メッシ覚醒。リーガで7度目の1試合4発
カンプ・ノウに怒りのエネルギーが満ちていた。
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現地22日にラ・リーガ第25節が行われ、バルセロナはエイバルを5-0で粉砕した。先頭に立ってチームを勝利に導いたのは、リオネル・メッシだった。
時に異星人に例えられることもある不世出のスターは、以前に比べて今季のゴール数そのものが少なめで、直近のリーグ戦で4試合ゴールなしは6年ぶりのこと。だが、そういった“限界説”的なものを、エイバル戦のパフォーマンスで全て払拭した。
5試合ぶりに挙げたゴールは、圧巻のドリブルからだった。エイバル守備陣の中央を猛スピードの突破で切り裂き、左足で冷静にフィニッシュ。DFたちは完全に置き去りにされ、GKも為す術なしのメッシらしい豪快な先制点だ。
37分にも再びメッシが稲妻のごとき輝きで、エイバルのゴールを陥れた。再び中央でドリブルを始めて一気にスピードを上げると、DFを抜くというよりは置き去りにするという表現がぴったりな、一瞬で2点目を決めて見せた。
その後、相手のミスを見逃さずにもう1点加えたメッシは、前半だけでハットトリックを達成。最終的には4ゴール目も奪い、5-0の勝利における紛れもないヒーローとなった。怒りに満ちたカンプ・ノウで結束の中心にいたのは、バルセロナの象徴としてのメッシだった。
なぜメッシから怒りのようなものを感じたのか。理由はエイバルを率いるホセ・ルイス・メンディリバル監督の発言にあったように思う。これから中2日でチャンピオンズリーグ(CL)のラウンド16のためイタリアに飛び、ナポリと対戦するバルセロナは大一番に向けて主力温存の可能性が伝えられていた。
しかし、メンディリバル監督はその噂を否定。そのうえで「私はメッシが出場しないとは思わない。あの野郎(かなり汚い言葉で)は試合中に休みやがるんだ。彼はいつ試合に参加して、いつ休むかをわかっている。もし彼が1日オフを与えられて試合をスタンドから眺めることになったら、最悪の時間を過ごすだろうし、(試合に出るより)もっと疲れるだろうね」と皮肉ったのだ。
邪推だが、メッシもこの発言に「てめえ、俺のことをバカにしやがって」と、試合を通して求められる仕事をし続けられることを証明しようとしたのではないだろうか。その結果がラ・リーガでは通算7度目の1試合4得点。そして、エイバルは2度目の犠牲者となった。
牙を抜かれたメンディリバル
もちろん屈辱的な大敗を喫し、またしてもバルセロナからクラブ史上初勝利をもぎ取ることに失敗したメンディリバル監督も怒っていた。試合中、失点するたびにベンチで感情をあらわにして悔しがる姿が中継映像に抜かれていた。
今季のエイバルは、戦術的に重要だった主力選手が数多く引き抜かれて武器としていたサイド攻撃の威力を失っている。バルセロナ戦に1トップで先発したFWセルジ・エンリクは、リーグ戦でいまだ1ゴールしか挙げられておらず、乾貴士も同様に1ゴールのみだ。24試合を終えてチーム全体で22得点はあまりにも寂しい。
バルセロナ戦のエイバルは攻守に連動性を欠き、ボールホルダーが孤立してしまう場面が多々見られた。周りの選手との距離が遠く、次の選択を迷っている間に相手選手に囲い込まれてボール失って、また守備に戻るの繰り返しだ。そして守備陣も連係が悪く、とにかくどうにかして自分のところで守らなければ…でもミスはしたくない…という意識が働くからか、悪い時の典型のようなチームによく見られる消極的でその場しのぎな対応が目立った。
試合後のメンディリバル監督が語った言葉からは、本来の姿を取り戻したメッシに対するリスペクトと降参の意が感じられた。バルセロナに屈服させられ、王であるメッシからこっぴどい仕打ちを食らったのだった。
「私は世界中からのメッシに対するリスペクト(と同じもの)を持っている。私を知っている人なら誰でも知っているよ。彼は休む方法を知っている。どうあるべきかもわかっている。彼は最初のゴールの場面まで、ほんの少ししかボールに触らなかった。そしてボールに触ると、(我々に)大きなダメージを与えた。彼は私が行ったことを悪く感じてはいない。これまでのところ奇妙なのは、彼はたくさんとどめを刺してきたのに、ゴール数が少なかったことだ」
本能が呼び覚まされたメッシを支えるキャストたちも、好パフォーマンスを披露した。中でもバルセロナの4点目と5点目をお膳立てした新加入のデンマーク代表FWマルティン・ブライスワイトは、目の肥えたカンプ・ノウのファンに良い第一印象を残すことに成功しただろう。
「夢が叶った。全ての僕の新しいファンのみんなと喜びたい。僕ができる限りの全てを尽くそうと思っている。バルセロナでゴールを決めるのは簡単ではない。けど、最低限のことはしたと思う。将来的にゴールを決められることに疑いはないよ」
会長主導のSNS工作に批判が集まり…
ブライスワイトは試合後にバルセロナデビューの喜びを語った。「ファンのみんなは素晴らしい歓迎をしてくれた。ここにいられることを誇りに思う」と語る28歳は、わずか1日の練習を経てのデビュー戦を終えてチームメイトたちにも受け入れられ始めている。
イバン・ラキティッチは「彼は大きな力を持っていて直線的なプレーをするストライカーだ。チームに貢献しようとしているし、グッドガイだね。僕たちは彼を歓迎する」とエイバル戦後に話したという。
カンプ・ノウに集まったファンはブライスワイトを受け入れたが、別の方向にははっきりと怒りを向け、受け入れない姿勢を打ち出した。試合前には白いハンカチを振っての抗議活動も。怒りの矛先は、バルセロナのジョゼップ・マリア・バルトメウ会長だ。
スペインのラジオ局『カデナ・セル』の報道によって暴かれた、同会長らクラブ幹部によるSNSでの情報操作問題が発端だ。彼らは秘密裏にI3 Ventures社と契約し、ツイッターなど各種SNSにおいてインフルエンサーを使ってメッシやジェラール・ピケら主力選手たちに対する批判的な投稿を拡散させたという。
その計画に関する資料なども見つかっており、バルトメウ会長は否定するが、SNS工作は実際にあったものと見られている。ピッチ上の選手たちへの愛は変わらなくとも、ファンはバルトメウ体制に愛想を尽かしたようだ。それが「白いハンカチ」の意味である。
ラキティッチは「ファンは彼らが望むことを表現する権利がある。僕たちは彼らの声援を感じている。彼らが応援してくれること、応援してくれたことが重要だ」と語った。抽象的な表現ではあるが、うがった見方をすればフロントへの批判的な発言にも聞こえる。
大エースの覚醒によって大勝を収めたバルセロナだが、エリック・アビダルSD(スポーツディレクター)によるメッシ批判や会長主導のSNS工作など、クラブ内部から噴出した問題によって怒りが渦巻き、分断の危機にある。
中2日で挑むCLのナポリ戦の直後には、宿敵レアル・マドリーとのエル・クラシコとバルセロナにとって重要な試合が続く。その後も欧州制覇とリーグ優勝に向けて大事な戦いが待っているだけに、現場とフロント、ファンが再び一体となるきっかけを見つけたいところだ。エイバル戦のカンプ・ノウではまず、メッシの存在によってファンと選手の結束が強まったのは間違いない。
(文:舩木渉)
【了】