東京五輪は「他の大会と変わらない」
新型コロナウイルスの感染拡大が終息に向かわず、4月3日に予定されていたJ1リーグの再開は5月9日を目指すこととなった。さらに1か月半の中断期間を強いられる選手たちも心穏やかではないだろう。
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とりわけ、開催延期が決まった東京五輪世代の選手は不安が募る。大会の時期が後倒しになればなるほど、森保一監督が積み上げてきたここまでのチーム強化が無意味になり、新たな積み上げが必要になるからだ。
しかし、ボランチの軸を担うと見られる田中碧(川崎)は「あまり気にならない」とアッサリしている。
「五輪のことは自分たちにはどうしようもないんで。なくなったらなくなったでしょうがないし、延期なら延期でしょうがない。僕にとって五輪はいろんなチームとやれる大会。トゥーロン国際とか他の大会とそんなに変わりないですよ。もちろん五輪には出たいですけど、『1年延期』と言われても、世界と戦える場が1年ズレるだけ。そんなに深刻には考えていないです」と本人は淡々と言う。
海外志向の強い彼にとって、東京五輪はあくまで通過点。将来的にはUEFAチャンピオンズリーグやワールドカップといったより大舞台に挑んでいくつもりなのだろう。
「自分の幅を広げるプレー」
そのためにも、今回の中断期間をプラスに捉え、自分自身を一段階、二段階、ステップアップさせなければいけない……。田中碧は今、そんな気持ちで川崎のトレーニングに参加している。
「公式戦がない分、自分に対して割ける時間がすごく増えてきますよね。技術的なものもそうですし、体的にも頭的にも引き上げられる大きなチャンスかなと感じます。今の僕に必要なのは、試合を決定づけるプレー。ミドルシュートやゴールの部分もそうだし、インサイドハーフをやる機会もあるので、そこでのクオリティもより出さないといけない。自分の幅を広げるって意味でも、アンカーとインサイドハーフの2つのポジションでのプレー精度を研ぎ澄ませていければいいと思っています」
今季のJ1開幕戦となった2月22日のサガン鳥栖戦を振り返ってみても、川崎は一方的に攻め込みながら、相手の強固なブロックをこじ開けられず、スコアレスドローに終わっている。その試合に象徴される通り、守備を固めてきた相手をどう崩して点を取るかが、王者奪回への重要テーマと言っていい。
もちろん、レアンドロ・ダミアンや小林悠らFW陣の爆発、家長昭博、旗手怜央、三笘薫らサイドアタッカー陣の得点力アップは必要不可欠だが、田中碧本人が言うようにインサイドハーフやアンカーがゴールを挙げられるようになれば、課題解決の一助になる。彼がこの部分をブラッシュアップさせてくれれば、チームにとっても、日本代表にとっても大きなメリットがあるのだ。
「走ることが重要になる」
「鳥栖戦でもチャンスの時に出ていく作業だったり、自分たちがボールを取られた時に全力で戻って奪い返して再び前へ行くような作業は、より大事になってくるのかなと思います。今季のフロンターレはピッチの幅を沢山使っている分、スペースは生まれますし、自分がどのタイミングで走っていくのかは、崩す作業を進めるうえでもすごく大事。人それぞれスピードもタイミングも違いますけど、僕自身は走ることがより重要になってくるという自覚を持っています」
そうやってボックス・トゥー・ボックスのランニングを繰り返し、相手のスキを突いてゴールを狙っていけるようなダイナミックさを養えれば、日本代表定着の可能性もより高まりそうだ。今の田中碧は2002年日韓ワールドカップで2ゴールを叩き出した稲本潤一のような勢いと存在感が見て取れる。当時の稲本もここ一番でゴール前に飛び出して得点できる凄みを持っていた。しかも守備力は今の田中碧を上回るものがあった。
日韓大会の後にイングランドのフルハムで活躍していた頃の稲本のスケール感を、今の田中碧は超えられる可能性が大いにある。その領域に辿り着けば、欧州挑戦のチャンスもワールドカップ出場も自然とついてくる。東京五輪開催がどうなろうと、彼のキャリアにはあまり影響はなさそうだ。
等身大の21歳
「去年から今年にかけてはチームでも試合に出ましたし、代表にも参加して、ホントにいろんな経験をさせてもらいました。そういう中で自分のやれることをもっともっと増やしていかないといけないという気持ちが強まっている。スピードや質を上げられれば、もっと楽にプレーできると思うので、再開までの時間にそこを意識して取り組みたいです」
「再開がズレれはズレるほど連戦になるんで、タフさも必要になってくる。優勝するためにはチーム全員、誰が入っても同じサッカーができるようにならないといけないし、勝てるようにならないといけない。チームとしての擦り合わせもしっかりやっていきます」
どこまでも前向きで貪欲な田中碧だが、素顔は21歳の等身大の若者だ。コロナ騒動で感染防止のため、外出自粛になっていることについては「ホントはもっと外に出たいけど、クラブからも気を付けるように言われているので仕方ないです」と残念そうな様子も垣間見せていた。
エネルギーに満ち溢れる若者がオフの部分でエンジョイできないのなら、オンの部分でサッカーに邁進するしかない。苦しい期間の努力が必ず成果につながると信じて、田中碧には「日本の看板ボランチ」になるべく、レベルアップに勤しんでほしい。
(取材・文:元川悦子)
【了】