冨安健洋は「意欲に満ちている」
――まだゴールは決めてないけど、こんなに早くイタリア語を習得するなんて1つのゴールだね。
「今、僕は前よりもイタリア語がわかるようになった。でももっとイタリア語も、イタリアサッカーも学んでいかないといけない。もっと上達したいので、これを続けていくだけです」
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14日、ボローニャ対ジェノア戦の前日記者会見に、冨安健洋が現れた。会見には白血病の治療上人混みを避けるシニシャ・ミハイロビッチ監督の代理として、エミリオ・デ・レオ戦術担当コーチと他1名のチーム関係者が当たることになっていたが、この日は冨安健洋に番が回ってきた。会見の様子はクラブのSNS上でも生中継された。冒頭は、その質疑応答の一部だ。
ボローニャ移籍から7カ月、これまで地元記者には英語で取材対応をしていたが、この日は堂々とイタリア語で受け応えをしていた。言語習得における積極性は、異国の現実に溶け込もうとする姿勢の指標となるものの一つだ。同席のデ・レオコーチは「イタリア語の上達でご覧いただいた通り、彼には素晴らしい吸収力がある。謙虚で学ぼうという意欲に満ちている」と褒めていた。
チームは3連勝。冨安自身も右サイドバックのファーストチョイスとしてSPAL戦、ローマ戦のアウェイ戦2勝に貢献した。チーム状態は良く、順位の上でも7位とUEFAヨーロッパリーグ出場権を射程に入れられる範囲だ。冨安自身も「ローマ戦のように戦っていければ」とイメージを描いていた。アウェイでも変わらずに攻撃的なサッカーを展開するチームの中にあって、優れた視野で後方からパスを回す冨安の能力は不可欠なものになっている。
手痛いミスと退場処分
その中にあって、彼の語った課題とは「ボールを保持していない守備。チームは失点が多いから、僕自身ももっと上達して、ゴールを守れるようにしていかないといけない」。しかし18位に沈むジェノアには、そこを突かれてしまった。退場者が2人も出たとはいえ、ボールを支配しながら終わってみれば0-3の大敗という結果となった。
序盤のリズムは良かった。チームは押し気味に試合を運び、冨安も積極的に組み立てに関わった。右ウイングのリッカルド・オルソリーニをゴール方向に張らせるため、攻撃では自らが右サイドの高い位置に飛び出す。そこにパスを呼び込んで展開をセットし、パスを回して攻撃のリズムを作った。
広い視野と、両足を遜色なく使うことのできる技術で、鮮やかにチャンスをつくる。26分には中盤からのサイドチェンジに反応すると、左足を使ってダイレクトで縦パスを出す。ムサ・バロウに通してチャンスを作った。
ところが29分、優勢に試合を続けていたはずのボローニャは、一瞬の隙を突かれて失点をしてしまう。セットプレーの守備から攻撃へと転じたところでラインが整っておらず、相手の左サイドで選手がフリーになった。クロスが放たれ、中央で合わせてゴール。この際冨安は中央で別の選手をマークせざるを得なかったので彼の責任ではないが、守備陣として手痛いミスを犯してしまった。
するとその6分後には、MFイェルディ・シャウテンがレイトタックルで足の裏を見せてヴァロン・ベーラミの足をスパイクしてしまい、VARによる助言とオンフィールドレビューの末に退場となってしまった。
一人少なくなり、中盤のプレー強度が下がったボローニャは、前半終了間際にアントニオ・サナブリアのドリブルシュートを許してこれで2失点目。一人少ない状態で2点のビハインドと、非常に厳しい状況となった。
スケールアップの余地
こうなると、残留に向けて後のない戦いを仕掛けてきたジェノアにとってはしてやったりの展開だ。冬の補強ではなりふりかまわずベテランを集め、ダビデ・ニコラ監督のもとタイトな中盤の守備を敷く。数的優位になった分は守備に回し、自陣を固めてパスを出させなければシュートも打たせない。冨安も後方で、パスの出しどころに悩むシーンも多かった。
攻撃に来ない相手を前に、ミハイロビッチ監督は後半15分にDFを一枚削り、3バックのような戦術で攻めに行くことを決断。その時に冨安が残され3バックの右としてプレーしたことが、彼の攻撃能力が買われていることの証でもあった。しかし、試合の流れは変えられない。試合終盤にはDFステファノ・デンスビルがエリア内でステファーノ・ストゥラーロを倒し、2枚目のイエローカードで退場。そこでジェノアに与えられたPKもドメニコ・クリーシトにきっちりと決められ、万事休すとなった。
タイトな組織守備を準備してきた相手に対し一人退場、それも最近の数試合でアンカー役として攻守の切り替えを担っていたシャウテンだったという時点で、ボローニャにとっては難しい試合となった。アウェイでも変わらず攻撃的なサッカーを展開していたボローニャだったが、守備陣として一瞬の集中力の欠如が悔やまれる結果となった。
その中で冨安は、失点に絡んだわけではなかった。攻撃で見せ場が作れなくても、相手の人数が常に多かったことを考えれば仕方のないところだろう。もっともチームを勝たせるためにはプラスアルファが望まれるところ。ストゥラーロやクリーシトに抜かれてピンチを作っていた場面もあった。
まだまだスケールアップの余地があるということは、冨安自身がよくわきまえている。ヨーロッパリーグ出場権獲得などのさらなる高みに、チームともども向かうことができるか。3連勝の後で、改めて課題があることを示された格好となった。
(取材・文:神尾光臣)
【了】