絶対王者の予感
再開後の7連勝で川崎フロンターレが首位を快走中である。
【今シーズンのJリーグはDAZNで!
いつでもどこでも簡単視聴。1ヶ月無料お試し実施中】
Jリーグにはこれまで圧倒的な強さを誇るチームがいくつかあった。開幕年のヴェルディ川崎、N-BOXで話題になったジュビロ磐田、その磐田と覇を競った鹿島アントラーズ、攻撃サッカーで人気を博したガンバ大阪、画期的な“ミシャ式”を安定的に着地させて3回優勝のサンフレッチェ広島…。今季の川崎はそうした伝説的なチームと肩を並べる、あるいは越えるほどのパフォーマンスを見せている。
今季から採用している4-3-3システムを使いこなしているのはポイントだろう。
ヨーロッパのビッグクラブでは標準型ともいえる4-3-3は、Jリーグではあまり使われていなかった。このシステムは攻撃に向いている。ボールポゼッションの優位とハイプレスを基調としたチーム向きで、ビッグクラブとその他の格差が大きいヨーロッパのリーグではバルセロナ、レアル・マドリード、バイエルン・ミュンヘン、パリ・サンジェルマンなどが採用しているが、毎年優勝争いが混沌としている戦力均衡のJリーグでは採用に踏み切るのは難しかった。
ただ、川崎には条件が揃っていた。ボール支配力が強く、押し込めるのでハイプレス志向でもある。自分たちに相応しいシステムを採用してみたら、システムに見合った強さを手に入れた感がある。
地上戦がダメなら…
EURO2008(欧州選手権)でのスペイン優勝は、20年に1回ぐらい起きる戦術的な転換期だった。
ちょうどそのころ普及しきったゾーンのブロック守備を“ティキ・タカ”と呼ばれた巧みなパスワークで破壊したスペインは、しばらく絶対的な優位性を保持することになる。
しかし、しだいに守備の強度が上がると、スペインといえども引いたブロックを崩せなくなっていった。スペインでさえパスワークで破れないなら、他は推して知るべし。スペインに追随していたチームは違う方法を探ることになった。
EURO2016では、軒並み長身頑健なCFを起用していた。地上戦がダメなら、高さとパワーを使って、ハプニング的なチャンスでも狙っていこうという傾向になっていた。
この戦術的な変化の経緯は、そのまま川崎にも当てはまる。昨季は圧倒的に攻め込みながら勝ちきれない試合が多かった。パスワークで崩しきろうとするため、ボールへ人が集まりすぎると、失ったときに守備のバランスも崩れてしまう。
今季はレアンドロ・ダミアンをCFに据え、サイドからのシンプルなクロスボールからもチャンスを作っている。得点効率がいいのはレアンドロ・ダミアンとローテーションで起用されている小林悠のほうだが、詰まったときに高さとパワーで強行できる攻め手を持ったのは大きかったと思う。
川崎を倒せるのは…
運用面で4-3-3が確立されたオランダは、ポジショニングがはっきりしている。個々のポジションをあまり逸脱することなく、全体のバランスを保つ。
日本代表で初の外国人監督だったハンス・オフトはオランダ人で、「ポジションをグチャグチャにするな」とよく言っていたものだ。当時は現在の5レーンではなく4レーンの考え方だったが、移動していいのは隣のレーンまでが原則だった。
日本では「人とボールが動くサッカー」とよく言われたものだが、オランダのサッカーでは動くのはボールであって人ではない。人が動きすぎたら、かえってボールは動かしにくいという考え方である。
川崎も4-3-3になってポジショニングが整理されている。Jリーグではほとんどのチームが採り入れているビルドアップ時の形状変化すら、ほとんど使っていない。ビルドアップでのポジション変化がないので、相手に捕まりやすいはずなのだが、技術の高さが解決している。人が動かないほうがボールは動かしやすいが、それには技術が前提なのだ。
人をバランスよく配置し、技術を生かしてボールを動かしていく。このスタイルではより多くの選手がパスワークに関与する。1人や2人のスーパースターが解決してくれるようなプレースタイルではないので全体のレベルが問われている。
川崎は遜色ない2チームを回せるほど選手層が厚く、過密日程と5人交代制の採用という今季の事情はむしろ好都合かもしれない。
4-3-3は攻撃されたときにアンカーの脇が空きやすく、それをカバーするためにディフェンスラインを高く設定するので裏も空きやすい。川崎のパスワークの技術を上回るプレッシャーで分断するか、押し込んで4-3-3の利点を出させないチームが現れれば、川崎を倒せるかもしれないが、それはもう1つの川崎の登場を待つようなものなので、そう簡単ではなさそうである。
(文:西部謙司)
【了】