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Jリーグ 5年前

「現金をぶち込んでほしい」。海外のサッカー支援はどうなのか? トリニータ元社長が語るコロナウイルスの危機【インタビュー後編】

大分トリニータの元社長で、第二代観光庁長官、現在は大阪観光局理事長の任にある溝畑宏は怒っていた。新型コロナウイルスの影響により依然、リーグ再開のメドが立たないJリーグを筆頭としたプロスポーツ産業に、なぜ政府、スポーツ庁は手を差し伸べようとしないのか——。責任企業がない中小Jリーグクラブの存続が危ぶまれる切迫した状況の中、トリニータ時代から比類なき突破力を見せていた溝畑はすでに動いていた。(本インタビューは当初、緊急事態宣言が出される前日の4月6日に行われ、その後、メールによる質問等でアップデートしている)【取材・文:木村元彦】

text by 木村元彦 photo by Editorial Staff

もう頼りにならんと、ますます希望を失ってしまう

溝畑宏
【写真:編集部】

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——先行きの見えない経済不安のまま中途半端な自粛要請が進んでいくと、あの人たちだけ外出している、あるいは営業している、優遇されていると言った妬みから、住民同士の監視が生まれて社会が分断される恐れすらあります。

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溝畑「私も恐れているのは、困窮することによっての犯罪と自殺の増加。それといじめ、差別、偏見が助長されないかということ。みんながイライラし始めて、マスコミが不安を煽ると、すごく気持ちがネガティブになっていく。こういう時にはポジティブなことを言いづらくなってきているから、ある意味、情報統制的にも危ないですよ。だからマスク二枚なんてことではなく、早く具体的な手を打つべきなんです」

——一方で東京オリンピックの組織委員会が延期を決めた6日後にもう来年7月の開催を決めてしまいました。暴挙だと思います。新型コロナの感染が収束のメドさえ見えていない中で、選手だってトレーニングができない。日本の選手でさえそうなんだから、スペイン、中国、アメリカ、イタリアの選手が来日できない。専門家が分析するには、気の毒なことにこれからアフリカが蔓延する可能性が高いということです。海外の選手が置かれた状態も不安定な中ですが、日本の役人はトップダウンでスケジュールが決まれば、それに向かって帳尻を合わせてもやろうとする。トップはとにかく自分の在任中にやりたいのかもしれませんが、ああいう暴論を吐くことによって、また携わる職員の人たちがすごく苦しい思いをすると思うんですよ。

溝畑「結局、現場のニーズと実際の制度の作り込みのところが乖離しているんですよ。現場からボトムアップしていかないとダメです。例えば組織委員会からこういう意見がありました、アスリートからもこういう意見がありました、そういう中で意見を決めるときに、じゃあオリンピックって何のために開いているのですか、と。原点に帰って判断すべきやと思いますよ。いつしかオリンピックの目的が歪んでいるんじゃないかと考えざるをえないですよ。

 そして、オリンピックの開催日を早急に決めるよりもまずは、今困っている人を救わなければ。国が雇用調整金、融資だという制度を作ったかもしれないけど、実際に役所の窓口に行っても書類をたくさん書かされて、厳しくチェックをされる。結局行ったって何にも返ってこない。だからもう頼りにならんと、そうなってしまうとますます希望を失ってしまうし消費も落ち込む。下手をすれば、役所の窓口で感染してしまう。

 今、霞が関に言いたいのは、国の経済、文化、スポーツなどの担い手である国民の生活を守るため、できるだけ早く、借入じゃなくて現金をぶち込んでほしいということ。他の国の事例を見ていると、すべてデジタル化していて、申請して数日後に入る仕組みになっています」

スポーツは国民にとってかけがえのない財産

——プロサッカーに対する支援の海外の事例はどのようなものでしょうか。

溝畑「ドイツは約300万人のフリーの作家やアーティストの個人事業主がいるとカウントしていますが、プロサッカー選手もこの中に含まれています。ドイツ政府はこういう文化こそ、人類の生命維持に必要だと位置づけて、500億ユーロ(約5兆8500億円)を支援しています。サッカーというスポーツもまた国民に必要不可欠な文化、エンターテインメントの一つとしてサポートする対象に充てているわけです。

 イギリス政府は一律事業者というくくりで支援しています。サッカーの母国はジャンルや規模を問わず、すべて事業者なんです。どちらの形を取った方がいいのか、はともかく、徹底しているわけです。僕たちも何らかの形でJリーグを支援する仕組みを作らないといけない。そのためにはスポーツは貴重な財産であるということのコンセンサスがまず必要です。

