久保建英は2得点に関与
プレシーズンマッチも4試合を消化し、開幕に向けてウナイ・エメリ新監督が目指すスタイルは徐々に形となりつつある。ビジャレアルがこの試合で奪った2得点は、ともに敵陣でボールを奪ったところから生まれている。
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レアル・ソシエダのビルドアップに対して、ビジャレアルは立ち上がりからハイプレスを仕掛けている。ボールを受けたセンターバックのロビン・ル・ノルマンに対して久保建英が間合いを詰めると、苦し紛れのパスをサムエル・チュクウェゼがインターセプト。チュクウェゼの横パスをフランシス・コクランがダイレクトで左足を振り抜いてゴールネットを揺らした。
前半は両チームともに公式戦さながらのインテンシティの高さが印象的だった。ソシエダもビジャレアルのビルドアップに対して高い位置からプレッシャーをかけている。18分、自陣でボールを回収したビジャレアルはモイ・ゴメスのバックパスが短くなり、ポルトゥがインターセプトしたところでコクランが足をかけてしまった。しかし、ソシエダに与えられたPKはアセンホの好セーブがあり事なきを得ている。
ビジャレアルの2点目も敵陣でのトランジションが起点となった。相手のクリアをコクランが拾い、モイ・ゴメスが縦パスをつける。久保はこれをスルーしてチュクウェゼからパスを受けると、裏に抜けようとしたモイ・ゴメスが倒されて笛が吹かれた。パコ・アルカセルがPKを決めて追加点を挙げている。
スタッツには残らないものの、1点目は守備、2点目は攻撃で、トップ下で先発の機会を与えられた久保は得点に関与した。試合全体を通して見ても、ポジションを争うジェラール・モレーノがスペイン代表招集で不在の中で、アピールに成功したと言える内容だった。
前線を活性化させた2つのプレー
バレンシア戦では後半途中から左サイドに入り、この試合ではトップ下で先発。後半途中からは右サイドに回っている。新加入の久保は味方との連係を深めている途中だが、エメリ監督から要求されているタスクはプレーに色濃く反映されている。
久保がいなかったバレンシア戦の前半は、ジェラール・モレーノが時折引いて縦パスを引き出していたが、あまり効果的ではなかった。後半に入ると、左サイドのモイ・ゴメスが絞ってパスを引き出すことでいくつかチャンスに結びついている。
一方、ソシエダ戦ではトップ下の久保がライン間で縦パスを引き出し、軽やかなターンから前を向くシーンが何度かあった。センターバックのラウール・アルビオルやボランチのビセンテ・イボーラからの楔のパスは、ビジャレアルの攻撃のスイッチになっていた。
チュクウェゼのようなスプリント力がなくても、久保にはボールを失わない抜群のキープ力がある。マジョルカ時代はサイドでボールを受ける機会が多かったが、360度を敵に囲まれるトップ下の位置でもボールを失わないことを証明した。
もう一つ、この試合で特徴的だったのは2列目の連動だった。右のチュクウェゼと左のモイ・ゴメスは頻繁にインサイドにポジションを取っている。これに合わせてトップ下の久保がサイドに流れる動きに相手の守備陣は手を焼いた。準備期間が短い中でも3人の距離感は合っており、久保の戦術理解力が活かされた攻撃の形だった。
ソシエダはアンカーでプレーしていたイゴール・スベルディアを後半から最終ラインに組み込んだ。5-4-1に布陣を変更したことで、ビジャレアルは2列目の3枚がプレーするためのスペースを失った。後半はソシエダがメンバーを落としたこともあり、個人の打開からチャンスは生まれていたが、前半とは性質の異なる展開だった。
久保建英が活かされた理由
久保は加入後最長となる82分までプレーしている。この試合の先発起用は代表に招集されたジェラール・モレーノの不在による部分が大きく、現時点でトップ下(セカンドトップ)のファーストチョイスはジェラール・モレーノだろう。ソシエダはミゲル・オヤルサバルと新加入のダビド・シルバに新型コロナウイルスの陽性反応が出て、ミケル・メリーノやディエゴ・ジョレンテは代表活動に参加。後半はメンバーを大幅に落としていたことも考慮して差し引きしなければいけない。
マジョルカ時代と比べて顕著なのは、ボランチの質の差にあったと思う。この試合ではイボーラとコクランが先発し、バレンシア戦ではコクランとダニエル・パレホが先発している。ビルドアップを助け、フリーで受ければ楔のパスやサイドチェンジで攻撃を展開する。サイドに追い込む守備では素早いスライドで数的優位を作ってボールを奪っている。質の高いボランチが、久保を含めたアタッカー陣の良さを活かしていた。
今は久保はチームメイトの特徴を理解し、チームメイトも久保の特徴を理解しようとしているところだろう。エメリも久保をさまざまなポジションで起用し、さまざまな組合せの中で化学反応を見ている。ただ、この試合で見せたトップ下・久保はポジティブな反応を見せたと言えるだろう。この試合のパフォーマンスをそのまま評価してはいけないが、随所に久保の特徴が活きた試合だった。
(文:加藤健一)
【了】