3試合目のテストマッチ
この試合でビジャレアルのパフォーマンスに疑念を抱いた人は少なくないはずだ。しかし、テストマッチで多くを語りすぎるのはナンセンスで、シーズンが始まってみなければわからないことがたくさんある。チームにとってはシーズン開幕に向けてコンディションを整えることと、選手の特徴を知って連係を深めることにプライオリティがあるはずだ。
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ビジャレアルはこのオフにウナイ・エメリを新監督に迎えた。サンティ・カソルラという大黒柱がチームを去り、ブルーノ・ソリアーノは現役を引退。バレンシアでキャプテンを務めていたダニエル・パレホとフランシス・コクランを獲得し、新シーズンに向けた準備を進めている。
ビジャレアルはラ・リーガ開幕までに予定されている5試合のテストマッチのうちの3試合目を消化した。セグンダ(2部)に所属するカルタヘナ、テネリフェと戦い、バレンシア、レアル・ソシエダ、レバンテの1部勢とのゲームを経て、開幕を迎える。
バレンシア戦からは第2段階が始まったのかもしれない。ここまでは主力と若手をミックスしてプレーさせていたが、バレンシア戦の先発メンバーは現時点でのベストメンバーと言えるような11人だった。ここまでプレーしていなかったベテランのラウール・アルビオルも45分間プレーしている。
ビジャレアルは9分、パコ・アルカセルが敵陣で相手のバックパスを拾う。ジェラール・モレーノがスルーしたところをサムエル・チュクウェゼが右サイドから走り込み左足でゴールネットを揺らした。
先制されたバレンシアはCKからマキシ・ゴメスがヘディングでゴールを決めて同点。その8分後に再びマキシ・ゴメスがゴールを決めて逆転した。久保は同点に追いつかれた直後に投入されて約25分間プレーしたが、チャンスに絡む場面はほとんどなかった。
左サイドハーフでの適正は?
エメリは4バックの前にダブルボランチを配す布陣を基本に戦うようだ。バレンシア戦は4-4-2の布陣で、新加入のコクランとパレホが中盤の底でプレーし、パコ・アルカセルとジェラールが2トップに入っている。
久保はモイ・ゴメスに代わって左サイドハーフでプレーした。初戦はトップ下、2戦目は右サイドハーフでそれぞれ45分間プレー。左サイドはマジョルカでもそこまで多くプレーしていなかったポジションだっただけに、指揮官も適性を試しているのだろう。
久保はモイ・ゴメスと同じようなタスクを担った。守備では左サイドハーフだが、チームがボールを持つとトップ下の位置に絞ってくる。昨シーズンのカソルラがやっていたタスクに似ていた。前半はジェラールが降りてくる場面が多かったが、後半はジェラールが降りてくる場面が減った代わりに、モイ・ゴメスが逆サイドまで顔を出すシーンがあった。
ストライカーの背後でプレーするのは得意としている。相手のDFとMFのライン間でボールを受けた久保が前を向くシーンが84分にあった。チャンスにはつながらなかったものの、久保の特長が活きるプレーだった。
一方で、左サイドから中央へ矢印を向けるプレーを左利きの久保がこなすのは難しかった。先述のプレーの直前、タッチライン際に開いたところでボールを受けてカットインしている。しかし、左利きの久保が持つと対面する相手にボールがさらされてしまう。結果的にバックパスせざるを得なかった。
左サイドで起用された理由
ビジャレアルは両サイドで立ち位置が異なっていた。右サイドはチュクウェゼがワイドに開き、サイドバックのルベン・ペーニャが後方のインサイド。左サイドはサイドバックのアルフォンソ・ペドラザ(後半はハウメ・コスタ)がタッチライン際に開き、サイドハーフのモイ・ゴメスと久保はハーフスペースに立っている。
ビジャレアルの左サイドバックはアルベルト・モレーノに加えて、期限付き移籍から復帰したペドラザとコスタがポジションを争うことになるだろう。モレーノやペドラザの攻撃面の特徴を考えると、左サイドハーフは中で絞ってプレーできる選手の方がいい。トップ下でもプレーできるモイ・ゴメスは適任だろう。
対照的に右サイドはチュクウェゼが左利きで、カットインからのプレーを得意としている。この試合ではペーニャがそれに合わせてオーバーラップを繰り返していた。これは昨季のマジョルカの久保とアレハンドロ・ポソの関係性に似ていた。
UEFAヨーロッパリーグ(EL)に出場するビジャレアルは、年間で50試合前後を戦わなければならない。選手層の厚みが必要なことは、セビージャで3連覇を成し遂げたエメリ監督もよく理解しているだろう。
カルロス・バッカの去就は不透明で、前線の控え選手はそこまで多くない。ペドラザをサイドハーフで起用することもできるが、久保が左サイドでもプレーできれば、チームとしての戦いの幅は格段に広がる。左サイドの久保はテストマッチだからこそ試せる起用だった。
リオネル・メッシほどのスーパースターでない限り、得意ではないタスクを多かれ少なかれこなさなければならない。左サイドでのプレーは決して適正とは言えないが、この試合のような疑似的なトップ下であれば、少しは可能性があるのかもしれない。
(文:加藤健一)
【了】