多くの共通点を持つ両チーム
13/14シーズンのFAカップ決勝で、ミケル・アルテタはキャプテンマークを巻いて120分間プレーし、トロフィーを掲げている。その2年後にユニフォームを脱いだアルテタは、指揮官として戻ったアーセナルに再びFAカップタイトルをもたらした。
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チェルシーとのビッグロンドンダービーとなった19/20シーズンのFAカップファイナルは、多くの共通点が注目を集めた。指揮官はともに就任1年目でクラブのレジェンド。迷走するチームを引き継いだアルテタは、8位フィニッシュながら復活の兆しを見せた。対するチェルシーのフランク・ランパードはリーグ4位でUEFAチャンピオンズリーグ(CL)出場権を確保している。
リーグ戦ラスト6試合で5得点を挙げたオリビエ・ジルーはアーセナル時代に3度、チェルシー移籍後も17/18シーズンにFAカップを獲得している。そのジルーとマッチアップするダビド・ルイスもチェルシー時代に2度、FAカップで頂点に輝いた。
チェルシーはリーグ戦54失点、アーセナルは上位9チームではそれに次ぐ48失点と、守備に不安を抱えるチーム同士の対戦となった。ともに3-4-2-1の陣形のミラーゲームで試合は始まっている。
先制したのはチェルシーだった。グラニト・ジャカからボールを奪ったメイソン・マウントのシュートはエミリアーノ・マルティネスの好セーブに阻まれたが、その直後、GKウィリー・カバジェロからパスをつないでゴールネットを揺らした。
マテオ・コバチッチがDFラインに降りてボールを受ける。アーセナルは対峙するダニ・セバジョスが間合いを詰めると、それで生まれたスペースにシャドーのクリスティアン・プリシッチが降りてくる。コバチッチからのパスをプリシッチがフリックすると、降りてきたジルーが落とし、前を向いたジョルジーニョがプリシッチにリターン。前を向いたプリシッチは中央をドリブルで運び、左を走るマウントに渡す。中央へ折り返したボールをジルーが落とし、ここに走りこんだプリシッチがゴールを決めた。7人が10本のパスをつないで決めた鮮やかなゴールだった。
アルテタの微修正
アーセナルは自陣でボールを持ったときに、3バックの左を担当するキーラン・ティアニーがワイドに開いて疑似的な4バックの陣形を取っている。これ自体はティアニーがこのポジションで起用されたときによく使われる形だが、この試合ではウイングバックのエインシュリー・メイトランド=ナイルズとシャドーのピエール=エメリク・オーバメヤンも左サイドに寄っていたため、ティアニーが上がるためのスペースが塞がれていた。
クーリングブレイク後、メイトランド=ナイルズはハーフスペースに入り、オーバメヤンはラカゼットと並び、4-4-2のような形になっている。これでティアニーは高い位置でボールに関われるようになり、オーバメヤンもゴールに近い仕事に力を注げるようになった。
プレー再開から間もなく、セバジョスからハーフスペースのメイトランド=ナイルズにボールが入る。落としを受けたオーバメヤンからパスを受けたニコラ・ペペが左足を振り抜いた。カバジェロは一歩も動けず、ボールはゴールネットを揺らした。メイトランド=ナイルズがわずかにオフサイドの位置にいたため、ゴールは認められなかったが、修正の効果はすぐさま形になって現れた。
直後にティアニーが自陣から蹴りだしたボールにオーバメヤンが反応。並走するセサル・アスピリクエタの手がかかってしまい、アーセナルにPKが与えられた。これをオーバメヤンが自ら決めてアーセナルは試合を振り出しに戻している。
「ゴールを決められた後は、私がここにきてからもっとも素晴らしい35分から40分間だったと思う」
試合後にアルテタが語った通り、クーリングブレイクをきっかけにアーセナルがリズムを掴んだ。アルテタが選手たちに指示を送ったのはわずか40秒ほど。短い時間で端的に改善点を伝え、選手たちはそれを実行した。ボール保持率ではチェルシーが大きく上回っていたが、ボールを持たされているという表現が的確な展開だった。
2強を脅かすポテンシャル
度重なるアクシデントがランパードのゲームプランを狂わせた。32分にはアスピリクエタが太ももを痛め、後半早々にプリシッチがハムストリングを負傷。チェルシーは2回の交代回数を負傷で使ってしまった。リーグ再開後、ほとんどの試合に先発してきた両者だったが、ここにきて限界に達してしまった。
アーセナルの逆転ゴールはチェルシーの先制点と似ていた。最終ラインからつなごうとするアーセナルをチェルシーは高い位置からはめにいったが、中盤にスペースが生まれた。自陣中央から運んだエクトル・ベジェリンのドリブルはアンドレアス・クリステンセンに封じられたが、こぼれたところを拾ったペペからオーバメヤンとつなぎ、最後はチップキックでゴールに流し込んだ。
前線の3人が高い位置からプレッシャーをかけ、ボールサイドのウイングバックとセンターハーフがそれについていくと、中盤の広いスペースを残りのセンターハーフ1枚で守らなくてはいけなくなる。3-4-2-1が陥りがちなウィークポイントから、両チームの得点が生まれた。
1点を追うチェルシーは72分にコバチッチが2枚目のイエローカードをもらって退場に。ランパードはDFラインを1枚削って攻勢に出たが、後半アディショナルタイムにペドロ・ロドリゲスが相手GKと接触して負傷。交代回数を使い切っていたチェルシーは9人となり、万事休すとなった。
CLを残してはいるが、就任1年目のランパードは国内タイトルを獲得することはできなかった。ただ、昨夏の補強禁止に加えて、エデン・アザール流出という逆境を乗り越え、若手を抜擢してこの位置までたどり着いた手腕は評価に値する。
対するアーセナルは前半戦で不振に陥り、ウナイ・エメリは解任。フレドリック・ユングベリからアルテタにバトンが渡ったが、UEFAヨーロッパリーグではラウンド32で敗れた。それでもシーズン終盤は強さを見せ、リバプールとマンチェスター・シティを破っている。
ここ数シーズンはシティとリバプールの2強とも言われるが、FAカップ決勝を戦ったこの2チームが、2強に割って入るだけのポテンシャルを持っていることは間違いない。現役時代にプレミアリーグで凌ぎを削った両者は、来季のタイトル争いを面白くさせるかもしれない。
(文:加藤健一)
【了】