 でも東京オリンピックにあれだけのお金を使うのであれば、そのうちの1兆円でいいから、日常としてのスポーツ文化を助けるために回してほしいですね。Jリーグは発足して26年。今や、地域に密着した地方創生のモデルケースになっていると思います。私も大分トリニータ発足から15年関わらさせていただきました。Jクラブを、Jリーグだけで守るんやなくて政府、自治体、国民でこれを守る。これについては誰も反対しないと思いますよ」

——まったく再開のメドが立っていないですが、今後の動きについてはどのように見ていますか、そしてどうすべきだと思いますか。

溝畑「ワクチンが開発されない限りはスタジアムでの感染の脅威は消えませんし、サポーター、来場者の安全を第一に考えないといけません。今後のストーリーとして順調に感染者数が減った場合、7月くらいに開幕する。その次はさらに長引いて10月まで延びる。もっと怖いのは年内リーグ戦の開催が無理となった場合。その時はJリーグ自体、経営が成り立たない。試合がなければダゾーンだって会社自体どうなるかわからないじゃないですか。

 僕はこういう時こそ、早めに打つべき手を打って、国も一緒になって応援する。最初から国に助けてくれと言わないところがね、逆にJリーグのいいところだったんですよ。今回はそうではなく、まずJ3まで手厚い支援をしてあげて、選手やスタッフに対して今年いっぱいは大丈夫だぞと安心させること。そして将来を含めて、国と一緒にスキームを作ることです」

——トリニータの社長を離れてもう11年経ちますが、Jリーグに対する思いは今でも強いですか。

溝畑「僕もお世話になったところですし、育ててもらったところですから。かつて一緒に戦っていた仲間もまだ元気にやっていますしね。例えばJ2時代に監督をしてもらった石さん(石崎信弘)はJ3の藤枝で指導をしているし、デカモリシ(森島康仁)も同じ藤枝で現役を続けています。金崎(夢生)はグランパスに再移籍したあとにメールをくれました。清武(セレッソ大阪)、梅崎(湘南ベルマーレ)、森重(FC東京)、家長(川崎フロンターレ)からも開幕に向けて、サポーターと一緒に戦いたいという連絡がありました。

 J2では吉田孝行が長崎でコーチで再起したし、トリニータの強化部にいた原靖君は今、ファジアーノ岡山でGMやっとるし、ポポビッチも町田の監督に戻ってきた。みんなそれぞれJのクラブで頑張っとるわけですよ。こういう連中が将来に対し不安を感じているんですよ。

 声を大にして言いたいですが、スポーツは国民にとってかけがえのない財産です。これから復活を遂げるにあたって日本で暮らす人々が元気になるための源泉みたいなもんですから、僕は絶対に国が守らんといかんと思うんですわ」

(取材・文:木村元彦)

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 とある劇作家はテレビのインタビューで「演劇は観客がいて初めて成り立つ芸術。スポーツイベントのように無観客で成り立つわけではない」と言った。この発言が演劇とスポーツの分断を生み、SNS上でも演劇VSスポーツの醜い争いが始まった。が、この発言の意図を冷静に分析すれば、「スポーツはフレキシビリティが高い」と敬っているようにも聞こえる。

 例えばヴィッセル神戸はいち早くホームゲームでのチャントなど一切の応援を禁止し、Jリーグ開幕戦のノエビアスタジアム神戸では手拍子だけが鳴り響いた。歌声、鳴り物がなくても興行として成立していたことは言うまでもない。もちろん、これが無観客となれば手拍子すら起こらず、終始“サイレントフットボール”が展開されることになるのだが……。

 しかし、それでもスタジアムが我々の劇場であることには何ら変わりはない。河川敷の土のグラウンドで繰り広げられる名もなき試合も“誰かの劇場”として成立するのがスポーツ、フットボールの普遍性である。我々は無観客劇場に足を踏み入れる覚悟はできている。

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▽溝畑宏(みぞはた・ひろし)

1960年、京都府出身。東京大学法学部卒。自治省(現・総務省)から大分県庁に出向し、2004年に大分トリニータの代表取締役に就任。2008年にはクラブ初タイトルとなるナビスコカップ優勝を果たした。2009年にクラブ経営危機の責任をとって辞任。現在は大阪観光局理事長。
参考
https://www.shogakukan.co.jp/books/09825289

【了】

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