欠場者多発のボローニャ
ウディネーゼ戦を迎えるにあたって、ボローニャは大変な状況に陥っていた。
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故障者が多発している中、前節のジェノア戦ではMFイェルディ・スハウテンとDFステファノ・デンスビルが相次いで退場となる。そこにきて先週は新たにMFマティアス・スバンベリが左太腿の筋肉に肉離れを起こし、1ヶ月間の戦線離脱が決定した。
もともと左サイドバック2名の故障欠場が長引く守備陣はさらに人数が減り、中盤に至っては壊滅状態。さらに試合当日になって、GKウカシュ・スコルプスキまでもが風邪を引いて欠場となった。地元記者のなかには「新型コロナウイルスを理由に中止にした方がいいのでは」などと、笑えないジョークを言った者もいた。
結果ボローニャは、プリマヴェーラの選手をなんと7人も招集せざるを得なくなった。コーチングスタッフは別途、試合の雰囲気に順応できるよう彼ら向けにブリーフィングを実施したのだという。そして蓋を開ければ、FWとして起用されるはずの選手がずらり4人。もちろん攻撃的に行きたいという狙いではなく、人数がいなかったからそうせざるを得なかったという話だ。
こういうチーム事情であったことは、この日の冨安健洋のプレーを物語る上での重要な前提だ。チーム編成に苦慮し、組織守備も組み立てもままならず先制点を許した苦境の中、21歳の彼は奮闘する。試合中になんと3つのポジションをこなし、アディショナルタイムにFWロドリゴ・パラシオの同点ゴールをアシストしたのである。
冨安の攻撃力を生かすプラン変更
試合開始は、4-2-3-1の右サイドバックとして出場。しかし前述の通り、苦しいチーム編成の煽りを喰らって彼自身も苦戦した。
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左サイドバックにイブラヒマ・エムバイェが出場した関係か、3バック上となる最終ラインに残ってビルドアップに比重を置くという役割となっていた。だが、問題は守備。前線のラインナップがことごとく攻撃的で、中盤のボール奪取に奔走できるのもMFアンドレア・ポーリくらい。つまり対面の相手がカバーなく攻めにくるので、冨安は後手に回った。22分、ウディネーゼの左WBケン・セマの対応に遅れると、突破を防げず体で押し込まれる。そのままクロスを許し、ピンチを招いた。
組み立ても対策された。冨安がボールを持てば、ウディネーゼのFWステファノ・オカカやFWケビン・ラザーニャのどちらかがサイドに流れて、執拗にプレスをかけてくる。前方には蓋をされ、縦へのパスコースは遮られた。今シーズンのウディネーゼには屈強な選手が多く、しかも5バックシステムのもと執拗にスペースを消してくる。そんな苦しい状態ではパスミスも目立ち、通したら通したで味方がボールロストを連発。33分にはセットプレーから相手に先制を許すなど、チームとして苦しくなった。
しかし、ジリ貧の中でも冨安は奮闘する。47分、相手の右クロスに反応し、正確なポジショニングでオカカの目の前に立ちはだかり、ゴール直前でクリアに成功する。そうしてピンチを切り抜けて行った時、シニシャ・ミハイロビッチ監督らコーチングスタッフはあるタスクを彼に課した。最初のポジションチェンジだ。69分、エムバイェとポジションを入れ替えさせ、左サイドバックに移動させたのだ。
それには理由があった。なんとそれは、冨安の攻撃力を活かすという狙いだったのだ。試合後の会見でエミリオ・デ・レオ戦術担当コーチはこう説明した。
「あの時まで、右で冨安はラザーニャらにプレスを掛けられ、エムバイェは左で攻め上がっていけていなかった。ならば左右を入れ替えようと。ウディネーゼの右のイェンス・ストリーガー・ラルセンは深いポジションを取っていた。ならばエムバイェを右でラザーニャと相殺させつつ、左で冨安を自由に上がらせようと考えた」。
確かにそこから、多少攻撃に流動性が出てくる。冨安が左サイドで高い位置を取るようになったことで、相手の最終ラインが横に広がるようになった。もっとも展開はそれでも動かない。そこでミハイロビッチ監督は、さらなる手を打った。
18歳のFWムサ・ジュワラを投入して左サイドに置き、冨安を再び右に回す。しかし4バックのサイドバックでも3バックの右でもなく、なんと3-4-3の右MFだ。点が取れるFWリッカルド・オルソリーニをゴール中央へと絞らせる分、右から冨安を攻めさせようという運びだ。
「冨安は素晴らしいクオリティを示してくれた」
彼は期待に応えた。正確な縦パスを出して攻撃を加速させ、縦へと攻め上がって鋭いクロスを放つ。そしてアディショナルタイムで、美しくかつ点につながるプレーをやってのけたのだ。
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チームが左から展開すると、前線のオープンスペースを見つけて静かにポジションを移す。するとそこに、FWムサ・バロウからパスが流れてきた。前線でポジションを取る二人のFWの姿を視野に入れた冨安は、左足ダイレクトで合わせる。柔らかいタッチのキックから、山なりのボールがフワリと放たれた。
これにオルソリーニがオーバーヘッドで合わせにいくも、空振り。冨安は思わず頭を抱えるが、結果的にスルーになった先にはロドリゴ・パラシオが詰めていた。これを合わせてゴールに流し込む。苦しい台所事情のボローニャに、勝ち点1をもたらした。
どのポジションをとっても人数不足で、リザーブメンバーにも駒が十分になかったこの日のボローニャ。そんな中でミハイロビッチ監督が細かな戦術変更に成功したのは、冨安の存在があってのことだった。「冨安は素晴らしいクオリティを示してくれた。ありとあらゆるポジションをやってくれた」とデ・レオコーチは会見で感謝を代弁していた。
戦況を読み、戦術に対応する理解力の高さ。そして責任を持って攻撃のイニシアチブを取る意志の強さ。窮地のチームを支えた若手の筆頭として活躍をした。期待の日本代表センターバックが守備を学ぼうと挑んだ地で、攻撃能力を開花され用いられているとは数奇なものである。だがとにかく冨安は、もうすっかりチームの重要なピースの一つになっている。
(取材・文:神尾光臣【イタリア】)
【了】