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久保建英は「最高峰になるための全てを兼ね備えている」。驚異の才能に重なるのは…【スペイン人指導者の本音(2)】

新進気鋭のスペイン人指導者が日本にやってきた。弱冠28歳で欧州最高位の指導者資格UEFA PROライセンスを取得し、ダビド・ビジャが日本に設立したDV7サッカーアカデミーのヘッドコーチとして来日を果たしたアレックス・ラレアがスペインサッカー的視点から鋭く日本サッカーに切り込む。今回はマジョルカで活躍する久保建英の現在地と将来像を分析する。(文:アレックス・ラレア)

シリーズ:スペイン人指導者の本音 text by アレックス・ラレア photo by Getty Images

日本サッカーの成長に必要なこと

久保建英
【写真:Getty Images】

 スペインはワールドカップで優勝するために何十年という時間をかけ、いろいろな試行錯誤をしながらの積み重ねによって物事がうまくいくようになってきました。何よりアンドレス・イニエスタやシャビ・アロンソ、シャビといった素晴らしい世代が出てきて、それ以降に優れた選手がどんどん出てくるようになってきたのは、若い選手たちに対するサッカーのアプローチがより明確になってきた結果だと思います。

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 日本は2年前のワールドカップでベルギーをあと一歩で倒すところまでの力の上積みができてきていました。故にここまでの日本サッカーの強化プロセス自体がうまくいっていないわけではなく、失敗だと結論づけるべきではありません。

 サッカーというスポーツで国際的な競争力を高めるためには時間がかかります。スペインのように優れた選手たちが揃う世代が出てきて、その選手たちとともに成長することで、次のステップに上がれるのではないかと思います。

 僕はスピードやボールを扱う技術に長けている日本の選手たちに、自分の指導の中で、より賢くプレーできるようアプローチできたらと思っています。ボールを持った時の賢さだけではなく、ピッチ全体のオーガナイズを理解し、スペースを正確に認識し、その中で適切な選択肢を取ることができる、イニエスタや久保建英ような選手たちを育てていきたいんです。

 久保は日本サッカーの次世代を担っていくであろう選手の1人に間違いありません。さらなる成長には本人の向上心も非常に重要ですが、彼は現時点でもサッカー選手として高みにたどり着くにふさわしいものを持っていると感じています。

プレーの細部に宿る驚くべき能力

 まず前提として、久保は今季、自分の成長のためにマジョルカというクラブへ期限付き移籍を選びました。そして、スペインの1部リーグで18歳にしてレギュラーとしてプレーしています。その時点でかなりスーパーな才能です。そんな選手はスペイン中を見渡してもほとんどいないですから。

 日本人選手らしいスピードや技術は傑出していて、スペインでも彼のボールを扱う技術の質はかなり上の方にあると思います。またサイドでもトップ下でもプレーできて、ピッチ上で非常に優れたビジョン、視野を持ってプレーしているのがよくわかります。

 彼のプレーを見てきて、とても印象に残っているものがあります。それはまだレアル・マドリーのトップチームに帯同していたプレシーズンのフェネルバフチェ戦、終盤(85分)に見せた2本のパスの前後の動きです。

 右サイドの深い位置でダニ・カルバハルからのスローインを受けた久保は、無理をすることなくワンタッチで一度後ろのルカ・モドリッチへボールを戻します。モドリッチはすぐにワンタッチの縦パスを通し、それを受け取った久保はペナルティエリアの右角で相手ディフェンス3人に囲まれそうになりました。

 すると彼は仕掛けようとしたのを一瞬の判断でやめ、左に少し運んで、背後から自分の左横に走り込んできていたモドリッチに預けました。この一連のプレーにおける久保の判断には感銘を受けました。スムーズなファーストタッチ、モドリッチからのリターンパスを引き出すまでの動き直し、複数の相手ディフェンスを引きつけてのパス……これらの質が非常に高いだけでなく、相手が近い距離にいる状況でも常に顔が上がっており、ボールを失うことなく味方を前進させるパスを選ぶことができていたのです。

 最終的にはモドリッチがシュートを放ち、ゴールにこそつながらなかったものの、マドリーの決定機を演出しました。細かいプレーではありますが、18歳でこれほどまでに高い次元で様々な動きを組み合わせて同時に表現できてしまうのかと驚きました。もちろんまだ試合の中で最後のシュートやラストパスのズレは見られますが、それは彼が試合を経験していくことで少しずつ向上していくでしょう。

プレースタイルが近い選手は…

リオネル・メッシ
【写真:Getty Images】

 日本人という括りで見れば、乾貴士がエイバルでサイドアタッカーとして違いを見せています。ただ、サイドの選手として違いを見せているけれども、彼がトップ下でプレーできるかというと、それは難しいと思います。

 久保に関して言えば、右でも左でも両サイドどちらもこなせ、真ん中のポジションでプレーさせても高い質を見せることができます。すごくポリバレントな選手で、しかもどのポジションでも確実に彼らしいプレーを出せる。特別な選手の1人であることに間違いないと思います。

 では、どういった役割なら久保のポテンシャルを最大限に活かせるのか。もちろんチーム状況や監督が求めるもの、どこで起用するか、チームがどこで彼にプレーしてほしいかといったことが前提になりますが、サイドだけでプレーしていると彼の良さを出し切れない気がします。サイドはプレーの幅が制限されるエリアだからです。

 久保はどんなところからボールが来ても、どこへでもボールを出せる能力がありますし、だからこそいわゆるクラシックな10番ポジション、トップ下で彼がプレーしているところを見るのはすごく楽しいんだろうと思います。

 プレースタイルが近い選手は、やはりリオネル・メッシではないでしょうか。久保がメッシを超えるにはいろいろな努力を続けていかなければいけませんが、同じラインに立てるようなポテンシャルがあると感じるからこそ、メッシなのかなと思います。

 メッシのようにサイドに張りながら中に入っていってプレーする、その形ならばおそらくどのチームでも彼は生きますし、そうやってプレーすることで彼はどんどんステップアップしていくと思います。ですが、僕としてはクラシックな10番をやっている久保をすごく見てみたいです。

 現時点で、久保は最高峰の選手になるための全てを兼ね備えていると思います。3月7日に行われた試合で、久保はチームを背負ってプレーし、エイバルのホームスタジアムでゴールを決めてマジョルカを勝利に導きました。

 残留争いの渦中にいるチーム同士の対戦でしたが、そういう重要な試合でチームを勝たせる経験の積み重ねが彼を大きくしていくでしょう。久保のようなサッカー選手として高みに到達できる力を持った選手を、僕の教えで育てていきたいと心の底から思います。

(文:アレックス・ラレア)

アレックス・ラレア
1991年、スペイン生まれ。地元サン・セバスチャンでサッカーを始め、カナダのモントリオール・インパクトU-23などでもプレーしたのちに現役を引退して指導者の道へ。エキンツァK.E.やアンティゴーコで育成年代を指導し、チーム・個人のパフォーマンス分析の専門家としても活躍している。欧州最高位の指導者資格UEFA PROライセンスを取得し、2020年にダビド・ビジャが日本に設立したDV7サッカーアカデミーのヘッドコーチとして来日。

【了】

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