J1優勝も…日本代表で突きつけられた現実
横浜F・マリノスは昨季、15年ぶりのJリーグ制覇を成し遂げた。その中で目覚ましい成長を見せて快進撃の立役者の1人となったのが、遠藤渓太だ。東京五輪での活躍も期待される22歳は、途中出場も多かったがキャリアハイとなる7得点7アシストを記録して大きく飛躍した。
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しかし、シーズン終了後に大きな挫折を味わうことになる。日本代表として参戦したEAFF E-1サッカー選手権の最終戦、優勝をかけた韓国代表戦では先発起用されるも前半45分間のみで交代。その後にU-23日本代表として挑んだAFC U-23選手権ではチームがグループリーグ敗退の屈辱を味わう中、遠藤には1分も出番が与えられなかった。
「今まではアンダー代表とやることが多くて、その中では自分がウィングバックで出ていても、守備の部分で課題が浮き彫りになりづらかった部分が多かった。アジアの戦いでは自分の守備の量が少ないから、ごまかせていた部分があるかもしれないけど、やっぱりE-1で韓国代表とやってチンチンにされて、目の前のことにいっぱいいっぱいになっちゃったし、これが強いチームとやった時の自分の出来なんだなと感じました」
「E-1が全てだったんですかね。結局どんなに(Jリーグで)活躍しても、E-1の日韓戦でのパフォーマンスは悪かったし、そこが全てだからこそ、自分の立ち位置的なものも1回ゼロになったわけだから。中途半端な結果ではもう呼ばれないと思うし、だからこそ開幕してから数字にこだわりたいなと思います」
宮崎での2次キャンプからマリノスに合流した遠藤は「難しいと言う言葉で終わらせるつもりはない。自分の実力不足」と現実を受け止め、まっすぐな目で言葉を紡いだ。いくらJリーグで結果を残そうとも、役割の違う代表では求められるものが変わる。そして毎回「選ばれる」立場の代表で生き残るためには、常に最高のパフォーマンスを披露し続けなければならない。
「悔しかったですし、何でだよっていう気持ちに誰だってなると思うんです。(AFC U-23選手権で1分も出られなかった)菅ちゃん(菅大輝)もそうだし。別に何かを否定するわけでもなく、これが自分の実力であり、積み上げてきたものだと思うしかない。出ていた選手は出ていた選手で悔しさが残ったと思うんですけど、自分や菅ちゃんはまた違った悔しさを味わった。だからもっともっとJリーグで突き抜けた結果を残さなければダメなのかなとは思いました」
またも激しい定位置争いの中へ
迎えた新シーズン、遠藤は再び激しいポジション争いに身を置いている。昨季序盤はマルコス・ジュニオールと、後半戦はマテウスと争ったが、今季はアンジェ・ポステコグルー監督がエリキの左ウィング起用を試しており、遠藤は三たび強烈な武器を持つブラジル人アタッカーと比較される立場になった。
今月8日に行われたFUJI XEROX SUPER CUPのヴィッセル神戸戦では、エリキが左ウィングで先発出場。だが序盤に右ひざに打撲を負ったことでパフォーマンスが低下。後半から交代もあってセンターFWに回り、遠藤が左ウィングに入った。
するとマリノスが劣勢だった流れが大きく変わり、遠藤もチームの3点目をアシストした。「あそこだけだった。もうちょっとできた」と悔いは残ったが、積極的に裏のスペースを狙い、左サイドを活性化したプレーは改めて自らがマリノスに必要な存在だと証明するのに十分なものだった。
そして続く12日のAFCチャンピオンズリーグ(ACL)のグループリーグ初戦、韓国王者・全北現代モータース戦で先発起用された遠藤は、1ゴールと相手のオウンゴールを誘発する絶妙なクロスで2-1の勝利に大きく貢献。マン・オブ・ザ・マッチにも選ばれ、昨年の結果が偶然でないことを結果で示して見せた。
「ゼロックスでは負けたこと以上に内容も良くなくて、そこを踏まえた中での次の試合は大事だったと思うし、それがスタートから出てていたと思います。個人としてもここで結果を残さないと生き残れないと思って臨みましたし、チャンスは自分で掴むもの。ゴールという結果で示せたのかなと思います」
