札幌のマンマーク対応
イビチャ・オシム監督が率いていたころのジェフ市原(千葉)を思い出した。第7節で王者・横浜F・マリノスをホームに迎えた北海道コンサドーレ札幌は、マンマーク気味のタイトな守備で横浜FMを苦しめ、3-1で勝利を手にしている。
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ミハイロ・ペトロヴィッチ監督は前線の人選を代えてきた。図式的にいえばチャナティップと駒井善成の2トップ、トップ下に荒野拓馬。FW登録がいないという点ではゼロトップである。
札幌は、横浜FMのSBとMFに対してはマンマーク対応だった。CBにはボールを持たせ、駒井とチャナティップが進路に立って牽制する程度だが、そこから次のパスの受け手になる5人をしっかりマークしてフリーにさせていない。これで横浜FMのビルドアップは窮屈になり、普段はあまりないミスを連発していた。
ボールを奪ったときの札幌は、横浜FMのラインコントロールの逆をつく斜めのパスを裏へ落として何度もチャンスを作っていた。狙っていたのだろう。
昨季チャンピオンの横浜FMは、札幌にとって格上の相手である。格上で戦うときには、およそ2通りのやり方が考えられる。ありがちなのが引いてスペースを埋めて耐えるという戦法。もう1つは、この試合で札幌がやったように相手を自由にさせないように“決闘”を挑む方法だ。
マンマークで相手のビルドアップを破壊していく守備にはリスクもあるが、相手はいつものようにボールを持てないのでリズムをつかみづらい。高い位置でボールを奪えれば、そのままカウンターのチャンスにも直結する。格上相手でも怯まずに互角の戦いに持っていこうという勇気のある選択といえる。
勇気ある戦いを挑むとき、マンマークは有効な手段のようだ。
オシムだけでなく、マルセロ・ビエルサ、ジャン・ピエロ・ガスペリーニもマンマークで敵の自由を奪う手法を採っている。中位ぐらいのチームを率いてチャンピオン・クラスを倒すスペシャリストたちの共通点だ。
失わなかったミシャらしさ
札幌はマンマークの守備だけでなく、ボールを奪うと返す刀で斬りつけている。ボールポゼッションは試合を通じて30%台、20%台の時間帯もあり、決して攻撃している時間は長くないのだが効果的だった。
駒井の同点ゴールをアシストしたルーカス・フェルナンデスが好調。ロングパスをピタリと収める美しいコントロールからカットイン、DFの逆をついた駒井へのラストパスまでパーフェクトなプレーだった。
2点目はゴール前でチャナティップの股抜きパスから荒野がゲット。3点目は相手のミス絡みだが、裏へ抜け出た荒野のヒールパスを金子拓郎が決めた。ただ、横浜FMのラインの裏をつくアプローチから生まれたゴールという点は狙いどおりだろう。
ミシャ監督は「仕事」と称して、ごく希に思い切り引いて守ることもあったが、常にサッカーの娯楽性を大切にしてきた。それはファンを楽しませるだけでなく、プレーしている選手にとっても楽しく、お金のためだけに仕方なくやるようなものではない。ヘンな言い方だが、どんなに強い相手と対戦しても“暗いサッカー”をしないのはミシャ監督らしく、この横浜FM戦も生き生きとしたゲームになっていた。
強い相手に強い、前記のマエストロたちの戦いぶりを振り返っても、ゲームを殺すようなプレーはしていない。希望の灯を消すことはない。いつも上手くいくわけではないが、そのほうが良い結果も得られることが多いのだろう。
再開後のJ1は川崎フロンターレが圧倒的な力を示している。これからライバルたちの川崎包囲作戦が始まるのだろうが、横浜FMを下した札幌はその急先鋒として浮上した感があった。
(文:西部謙司)
【了】