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セリエA 4年前

冨安健洋はなぜ苦しんだのか。卓越していた相手の戦略、日本屈指のDFに求められるものとは?

セリエA第31節、ボローニャ対サッスオーロが現地時間8日に行われ、1-2でアウェイチームが勝利している。日本代表DFの冨安健洋はこの日も先発フル出場。終盤には得点に絡むプレーも見せた。しかし、90分間で見ると大きく苦戦を強いられていたのは事実。その理由とは?(文:神尾光臣【イタリア】)

text by 神尾光臣 photo by Getty Images

冨安は終盤に得点に絡むも…

冨安健洋
【写真:Getty Images】

 ボローニャvsサッスオーロ戦、90分。右サイドからボールを運んで攻め上がった冨安健洋は、アンドレアス・スコフ・オルセンとワンツーを成功させて前に出た。

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 サッスオーロMFのハメド・ジュニオル・トラオレがカバーに入って体を寄せてくるが、チャージは平然と背中で吸収。エリア内のスペースへ侵入し、右足でグラウンダーのボールを出した。DFに当たって軌道が変わるが、エリアの外にこぼれた先には絶好調のムサ・バロウがいた。そのままミドルシュートを放ち、ゴールが決まった。

 相手が触ってボールの軌道が変わったので、ベッティングサイトなどではアシストとはみなしていないところもあった。ともかく、2月20日のウディネーゼ戦以来得点に絡んだプレーだ。センターバックからサイドバックにコンバートされて1年目、これだけ攻撃面で存在感を出しているのは、やはり凄いことである。

 ただフル出場したサッスオーロ戦では、90分間を見れば攻撃参加は少なめ。しかも守備を自重していたというよりは、自らのサイドが押し込まれていたという印象が強かった。そして何より、守備ではあまり良いところがなかった。少しネガティブな評価になってしまうが、そういう試合だった。

 前述の得点はようやく終盤で一矢報いることができたという意味のゴールで、スコアでも試合内容でもチームは完敗。地元メディアの取材に答えたシニシャ・ミハイロビッチ監督も「相手の方が良く走っていた。結果は妥当」というふうに認めていたが、その中で冨安自身も苦戦を強いられていた。

相手のエースに浴びた一撃

 相手のサッスオーロは、シーズン後半に入って調子を上げてきているチームだった。国内外の若手を集めて攻撃的なサッカーを展開するのをカラーとしているが、2年目のロベルト・デ・ゼルビ監督のもとでさらなる成長を見せていた。

 ジョセップ・グアルディオラを「ナンバーワン」だと尊敬する彼は、そのコンセプトを手本にした前衛的な攻撃サッカーを展開する。システムに選手を嵌め込むというよりも、柔軟に選手を動かして縦横のスペースや相手の守備組織の間に人を動かして、幅広くピッチを使ってパスを組み立てて崩すというもの。守備側のディフェンスラインが4人いるとすれば、常に5人が前方に張ってパスを繋いでくる。守備陣にとっては的が絞りづらく、後手に回りやすいという戦術的なプレーを仕掛ける。

 ショートパスを縦横に交換して、人もボールも動いてくるので、ボローニャがプレスで奪いに来ようともかわされる。そしてサイドにボールを回されると、数的な劣勢を喫しやすくなるというわけだ。右サイドバックの冨安は対面の左ウイングを見るが、相手は積極的に中へと絞ってくる。するとそこに、左サイドバックのロジェリオがタイミング良く上がってくるので、的が絞りづらくなる。3バックシステムで幅を取ってくる前節のインテル戦と相手の戦術は違えど、似たような図式での劣勢を強いられたのである。

 その中でも集中し、右サイドを崩さないように体を張っていた冨安だったが、41分にやられてしまった。

 サッスオーロは素早いパスワークで縦をつくと、右サイドに展開してボローニャ守備陣を左に寄せる。中央の枚数が足りなくなったので、冨安は当然中に絞って相手選手のマークに付いた。するとぼっかりと開いた右サイドのスペースに、サッスオーロの右ウイングだったドメニコ・ベラルディが流れてきてフリーになっていたのだ。

 予め外に張れば中の枚数が足りなくなるから、冨安の対応は仕方のないところではあるだろう。大きな右クロスがベラルディに渡ると、マークを外して急いでシュートコースに立ちはだかる。ベラルディは左利き、そのコースを切ったところまでは良かった。だがスペースができていたので、相手は切り返して冨安をかわしたのちに、利き足でない右を使ってシュートを放ってきた。強烈な弾道で、ゴール右上隅へと決まった。

 2014年1月、本田圭佑がデビューしたミラン戦で4ゴールを決めセンセーションをもたらしたファンタジスタは、利き足でなくても相手にダメージを与えてくる。これがタレントの勝負強さである。サイドで戦術的に後手を踏んだ上で、技術面でもしてやられた格好となった。

21歳のサムライに求められるもの

 そして後半になっても、劣勢は続いた。サッスオーロは組織守備もしっかりしており、特に冨安などのDF陣が後方でボールを持った場合は、プレスを厳しく掛けてくる。囲まれてパスコースを限定されて、難しいところにボールを繋げさせられた挙句、奪われてカウンターを食らう。すると相手の前線は柔軟に動いてくるので、誰を捕まえて良いのかが分からなくなる。

 56分、対面のルーカス・ハラスリンが中に絞ったのでそこにつくと、ボールを持ったグレゴワール・デフレルが開いたスペースを突いてきた。DFラインごと右往左往する中、慌ててデフレルのシュートブロックに入った冨安だったが、シュートは止められない。そして最後にこぼれ球を押し込んだのは、中へと絞ったハラスリンだった。

 そこからも終始試合はサッスオーロのペース。冨安がいる右サイドの対面ではロジェリオが攻守に充実し、スペースも開かない。後手に回る対応でファウルも多かった。

 結局チームとしても、また冨安個人としても反撃ができたのは、相手の運動量が落ちた終盤になってから。前述の通り得点には絡むし、その直後には力強い突破からファウルをもらいゴール前でのFKを獲得している。疲労が吹き出す終盤でも試合を捨てなかったのは立派だったが、もう少し早い時間から巻き返しを見たかったものだ。

 サッスオーロはこれで8位に浮上。将来性のある若手を軸に戦うというスタンスが似ているクラブに、ボローニャは順位の先行を許す形となった。今季高い評価を得てきた冨安だったが、こういう勝負で確実に相手を制するプレーヤーとなれるかどうかが求められる。若干21歳ということを考えれば、やはり末恐ろしいことに変わりはないのだが。

(文:神尾光臣【イタリア】)

【了】

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