マリノスの育成組織から2016年にトップチームに昇格した生え抜きの遠藤は、1年目から継続的に出場機会を与えられてきた。しかし、とにかくゴールが決まらない。シュートがゴールの枠内に飛ばない。それはチームメイトたちからもイジられていたほどで、一昨年までの3年間でリーグ戦64試合に出場しながら、わずか4得点しか奪えていなかった。
それが劇的に改善されたのが昨年のこと。練習を続けてきた左足の精度も著しく向上し、縦へのドリブル突破だけでなくカットインしてのシュートや、ゴール前に侵入してのワンタッチでのフィニッシュなど得点パターンも増えた。しかも、昨季の7得点は全てリーグ後半戦に生まれ、途中出場の短い時間でもゴールやアシストを記録できるようになったことが優勝を大きく後押ししたのは間違いない。
「結局、外してきたことも全部無駄じゃないと思っているし、いつか試合に出ていれば点は取れると思う。それ以外の部分でも成功体験だったり、あとはやらなきゃいけないという気持ちだと思うし、チームのみんなが喜ぶ姿を見たいから、そのために頑張らなきゃいけない。それで何が評価されるかといったら、やっぱりゴールだと思うし、自分の中で変わってきている部分がある。それがいいサイクルで回っているのかなと思います」
プロ5年目、J1で100試合出場も目前
代表では挫折を味わったが、自らのプレーへの自信は失われていない。そのうえで遠藤は「ぶっちゃけ言うと、まだみんなに認められるような選手じゃない。サポーターからもそうだと思うし、選手からもそうだと思う」と、貪欲にゴールやアシストといった結果を追い求めていく。その先に、3年前のU-20ワールドカップ出場から明確に意識するようになった東京五輪出場という夢も見えてくると理解している。
そして今季は、J1リーグ通算100試合出場も目前だ。プロ5年目にして、あと3試合で三桁の大台に乗る。マリノス生え抜きとしてファン・サポーターの大きな期待を背負っていることを、今まで以上にひしひしと感じながら遠藤はピッチに立つ。何もできなかった1年目の頃の自分とは違うことを証明するために。
「(齋藤)学くんがボールを持った時とか、すごかったじゃないですか。観客の『学が何かしてくるんじゃないか』みたいな。それは自分が出ていた時もすごく感じていたし、学くんに対する期待とかが反映されている、サポーターから出ているなと思っていました。今のテルくん(仲川輝人)もそうだと思うし、そういうところに少しでも近づければいい。
あの頃はやっぱり若かったですけど、当時は若手で試合に出ている選手って、マリノスにはなかなかいなかったじゃないですか。それゆえの歓声みたいなものはあったかもしれないけど、今はそれとはまたちょっと違うものに応えたい。
本当にあの時は(自分のことで)いっぱいいっぱいだったし、今みたいなことを言えるような状況ではなくて。難しかったというか、苦しかった。でもその時、逃げずに、ひたむきに取り組んだつもりでいる。それが今になって大事になってきたのかなと思います」
遠藤の原動力になってきたのは、不遇の時でも何とか見返してやる、試合に出て結果を残して認めさえてやるという反骨心だったのかもしれない。思えばどのチームでも常に追う立場で、今もそう。ずっと追いかけている存在や、争っている相手がいながら戦ってきた。そこに昨季は自らの力の証明となる結果がついてきて、J1優勝も経験できた。
「変わってきているなと思うことはたくさんある。自分がプロになって最初の頃に比べたら、チームメイトからの期待というか、『何かしてくれ』というサポーターからの期待だったりを感じる。そういうものに応えたいという気持ちはすごくある」
愚直に前だけを見て突き進む姿勢は今季も変わらない。誰もが認めざるを得ない結果を残して、東京五輪に出て、マリノスの連覇やアジア制覇に貢献するという明確な目標もある。だからこそ遠藤がゼロックス杯で神戸に敗れた後、去り際に呟いた「ライバルがいないと活躍できないのかもしれないですね、逆にね」という言葉が強烈に印象に残っている。
「自分はどんな状況であれ変わらない。気持ちを力に変えられるタイプだと思う。だから何もなくなった時に自分がどうできるか。もっともっと上にいけるんじゃないかと思います」
ボールの周りには仲間がいて、ライバルがいて、相手もいる。1人でドリブルしているだけでサッカーが上手くなることは決してない。
(取材・文:舩木渉)
【了】