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Jリーグ 5年前

三浦知良、「衰えているけど、それをカバーできるのは…」。キングカズを駆り立てる原動力とは?【この男、Jリーグにあり/後編】

横浜FCでの16年目のシーズンを迎えた三浦知良は、2月26日に53歳の誕生日を迎えた。「20代や30代のころとは明らかに基礎体力やパワーも衰えている」と認める一方で、ここまでのキャリアを積み重ねてこられる理由が確かに存在する。(取材・文:藤江直人)

シリーズ:この男、Jリーグにあり text by 藤江直人 photo by Getty Images

「サッカーで何が一番大事かと言ったら…」

三浦知良
【写真:Getty Images】

【前編はこちら】

「もちろん走ることも大事ですけど、サッカーで何が一番大事かと言ったら技術だと思うので。体力の衰えというものは誰にでもあります。50歳を超えて、当然ですけど20代や30代のころとは明らかに基礎体力やパワーも衰えているけど、そういったものをカバーできるのが技術なので。技術をより大切にして磨きながら、その技術を支える最低限の体力をつけよう、と」

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 パワーとスピードが求められるのが1トップならば、培ってきた技術をより生かせるのがトップ下となるのだろうか。もちろん攻撃面だけではなく、相手ボールになったときには1トップの選手と横の関係に早変わりして、相手のボールホルダーを激しくチェックする「一の矢」を担う。

 そして、マイボールになるやセカンドストライカーに豹変する。昨シーズンの途中から22歳の松尾佑介、23歳の中山克広を左右の「翼」にすえる形で、横浜FCは飛躍を遂げた。しかし、スピードと突破力を生かしたサイド攻撃が奏功しても、相手ゴール前に人数がいなければ本末転倒になる。

「J1でもJ2でも、サッカーに対する自分の気持ちといったものはまったく変わらない。そのへんはいままで通りにサッカーへの思いをそのままピッチで表したい。もちろん年齢的なこともあっていろいろな目で見ている人もいると思いますけど、自分はピッチの上で全力を尽くして、もちろんゴールも決めたいし、その上でチームのために戦って勝利に貢献したい」

「あれを乗り越えられないようでは…」

 こう語っていたカズも、気持ちがはやるところがあったのか。年末に続いて年始もグアムで自主トレを敢行。シーズンへ挑むための身体をしっかりと作りあげた上で、1月中旬から参加した和歌山県内における1次キャンプのほとんどを、左臀部の違和感を訴えたカズは別メニューで終えている。

 宮崎県内に場所を移し、2月から開始された2次キャンプで再合流。同4日に行われた栃木SCとの練習試合で35分間プレーするまで回復したものの、6日に行われた紅白戦で再び同じ箇所を痛めてすまう。8日の帰京後には精密検査を受け、さらにセカンドオピニオンも求めている。

「いける、いけるという感じで紅白戦にも参加したなかで、また痛みが走ってしまって。紅白戦で8割ぐらいの力でプレーしていてもよかったのかな、とも思いましたけど、あれを乗り越えられないようでは、自分をもうひとつ上のステージへもっていくこともできない。精密検査の結果、思っていたよりもよかったというか、大事には至らなかったので、ちょっと安心しました」

 サンフレッチェ広島に0-2で屈した、2月16日のYBCルヴァンカップのグループリーグ初戦。そして天皇杯覇者・ヴィッセル神戸のホーム・ノエビアスタジアム神戸に乗り込み、1-1で引き分けた同23日の明治安田生命J1リーグ開幕戦で、カズはベンチ入りを果たせなかった。

「信じてもらえないかもしれないけど…」

 ヴィッセル戦を前にして全体練習には合流した。しかし、53歳になった同26日に敵地で行われる予定だったサガン鳥栖とのルヴァンカップから、感染拡大の一途をたどる新型コロナウイルスの影響を受けてJリーグは中断。3月に開催予定だったすべての公式戦も延期されることが決まった。

 横浜FCも日々の練習を原則非公開にしているが、スポーツ界全体が非常事態に見舞われているなかでもカズの立ち居振る舞いは変わらないだろう。カズよりも若く、柏レイソルなどでプレーした現役時代には対戦経験もある48歳の下平監督がこう語りながら、目を細めたことがあった。

「あのカズさんが試合に出るために努力する、ひたむきな姿を見せてくれることが、チームに対して一番いい影響を与える。他のマネジメントがいらないぐらいに、上手く回っていくんですね」

 誰よりも早くクラブハウスに姿を現し、練習の前後に入念すぎるほどに身体をケアし、誰よりも遅く家路に着く。もちろん練習でも、例えばランニングでも率先して先頭を走る。一連のサイクルを淡々と繰り返していくことだけが、指揮官が言及した「ひたむきな姿」ではない。カズ自身がこう語る。

「ちょっと信じてもらえないかもしれないけど、僕自身は上手くなりたい、必ず上手くなるという気持ちでずっとやってきました。わからないことがあったら、若手の選手たちにも『あのプレーはどうだった?』とか『どうしたらいいかな?』と聞くこともあるし、もちろんコーチ陣にも相談してきました。コーチ陣もみんな僕よりも若いけど、僕自身は年齢を気にしないというか、関係のないことなので。僕としては当たり前のことを繰り返してきただけですけど、みんなにとっては『ここまで貪欲にやり続けられるものなのか』と映り、自分たちも頑張らなきゃと思うのかもしれないですね」

見ることや指導することより…

 相談を持ちかけられた若手には前出の松尾や中山はもちろんのこと、自分の息子ほど年齢が離れた18歳のMF斉藤光毅も含まれる。いずれもカズが初代MVPを獲得した1993シーズンには生まれていなかった世代だ。練習場でロッカーが隣同士になった俊輔とも、常にサッカー談義に花を咲かせる。

「僕は単純に、というか、純粋にサッカーが大好きなんです。それもサッカーを見ることや自分が指導したりすることよりも、やはりプレーすることが一番好きで、その気持ち、情熱が衰えないんです。毎日の生活がもうサッカーなので。そこへ向かう自分の情熱がある限り、自分のなかでは戦えるかな、と思っています。すべてが僕の原動力になっています」

 ひたむきな姿勢の源泉を「情熱」の二文字に帰結させるカズは、ウイングからストライカーへ華麗な変貌を遂げた平成初期を再現させるかのように、令和が始まってまもないいまもストライカーからトップ下へと順応すべく、ピッチの内外で必死に努力を積み重ねている。

 そして、リーグ戦のピッチに立てば盟友・中山(当時コンサドーレ札幌)がもつ45歳2カ月1日のJ1最年長出場記録を8年ぶりに、ゴールネットを揺らせばジーコ(当時鹿島アントラーズ)がもつ41歳3カ月12日のJ1最年長ゴール記録を26年ぶりに、それぞれ大幅に更新する。未踏の領域に挑み続ける男が魅せるまぶしい背中はサッカーという枠を飛び越えて、日本全体を勇気づけていく。

(取材・文:藤江直人)

【了】

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