大迫勇也を制した「予測」の妙
36歳になっても変わらず信頼される理由を存分に示した。
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アイントラハト・フランクフルトに所属する長谷部誠は、現地3日に行われたブンデスリーガ第24節延期分のヴェルダー・ブレーメン戦に先発フル出場。3-0での勝利に大きく貢献した。
先ごろフランクフルトとの契約を2021年夏まで延長し、下部組織での指導開始や現役引退後アンバサダー就任も発表された元日本代表は、再開後のブンデスリーガでもチームに不可欠な存在だ。
契約延長の際に収録されたインタビューで長谷部は、こんなことを言っていた。
「もちろん疲れが溜まりやすいというのはありますけど、その分、自分には経験があるので、プレーの予測が早くなったと思います。(経験値は)自分の強みになっていますね」
まさに彼自身が口にした「予測」は、ブレーメン戦で試合の流れを大きく変えた。左右に顔を出して巧みにボールを懐に収める大迫勇也のケアを怠らず、長谷部は日本代表の元チームメイトを完封。そして60分に、真骨頂とも言えるプレーで勝利を大きく引き寄せた。
センターサークル内で縦パスを受けようとした大迫に、長谷部が背後から忍び寄って足もとでインターセプト。こぼれたボールを鎌田大地が左に運んで展開し、フィリップ・コスティッチの力強いクロスをアンドレ・シウバがヘディングシュートでゴールにねじ込んだ。
誰よりも早い予測で大迫のプレーを読み、ファウルすることなく足を出してボールを奪い取る。長谷部の傑出した判断力によって生まれたプレーからフランクフルトの先制ゴールにつながった。
失点したブレーメンは焦りを隠せなかった。直後の62分に低調だったフリン・バーテルスとデイビー・ゼルケを下げ、ミロット・ラシツァとジョシュア・サージェントを投入。攻撃陣に変更を加える。
ところが、今度は前半のようなチャンスすら作れなくなり、1点リードを手にして心理的に余裕が出てきたフランクフルトに支配されるようになった。リーグ再開から3試合でわずか2ゴールしか奪えていなかったブレーメンの攻撃は単調で貧弱だった。
長谷部がスタメンに復帰すると…
一方のフランクフルトは、終盤に得意のセットプレーから途中出場のシュテファン・イルザンカーが連続でゴールネットを揺らして点差を広げる。終わってみれば3-0の完勝だった。チーム内得点王が全てセットプレーからゴールを決めているセンターバックのマルティン・ヒンターエッガーというだけあり、理想的な展開だった。
ブレーメンが比較的ボールポゼッションを大事にする戦い方だったのも、フランクフルトにとってはありがたかっただろう。前節ヴォルフスブルク戦や、その前のフライブルク戦では常に攻撃的に振る舞う両ウィングバックの裏にできる広大なスペースを執拗に狙われ、長谷部を中心に据えた3バックがたびたび危険な状態に晒された。
両脇のダビド・アブラアムとヒンターエッガーが対人勝負に強いタイプのため、容易に前へ釣り出されてしまい、長谷部が必死にカバーするような場面も見られたほどだ。その長谷部も、セットプレーで体格の不足を狙われ、懸命に追いかけても間に合わず失点に関与したこともある。
それでもフランクフルトの守備は、長谷部が3バックの中央に入ってから飛躍的に安定感を高めている。36歳の元日本代表がベンチスタートだったブンデスリーガ再開から2試合は、ボルシアMGとバイエルン・ミュンヘンを相手に計8失点で連敗を喫した。
その後、長谷部がスタメンに戻った3試合は計4失点。最初のフライブルク戦で3失点したものの、ヴォルフスブルク戦は1失点、ブレーメン戦は無失点と徐々にゴールを奪われる回数が減ってきている。試合の強度が上がりつつある中で、この成果は誇っていいだろう。
相手が上位陣だったこともあったとはいえ、ボルシアMG戦やバイエルン戦のフランクフルトの守備は崩壊状態だった。選手間の距離が空きすぎて「守備でもソーシャルディスタンスを守っているのか?」という皮肉が誰でも頭に浮かぶくらい、やすやすとスペースにボールと人の侵入を許してお粗末な失点を繰り返していた。
そこに長谷部が入ってディフェンスラインを引き締め、ポジションごとの連係を整理しなおしたことが守備力改善の大きな要因だったと言える。的確なラインコントロールとサポート、相手のプレー先読みした出足の鋭さ、味方の空けた穴を素早く埋めるカバーリング、瞬時の判断で体を投げ出す献身性……フランクフルトの3バックにおける司令塔として、“スタビライザー”的な役割を全うする。
偉大な記録に並び、越える
ヴォルフスブルク戦、ブレーメン戦と連勝したフランクフルトは勝ち点を「35」まで伸ばし、残り5試合で降格圏(入れ替え戦に回る16位)との差を8ポイントまで広げた。
残留はほぼ安全圏。これからはもっと上を見て、ヨーロッパリーグ出場権獲得も射程圏内に入れることができる。降格の危機に怯えるのとは違うポジティブな緊張感を味わいながら戦い続けられるだろう。
長谷部もフランクフルトのクラブ公式サイトに「僕たちにとって勝利は非常に重要です。これで降格圏とは8ポイント離れ、土曜日(6日)のマインツ戦に勝利して3ポイントを獲得できればもっと上を見ることができる」とコメントした。
新型コロナウイルス感染拡大の影響で超過密日程になったブンデスリーガの今季終盤、残り5試合に全てフル出場するのは年齢的なことも考えると困難かもしれないが、アディ・ヒュッター監督が頼りたくなるのも十分に理解できる。
そして、ブレーメン戦は長谷部にとって記念碑的な試合の1つになったはずだ。2008年1月に浦和レッズからヴォルフスブルクに移籍してドイツでのキャリアが始まり、13シーズン目にしてブンデスリーガ通算308試合目の出場を迎えた。これで元韓国代表のチャ・ブングン氏が持っているアジア人の同リーグ最多出場記録に並んだことになる。
年齢とともに攻守にバランスの取れたセントラルMFからリーグ屈指のリベロへとプレースタイルを変化させてきたのも、13シーズンもの長きにわたって第一線で必要とされ、主力としてプレーできている秘訣か。
次節マインツ戦に出場すれば、309試合目となって長谷部がブンデスリーガのアジア人最多出場記録保持者になる。もはや新たな歴史を刻むのは時間の問題で、これからも記録を伸ばし続けていくことになるだろう。
誰からも信頼され、愛される生粋のリーダーは、これからもフランクフルトのディフェンスラインの要であり続ける。
(文:舩木渉)
【了】