左利きのような右利き
Jリーグ開幕年(1993年)に得点王になったラモン・ディアスは典型的なレフティで、「右足は歩くためにある」と言われていた。右足でキックフェイントをすることはあっても実際に蹴ることはほとんどなく、本人も「実際には蹴れなくても、蹴れるように思わせられればいい」と言っていたものだ。
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江坂任の利き足は右のようだが、左利きなのかと思える瞬間が多々ある。プレシーズンマッチのジェフ千葉戦では、オルンガの得点を生んだディフェンスラインの裏へ落とした柔らかいパスを左足で蹴っていた。利き足でないほうでも強いシュートを打つ選手はいる。ディアスはフリだけだったが、利き足でなくてもストレート系のボールぐらいは蹴れるものだ。ただ、微細なタッチを要求される柔らかいボールやボレーを利き足並に蹴る選手はそんなに多くない。
開幕戦となった北海道コンサドーレ札幌戦の先制点も左足だった。右のオルンガからパスを受け、左方向へ持ち出して左足でファーポストへぴしゃり。一連の動作がスムーズで、このときもまるで左利きのようだった。
続いて、ディフェンスライン裏へ落とすパスでオルンガのゴールをアシスト。江坂からオルンガへのこのパスは柏の定番になっている。結局、江坂、オルンガが2ゴールずつゲットして4-2で勝利した。
攻撃と守備で変化するタスク
柏の基本フォーメーションは4-1-4-1だが、札幌戦では攻守で変化している。
守備のときは4-4-2または4-2-3-1、江坂はトップ下の位置で守備をしていた。相手のフォーメーションにマッチアップさせるのがネルシーニョ監督の方針なのだろう。ただ、札幌の3-4-2-1に対してポジションを明確に変えたのは江坂だけなので、ここで調整していたことになる。さらに押し込まれたときには、左インサイドハーフとして自陣に戻る。攻撃では4-3-3に変化し、江坂は主に左のハーフスペースでカウンターの起点になっていた。
守備で重要なタスクをこなしながら、攻撃に転ずると常にフリーになっている。運動量だけのせいではなく、いつも良い位置にいて味方のパスを引き出していた。このポジショニングの良さは大きな特徴だろう。良い位置を占めて先手をとり、多彩な技術とアイデアで決定的なシーンを演出する。
右も左も蹴れて、175cmと長身ではないが空中戦も強く、得点力が高くてアシストもできる。攻撃をリードする典型的な10番タイプでありながら、守備の役割もしっかりこなすのは現代的な10番像といえるかもしれない。27歳、経験を積み、脂の乗りきった時期にあるようだ。
(文:西部謙司)
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