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マンチェスター・シティこそ、ポゼッションの始祖だった――。グアルディオラとの宿命的な関係とは?【クラブ哲学図鑑(1)】

歴史のあるヨーロッパのフットボールクラブを「常勝」「“ザ哲学”」「港町」「ライバル」「成金」「小さな街の大きな」「名将」の7つのカテゴリーに分け、それぞれのフィロソフィーがどうなっているのか見てみようと試みた『フットボールクラブ哲学図鑑』(西部謙司著)から、ペップとシティの宿命的な関係についての章を7月13日の発売に先駆けて一部を抜粋して公開する。(文:西部謙司)

text by 西部謙司 photo by Getty Images

グアルディオラが返したトータルフットボールの聖火

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【写真:Getty Images】

 グアルディオラがバイエルン・ミュンヘンの監督を務めていた頃、次のクラブが相当な確率でシティになると思っていた。当時、そういうことも何度か書いている。アイトール・ベギリスタインなど、バルセロナ時代の友人たちがシティの幹部となっていて、ペップを招聘する準備を進めていたこともあるのだが、それ以上にペップとシティの間に宿命的な関係があったからだ。

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 グアルディオラはバルセロナの育成組織で純粋培養された、いわばバルサ原理主義者である。原理を作ったのはヨハン・クライフだ。そしてクライフはアヤックスの出身だが、アヤックスはトータルフットボールの原型を作ったクラブで、リヌス・ミケルス監督が「トータルフットボールの父」だった。

 ミケルスにもモデルがあった。アヤックスをオランダのトップクラブへ成長させたジャック・レイノルズという英国人だ。レイノルズはトレーニング方法や育成理論など、その後のアヤックスの礎を作った人物とされている。

 レイノルズはシティの選手だった。公式戦の出場記録はないが、所属していたのは間違いない。つまり、レイノルズ→ミケルス→クライフ→グアルディオラとリレーされてきたトータルフットボールの聖火は、グアルディオラからその出発点だったマンチェスター・シティに戻されている。百年に渡る壮大な聖火リレーがどこに行き着くのか、俯瞰で見ればペップの行く先はシティ以外にありえなかった。

 グアルディオラ監督はシティに聖火を持ってきた。

 すでにプレミアリーグのビッグクラブの一つになっていたシティだが、ユナイテッドやチェルシーとどこが違うのか、シティのスタイルとは何なのかと問われると、明確なものはなかったと思う。グアルディオラはそれを持ってきた。

 グアルディオラがもたらしたプレースタイルは、基本的にはバルセロナのものである。ただし、彼のスタイルは理詰めでありながら必ず余白も残していて、バイエルン・ミュンヘンとバルサの違いもその余白部分だった。同じように、シティもおよそは同じフットボールでありながらバルサともバイエルンとも違っている。

 具体的にはアタッキングサードが違う。ここに関しては選手の個性を最大限に生かすために余白が予め空けられていて、バルサではほぼ使っていなかったハイクロスをバイエルンでは多用した。CF がリオネル・メッシかロベルト・レヴァンドフスキかの違いといってもいい。シティではセルヒオ・アグエロとガブリエウ・ジェズスをローテーションさせながら、ダヴィド・シルヴァとケヴィン・デ・ブライネを攻撃の牽引車として活用した。

(文:西部謙司)

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『フットボールクラブ哲学図鑑』


定価:本体1,900円+税

≪書籍概要≫
本書では歴史の古いヨーロッパのフットボールクラブを「常勝」「“ザ哲学”」「港町」「ライバル」「成金」「小さな街の大きな」「名将」の7つのカテゴリーに分け、 それぞれのフィロソフィーがどうなっているのか見てみようと試みた。
例えばマンチェスター・ユナイテッドは「ミュンヘンの悲劇」によって、「何があっても前進する」精神性を身に付けている。
レアル・マドリーはアルフレッド・ディ・ステファノの補強が大成功し、「計画できないところは選手が補ってくれる」ことを現在も具現化している。
バルセロナはまさに哲学と呼ぶに相応しいものを持っているが、負ける時は負けるべしくて負け、ユナイテッド、レアルのように奇跡を起こすことがあまりない……。
それぞれのクラブにはやはりDNA(遺伝子)があり、“香り”がある。
ヨーロッパの厳選20クラブの哲学を知れば、現在のフットボールシーンをより楽しむことができるはずだ。

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【了】

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