疑問残る遠藤純の起用法
なでしこジャパンにとって、昨年のFIFA女子ワールドカップが終わってから初めての敗戦だった。
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アメリカ・フロリダ州オーランドで現地5日に行われたシービリーブスカップの初戦で、高倉麻子監督率いる日本女子代表はスペイン女子代表に1-3の完敗を喫した。
ワールドカップのラウンド16でオランダに敗れてから、なでしこジャパンは国際親善試合でカナダと南アフリカに勝利し、昨年12月のEAFF E-1サッカー選手権でも中国や韓国を破って優勝。だが、スペインには全く歯が立たなかった。
勝っていたことで何となく見逃されていた課題は、全てスペインによって白日の下に晒されたと言っていいだろう。彼女たちは東京五輪出場権こそ持っていないが、欧州でもイングランドやフランス、ドイツといった強豪に並びつつある新興国。
日本が世界の頂点に立ったのはもう9年も前のことで、今のなでしこジャパンはハッキリ言って弱い。自国開催の東京五輪におけるメダル獲得は、かなり厳しいと言わざるをえないだろう。世界と対峙するにあたって、攻守ともにチームとして最低限携えておくべき要素すら欠けているように見えた。
序盤からスペインにボールを支配され、攻守の切り替えでも圧倒された。そして8分にあっさりと先制点を奪われる。強かな相手は、日本のどこを突けば崩すことができるかを知っていた。
センターバックのアンドレア・ペレイラが最前線まで一気に縦パスを入れると、中盤からやや飛び出していたアレクシア・プテジャスがワンタッチで右に流す。そしてサイドに1対1ができると、右ウィングのマルタ・カルドナが一気にスピードを上げ、対面する遠藤純をフィジカルで振り切って並走していたFWジェニファー・エルモソに折り返した。
最後は背番号10の長身ストライカーが左に流し、起点になったプテジャスが詰めてゴールネットを揺らした。日本としては人数も揃っていたにもかかわらず、これほどまでにあっさりと崩されての失点は屈辱以外の何物でもない。
この1失点目の場面に限らず、なでしこジャパンは前線からのプレッシングに連動性がなく後手に回り、試合の中で起こりうるシチュエーションを想定した守備の約束事も共有しきれていなかったように見えた。
また、所属クラブではウィングとして活躍し、守備が苦手な遠藤を左サイドバックで起用にこだわり続ける高倉監督の采配にも疑問が残る。EAFF E-1サッカー選手権では何とかごまかせていたかもしれないが、欧米の強豪は“穴”を見逃してはくれない。明らかにプレーに迷いが見られる若手を、苦手なポジションに配置した指揮官の責任は問われるべきだ。
チームとしての共通意識がなく…
日本は前半終了間際に岩渕真奈がスーパーゴールで追いつくが、モヤモヤ感が消えることはなかった。ボールを持ってから次の選択肢を探してしまい、日本の攻撃は全体的にのっぺりとした停滞感が漂う。相手からすれば全く怖くなかっただろう。
高倉監督は後半開始から2枚替えを試みる。なでしこリーグ4年連続得点王のFW田中美南を投入し、遠藤が狙われた左サイドバックに宮川麻都を据えた。しかし、この交代でも流れを変えるには至らなかった。
後半もスペインに主導権を握られ、再開早々の48分に追加点を奪われる。杉田妃和のバックパスを受けた熊谷紗希が、出しどころなく慌てて杉田へのリターンを選ぶ。すると、そこをスペインの選手2人が狙っていた。ゴール前でボールを奪われ、後半から途中出場していたFWルシア・ガルシアにあっさりと得点を許してしまった。
ディフェンスラインの選手たちが前向きにボールを持っても、ビルドアップがスムーズに進まないという課題は前半から見られた。相手のプレッシングを想定した組み立てのルートが構築されておらず、ボールホルダーとの位置関係を見て周りの選手がポジションを取り直すような動きも見られない。
