作り出して最後はシュートまで持ち込んでいる。
また、チュクウェゼが空けた場所に久保がスペース認知力の高さを発揮して飛び込むシーンも。12分、チュクウェゼが下がって相手の左サイドバックのカルロス・クレルクを引き付けると、ナイジェリア人アタッカーは内側に侵入。その瞬間、久保はクレルクの背後へランニング。そこにパスが通り、完全フリーな状態でゴール前まで運ぶことができた。
ボールの動きを一切止めず、相手に触られることもなく、若手二人だけで全体のラインを押し上げる。お互いの意識が見事にマッチした、理想的な崩し方であったと言えるだろう。
もちろん、チュクウェゼとの連係面以外にも持ち味は出ていた。たとえば味方がサイドを崩した際にはボックス内へ飛び込むのではなく、あえてマイナス方向でボールを待つなど、彼なりのアイデアも発揮。レバンテは守備強度がかなり高かったが、卓越したテクニックを活かしたボールキープも光っており、相手のファウルを誘発するシーンもみられた。
久保の良さは常に首を動かしながら、ドリブルやパスをその時の状況に応じて巧みに使い分けられる点。そういった意味で、プレー選択肢の幅が広いトップ下という位置での起用は、日本代表レフティーにとってやはり理想的と言えるだろう。
開幕スタメンが難しい理由は?
しかし、レバンテ戦のすべてが良かったかというと決してそうではない。とくに、左サイドへ回った後半途中からのパフォーマンスにはやや物足りなさが残った。
左利きの久保が左サイドに入ると、やはりどうしてもタッチライン際でのプレーが多くなる。そして、プレー選択肢のほとんどが縦突破にもなる。久保はドリブルを苦手としていない。ただ、単独で突破できるスピードの“継続性”とフィジカルに関してはまだまだ物足りないため、相手に身体を当てられやすくなる。そうすると、プレー精度はどうしても下がる。縦への抜け出しがそこまで脅威ではなかったのが事実だ。
また、左サイドバックのアルフォンソ・ペドラサとの呼吸もなかなか合わず。良い状態でパスが回ってこず、左サイドに厚みが増したとは言い難かった。
先述した通り、幅広い選択肢を持ててこそ久保は光る。右サイドで起用された際には、カットインからパスやシュートという選択肢を自ら作り出すことができる。しかし、左サイドに入るとどうしてもプレーの幅は狭まってしまい、良さが消えていく。もちろん周りの連係面という問題を忘れてはならないが、このあたりはレバンテ戦でみえた課題の一つと言えるだろう。
左SBのペドラサは本職ウイングの選手であり、負傷離脱中のアルベルト・モレノもかなり攻撃的なサイドバックである。彼らの特徴を活かすことを考えると、左SHはより内側でプレーできる右利きの選手の起用が好ましい。そういった意味でも、現状は久保よりモイ・ゴメスの方が左SHは適任だろう。
では、トップ下はどうか。確かに久保の良さは出るが、ここには昨季チーム内得点王のジェラール・モレノが存在する。レバンテ戦はUEFAネーションズリーグに挑むスペイン代表に追加招集されているため不在だったが、いずれにせよ彼からいきなりポジションを奪うのは至難の業だ。
右サイドにはチュクウェゼがいる。彼のスピードを活かした破壊力はやはり魅力で、プレシーズンマッチでもそれなりの結果を残してはいる。一方で久保はプレシーズンマッチで不発に終わった。チュクウェゼの方が序列で上回っているとみるのが妥当だろう。開幕スタメンは非常に厳しいと言わざるを得ない。
ただ、マジョルカ在籍時もスタートは決して順調ではなかった。ビジャレアルは今季、リーグや国内カップ戦だけでなく、ヨーロッパリーグ(EL)も戦う。久保にも必ず出番というものは回ってくる。その中で厳しい状況を覆す成長、そして結果をみせることができるのが久保の魅力でもある。
いよいよ久保にとっての勝負のシーズンが始まる。果たしてどのような歩みをみせるか。
(文:小澤祐作)
【了】