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ジョゼ・モウリーニョの場合は? 勝つためには何でもする。勝利への執念を貫く生き方【戦術クロニクル(2)】

クライフ、サッキ、グアルディオラ、ジダン…強く美しい戦術はどのような系譜をたどり、いま、まさに究極の戦術が生まれようとしているのか? トータルフットボールの進化という大河の源流と革新を綴る濃密な戦術ガイド本『サッカー戦術クロニクル ゼロ』から一部抜粋して公開する。(文:西部謙司)

text by 西部謙司 photo by Getty Images

守備的な戦術を採ることに躊躇せず

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【写真:Getty Images】

 勝つための合理性のみを追求する監督もいる。例えば、ジョゼ・モウリーニョはレアル・マドリーの監督時代にあの手この手でバルセロナに対抗していた。あるときはメッシをマンマークし、あるときはファウルを容認して激しい戦いを挑んだ。モウリーニョ監督はときどきそうした手法を用いるので、〝アンチ・フットボール〞と非難されることもある。

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 しかし、彼はもともとバルセロナのコーチだった。スコットランドのコーチングスクールで学び、ポルトガルではボビー・ロブソンのアシスタントを務め、バルセロナでもロブソンとルイ・ファン・ハールを補佐していた。バルセロナのフットボールに精通しているだけでなく、テクニカルなフットボールをするポルトガル人でもある。

 実際、FCポルトを率いていたときも、チェルシーやインテルのときも、モウリーニョのチームはとりたてて守備的でもなければ、アンチ・フットボールをやっていたわけでもなかった。ただ、ここという試合では守備的な戦術を採ることに躊躇しなかったのも事実だ。

モウリーニョの率いるクラブは常に優勝候補なので、必然的に格下との試合がほとんどになる。だから多くの試合は攻撃的なプレーをしている。しかし、相手が格上になった場合には戦い方を変える。強い相手に対しても諦めず、何とか勝機を見出そうとする。勝つためには何でもする。相手の監督を挑発し、メディアに喧嘩も売る。モウリーニョは勝利至上主義者と批判されるが、それがフットボール哲学であり彼の生き方なのだと思う。

 ヨハン・クライフ監督はトヨタカップ(インターコンチネンタルカップ)でサンパウロに敗れた後、

「どうせ轢かれるならフェラーリのほうがいい」

 と、話していた。サンパウロは素晴らしいチームだった。そうでない相手に勝利を盗まれるよりはずっといいという意味だ。

 バルセロナの監督や選手は、彼らがアンチ・フットボールだと思うような相手に負けたときは、相手のやり方を非難する癖がある。しかし一方で、本当に強いと感じた相手に敗れたときは意外とあっさり負けを認める。監督の中には、どんな相手に対しても素直に負けを認めない人もいて、だいたい審判の判定に文句を言うのだが、力負けしたときのバルセロナの人々は案外素直なのだ。

 一番にしか興味がないからだろう。自分たちが一番で、最高のフットボールをやる存在であることを目指している。つまり、自分たちより強いチームがあれば、負けるのは当たり前のこととして受け入れる。弱いまま勝とうとは思っておらず、弱いくせに何とか勝ちをくすねとろうとするチームを軽蔑しているのかもしれない。これもまた1つの人生観だ。

(文:西部謙司)

9784862554130

『サッカー戦術クロニクル ゼロ』


定価:本体¥1500+税

<書籍概要>
単に選手のポジションを交換するからトータルフットボールなのではなく、パスワークのスタイルを貫いた結果、ポジション互換性が必要になってくる。つまり、パスワークこそがトータルフットボールの源ということがみえてきます。(中略) パスワークとプレッシング。この2つをトータルフットボールの成立要件と仮定して、過去から現在に、そして現在から未来へ、トータルフットボールをキーワードに戦術史を紐解いていきたいと思います。 (本書「プロローグ」より抜粋)

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【了】

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