僕がイニエスタを大好きな理由
最後に。リスクと対峙する時、往々にして人はパニックになります。
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これは病院の中でも外でもそうなんです。パニックになったらいけないと言うと、「こんな大事な時にパニックになるのは当たり前でしょ」みたいな反応が返ってきます。どんな状況であったとしても、慌てていいことはないんです。慌てている場合と落ち着いている場合と、どちらがベターな選択肢を選ぶことができるか、それは慌てていない時ですよね。
アンドレス・イニエスタのプレースタイルはまさに典型です。クライシス(危機)な状態になったとしても、慌てるべきなのか、落ち着くべきなのかは火を見るより明らかで、落ち着いていた方がいいに決まっているんです。常に落ち着いている方がベターな判断ができる可能性は高いし、慌てていない方がベターな判断ができると思うんです。
イニエスタはワールドカップやチャンピオンズリーグの決勝でも、両チームのファンが非常に熱くなるクラシコでも、天皇杯の決勝戦でも常に冷静です。
やっぱり病院の中もそうなんですけど、「この緊急時に落ち着いていられるか」と詰め寄ってこられることが多いんです。感染症対策をしていると、他の診療科のドクターや看護師とも議論を重ねるんですけど、「ちゃんと落ち着いて冷静な判断をしましょう」と言うと「落ち着いてやれるか」と興奮して詰め寄られるんです。それではベターな判断はできません。
僕は冷静で落ち着いていて、周りに何人、人がいても動じない、そんなイニエスタが大好きなんです。完璧すぎて、僕のような凡人には真似をするのは無理なんですけど、落ち着いている方が良い判断ができるというのは、サッカーでも医療でもまったく同じで、シチュエーションが切迫しているから慌ててもいいというのは、まったくの間違いなんです。
慌てないということはリスク対策時の大原則で、落ち着いた状況で一番クールに、これが適切なパスウェイ(経路)だというのを見いだすのは、落ち着けば落ち着くほどできるし、慌てれば慌てるほどできなくなります。慌てると視野が狭くなって、思考が平坦になっていきます。瞬時の判断はできても先を見通した判断というのはできなくなるんです。
我々の業界でも三手四手先を見ておかなければならなくて、刹那刹那で慌てに慌ててその瞬間だけ乗り越えても、次はダメ、というのはあるんです。
(文:岩田健太郎)
感染症対策の権威にして熱烈なサッカーファンである岩田健太郎教授。書籍本編ではイニエスタとの貴重なエピソードも収録! 今だからこそ聞きたい新たな「サッカー行動マニュアル」の詳細は↓をクリック!
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