チームとしての共通意識がないためにスペインの積極的なプレッシングにパスコースを潰され、消去法でパスを出した先でカットされてカウンターを食らう場面が何度もあった。攻撃面が選手たち個々のアイディアや即興性に任されているのは明らかで、高倉監督がスペインを想定したプランを練っている様子もなかった。
明確な守備戦術がなく満足に守れなければ、ボールを奪ってもポゼッションすらまともにできない。なでしこジャパンが今、直面している現実だ。チームのメンバーはある程度固定化されているにもかかわらず、個人への依存度が高くチームとしての成熟が見られない。
もし組織としての共通認識や約束事が確立されていれば、日頃から世界最高峰の舞台で活躍している熊谷があれほど安易なミスを犯すことはないだろう。ハッキリとした狙いを持った崩しの形も見えてくるだろうし、田中の得点力や菅澤優衣香のキープ力、岩渕のテクニックとプレービジョンといった個性を共存させることもできるはずだ。今は個人任せの部分が大きく、個と個の掛け合わせで生まれてくるシナジーが全て限りなくゼロに近い状態にある。
指揮官は成果と課題を具体的に抽出できず
78分の3失点目の場面だった。日本はサイドに追い込まれてボールを失い、簡単にディフェンスラインの裏へ大きく蹴り出される。するとディフェンスラインを上げていたこともあって、抜け出してきたルシア・ガルシアに熊谷が追いつききれず。GKもかわされてダメ押しゴールを与えてしまった。
スペインは日本をサイドに追い出すことを狙っていただろうし、明らかにウィングにボールが入った瞬間に体を寄せて奪い切るところまでイメージしながら守備をしていた。にもかかわらず自分たちからハマりにいったようなものだった。
ピッチ上の選手たちだけで目の前の課題に対する改善策を完璧に実行できるわけではない。やはり外からの目線で、監督なりスタッフが解決策をある程度提示してあげることで思考やプレーが整理される部分も大きい。そして、何らかのプランを実行に移すにあたってはチームのベースとなる考え方や戦術が共有されていなければ、どこかでボタンの掛け違いが起こってしまう。
認知、分析、判断、実行というプロセスを高速で回転させなければならない中で、共通認識がなく、速度が11人ともバラバラだったとしたら、チームは組織として機能しない。これが今のなでしこジャパンが突きつけられた、東京五輪本番まで半年を切った時点での現在地だ。
試合後のフラッシュインタビューで「ミス絡みもあって、ダメな時間帯にダメな失点をしたというのが、ちょっと最後まで重くなっちゃった感じがます」「収まりどころがなかなかなくて、逆に相手は非常によく収まりがあったので、その辺で攻撃の厚み含めて連続性がうちにはなかったですし、その辺が原因かなと思います」と高倉監督は語った。
失点はミスで片付けても良いのか。なぜ収まりどころを作れなかったのか。攻撃の連続性が出ない要因は何か。これまでも同様の課題は出ていたのに、なぜ具体的な改善策を提示できていないのか。昨年夏のワールドカップ直前に1-1で引き分けたスペインとの差は大きく開き、もはや彼女たちの背中は遥か彼方だ。
高倉監督が「やってはいけないミスというところの集中度もそうですし、その辺はまた追求していきながら次の試合に向かっていきたいと思います」「収まりどころが1つあって、リズムよく連続でボールが繋がっていけば、自分たちのリズムになるかなというのもある。とにかくちぎれている。シーズン序盤というのもあってふわふわしてしまった」と、今後に向けた成果と課題について試合内容からアバウトにしか導き出せていない点も気にかかる。選手たちは必死に戦っているのに、組織としてのパワーに結びつかない。その原因はもっと深いところにあるのではないだろうか。
シービリーブスカップではアメリカ国内での移動も込みで中2日という強行日程をこなさなければならない。必然的に課題を修正するための時間は限られる。現地8日のイングランド戦までに、指揮官は何をチームに与えることができるか。まず、今のなでしこジャパンは東京五輪を前にして危機的な状況にあることを認識しなければならない。
(文:舩木渉)
【了】