優勝決定はベルナベウではなく練習場で
真っ白に埋め尽くされたサンティアゴ・ベルナベウではなく、観客のいないバルデベバスの練習場で決まるというのはやはり少々味気ないが、優勝は優勝である。今後、同じことが起きないよう願うばかりだ。
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レアル・マドリードは現地16日、ラ・リーガ第37節のビジャレアル戦に2-1で勝利を収めた。そして、今季のリーグ優勝を確定させている。新型コロナウイルス感染拡大にともなう中断が明けてから、破竹の10連勝で3シーズンぶりの戴冠を果たした。「ひー、ふー、みー…」と数えて34個目のリーグタイトルである。
今季前半戦は失点がなかなか減らず、取りこぼしも多かった。リーグ戦で負けたのはマジョルカ戦くらいだったが、引き分けが多く、波に乗り切れていなかった。大量失点を喫したプレシーズンの不振を引きずっているようだった。
だが、図らずも今季2度目の夏を迎えた今のマドリーと2019年のマドリーは、全く違うチームになったと言ってもいい。世界的なスター選手たちが個々のエゴを前面に押し出すのではなく、チームの勝利のために体を張る。ジネディーヌ・ジダン監督は圧倒的なカリスマで強烈な個性の集まりを統率し、洗練された組織へとまとめ上げた。
「戦ったのは選手たちだ。私にも役割はあるが、彼らが自分たちを信じたからこそ成し遂げられた。とても幸せそうな彼らを見ると、私も嬉しい」
事あるごとに「チーム」を強調し、外部から望まない攻撃を受ければ、自ら矢面に立って選手たちを守った。かつて偉大なスーパースターだったジダンが監督だったからこそ、選手たちも一部を除いて最後まで団結できていたのだろう。
ピッチの上ではカリム・ベンゼマやルカ・モドリッチ、カゼミーロ、セルヒオ・ラモスといった古参選手たちがチームを引っ張った。ヴィニシウス・ジュニオールやロドリゴのような若手がのびのびプレーできたのも、経験豊富なベテランがいてこそだ。
ベンゼマは37節終了時点で21得点を挙げて、23得点のリオネル・メッシに次いで得点ランキング2位につけている。最終節で逆転しての個人タイトル獲得も夢ではないだろう。ゴールを決めるだけでなく、味方のためにスペースを作ったり、守備に走ったり、決定機をお膳立てしたりと前線で八面六臂の活躍を見せた。いまやクリスティアーノ・ロナウドの不在を嘆く者などいない。
セルヒオ・ラモスは、もはや神
カゼミーロは中盤のフィルター役として替えの利かない選手だった。どうしても前がかりになりがちなマドリーにおいて、ディフェンスラインの前にどっしりと構えてボールを狩り続け、時折攻め上がってゴールも決める。カバーリングエリアの広さも突出していて、彼がいるかいないかで試合そのもののクオリティに大きな差が出るほどだ。
モドリッチは特に中断明けのパフォーマンスが素晴らしかった。34歳になってフル稼働が難しくなっているように思われたが、およそ3ヶ月に及んだ中断期間で明らかに肉体的なたくましさが増し、広範囲に顔を出してより決定的な局面に絡むようになった。卓越したプレービジョンや繊細なテクニックは失われておらず、それは中断明けの3アシストという数字にもなって表れている。
そして、何といってもセルヒオ・ラモスは驚異的だ。本当に34歳なのだろうか? 髪を伸ばして後ろでくくり、立派なヒゲをたくわえるようになってからは、クリス・ヘムズワース演じるマーベルヒーロー「マイティ・ソー」にしか見えなくなった。
北欧神話の神「トール」をモチーフにした、強靭な肉体と精神の持ち主である。ソーは金のりんごを定期的に食べることで寿命を延ばしているが、セルヒオ・ラモスはトロフィーという“金のりんご”を自宅のショーケースに並べることで不老の肉体を得ているに違いない。
しかも、今季はリーグ戦でキャリアハイの10得点。VAR(ビデオアシスタントレフェリー)の登場によってPKをもらえる場面が増えたことも影響しているだろう。そのたびにセルヒオ・ラモスがソーの武器「ミョルニル」よろしく“神の鉄槌”を振り下ろす……いや、正確には右足を振るだけだが……とにかくGKをあざ笑うかのようなPKは毎度のことうますぎた。
マドリーのフロレンティーノ・ペレス会長は、リーグ優勝が決まった後に「セルヒオ・ラモスは生涯このクラブにいるだろう」と話した。一般的な34歳というのは現役引退間近で衰えも見えるものだが、金のタイトルを摂り続ける“マイティ・ラモス”にそれは当てはまらなさそうだ。守備者としてもいまだ世界最高峰であり続ける彼自身「ここでキャリアを終えたい。必要とされる限りここにいたい」と明言しているが、その時はまだだいぶ先になりそうである。
ジダンの偉大さとは
とにかくリーグ戦再開後10連勝の勢いとクオリティは凄まじかった。72時間ごとに試合が組まれ、その間に移動もしなければならない超過酷なスケジュールの中で、全ての試合に勝利してきたのである。今のマドリーは恐るべき集団だ。
セルヒオ・ラモスはビジャレアル戦後のテレビインタビューで言った。
「これは忍耐と努力に対するタイトルだ。うまくやれば、結果的には報われる。10試合すべてに勝つことは非常に難しく、誰が何を言おうと、非常に大きな成果がある。ハードワーク、努力、忍耐のリーグ戦で、継続性が最も重要だったと思う」
新型コロナウイルスの影響で変則的な開催になった今季のラ・リーガのラストスパートは、真の意味でチーム力が試されるものだったということだろう。その難しいミッションに挑むチームを団結させたジダン監督に、セルヒオ・ラモスは全幅の信頼を置いている。
「ジダンが鍵だったと思う。船のキャプテンは常に先頭に立って導いていかなければならない。彼は常に選手たちを信頼してきたが、それだって普通ではないよ。僕たちはずっと“ジズー”に守られていると感じていたし、彼のやるサッカーを信じている。偉大な人間で、唯一無二の監督であると正当に評価されてほしい」
ピッチの上で優勝の立役者になったのは神のごときセルヒオ・ラモスをはじめとした選手たちだが、彼らが最大限の力を発揮できたのは圧倒的カリスマを放つジダン監督の丁寧なマネジメントがあったからこそ。両者の信頼関係が我の強い世界的じゃじゃ馬の集まるマドリーを、1つのチームとして完成させたと言えるのではないだろうか。
ただ、ジダン監督の思いを理解しきれなかった者もいなくはない。ガレス・ベイルは指揮官が胴上げされているのを、選手たちの輪から少し離れたところで腕組みしながら眺めていたし、集合写真でも引きつった笑いを浮かべていた。ハメス・ロドリゲスも似たような感じだった。
来季さらに強いマドリーとなるためには、彼らのような余剰戦力になった選手たちを放出し、新しい血を入れていかなければならない。そして、新シーズンのことを考える前にはチャンピオンズリーグで、再び欧州の頂点を目指す。リーグ優勝を果たしたからといって、立ち止まっているわけにはいかないのだ。
(文:舩木渉)
【了】