見つけにくい才能
DFBポカール準々決勝、60分にフィリップ・コスティッチからのクロスをボレーで合わせて2点目を決めている。鎌田大地は定位置となっている右サイドではなく、4-2-3-1のトップ下でプレーしていた。フランクフルトの得点パターンであるコスティッチのクロスはどんぴしゃ、鎌田は合わせるだけでよかった。ただ、右足を折りたたむようにしてインサイドできれいに合わせたところに能力の高さを見せている。
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サッカーはディテールで決まる。ほんの少し、ボールを叩く場所が違うだけで得点か大きく外れたシュートになるかが分かれる。それで試合が決まることも多い。アドレスの良さは見つけにくい能力だが、大きな才能だ。
鎌田はとらえどころがない選手だと思う。ボールタッチは的確、センスの良さを感じさせる。そのあたりはフランクフルトのチームメートも信頼しているようで、スローインは鎌田へ投げることが多い。周囲がよく見えている。判断もいい。180センチとサイズにも恵まれていてヨーロッパでも当たり負けしない。そして得点力がある。
つまり、何でもできるタイプ。そのかわりコレといった特徴もない。ものすごく速くもないし、ドリブルで強引に突破できるわけでもない。特殊なキックもない。日本人としてはサイズ感があるとはいえ、フランクフルトでは守備のCKのときにゴールの中にいる役割、空中戦は期待されていないわけだ。プレーぶりは至ってシンプル。ドイツでは外国人選手なのに、周囲に埋没してしまいそうにも思える。
得点によって再認識される鎌田の価値
長谷部誠がいないときのフランクフルトは、あまりスムーズなビルドアップができない。鎌田がDFの隙間に良いポジションをとっていても見過ごされている。こうなると、存在感を示すには得点に絡むしかないのだが、ここに来て得点力が上がってきた。
日本代表ではトップで起用されたが、鎌田の持ち味からいって1トップはあまり向いていないと思う。大迫勇也のように相手を背負って戦うのではなく、サイドや2列目から「するっ」と入ってきて点をとるからだ。さりげなく良い位置へ入ってきて、的確なタッチでゴールへ入れる。シンプルに簡単そうにやるのは、シュートもパスもドリブルも同じ。
さりげなさすぎて目立たないのだが、それが得点に直結すると周囲が価値を再認識する。
フランクフルトの1年目は出場機会が限られていた。ルカ・ヨビッチ(レアル・マドリード)、アンテ・レビッチ(ACミラン)がいてアタッカーの枠は埋まっていた。ベルギーのシント=トロイデンへの期限付き移籍でリーグ戦24試合12ゴールと結果を出してフランクフルトに戻っている。今季のEL、2ゴールしたアーセナル戦はウナイ・エメリ監督を解任に追い込んだ試合となったので、エメリに不満を抱いていたアーセナルのファンから“アーセナルの救世主”と呼ばれたという。
オールマイティーな鎌田だが、キャリア形成にとってやはりゴールが決め手になりそうだ。上手いけれども、わかりにくい。上手さを認識させるには、得点というわかりやすさが一番だろう。
(文:西部謙司)
【了】