セティエン監督就任後、初の黒星
敵地メスタージャへ乗り込んだバルセロナは73.5%のボール保持率を記録し、バレンシアの倍となる14本のシュートを放った。しかし、終わってみればスコアは0-2。キケ・セティエン監督就任後、公式戦3試合目にして初黒星を喫した。
「選手たちがきちんと解釈していないことがある。もしくは、我々がうまく説明できていないかだ」
指揮官はバレンシア戦後に『バルサTV』でこのように試合を振り返っている。前指揮官のエルネスト・バルベルデとは異なるスタイルに、まだ選手たちが適応できていないことは、試合のパフォーマンスが物語っていた。
13日にバルセロナの監督に就任したセティエンは、初陣となった19日のグラナダ戦で勝利を収めた。続く22日のコパ・デル・レイ(スペイン国王杯)は、セグンダB(実質3部)のUDイビサを相手に先制される苦しい展開となったが、終盤にアントワーヌ・グリーズマンが2得点を挙げてチームの窮地を救った。
対するバレンシアは、スーペル・コパ準決勝でレアル・マドリーに1-3で敗戦。続くマジョルカ戦では前半のうちに3失点し、1-4の大敗を喫している。ミッドウィークにはセグンダBのログロニェスを相手に最少得点で勝利を収めたものの、決して良い流れとは言えない中で首位バルセロナを迎え撃つこととなった。
バレンシアは中盤の要となるMFダニエル・パレホを累積警告による出場停止で欠いたが、ケガ明けのFWロドリゴはベンチに入った。中盤センターにはMFジョフレー・コンドクビアとMFフランシス・コクランが入り、FWマキシ・ゴメスとFWケビン・ガメイロが最前線に入る4-4-2の布陣でこの試合に臨んだ。
孤軍奮闘のテア・シュテーゲン
前述のボール保持率が物語るように、バルセロナがボールを握る展開で試合は進んだ。グラナダ戦と同様に左サイドバックのDFジョルディ・アルバとFWアンス・ファティがタッチライン際まで開き、DFセルジ・ロベルトはセンターバックとともにDFラインに残る。ブスケッツを起点に多くのパスをつないだが、なかなかフィニッシュに持ち込むことはできなかった。
コンパクトな守備ブロックを敷いてカウンターからチャンスを狙うバレンシアに、決定的なチャンスが訪れたのは10分だった。コンドクビアの縦パスはDFジェラール・ピケに阻まれたが、これを拾ったMFカルロス・ソレールが左サイドに展開。これに左サイドバックのDFホセ・ルイス・ガヤが受けてペナルティーエリアに侵入すると、ピケに足をかけられて倒される。ピケにはイエローカードが提示され、バレンシアにPKが与えられた。
キッカーを務めるのは今季リーグ戦7ゴールを挙げているゴメス。右を狙ったシュートは決して悪いコースではなかったが、GKマルク=アンドレ・テア・シュテーゲンが横っ飛び一番でこれを弾き、絶体絶命のピンチを脱した。
ゴメスは29分に左サイドからゴールを狙ったが、ボールはテア・シュテーゲンが弾いてクロスバーに当たる。これをソレールが頭でつないでガメイロが左足を振り抜くが、再びテア・シュテーゲンがこれを掻き出してコーナーキックに逃れた。
31分には相手のクリアを拾ったコクランがミドルレンジからゴールを狙うが、これもテア・シュテーゲンがセーブ。孤軍奮闘の守護神は31分までに5つのセーブをマークし、バレンシアの決定機をことごとく防いだ。
メッシへの依存
試合はスコアレスのまま前半を終えた。45分間でバルセロナが記録したシュートは3本。すべてFWリオネル・メッシが放ったもので、うち2本はFKから直接狙っている。流れの中からのシュートは4分に放ったミドルシュートのみで、これも相手にブロックされている。
バレンシアのキックオフで始まった後半早々にスコアは動いた。左サイドから入れたガヤのクロスは相手に弾かれたがこれをゴメスが拾うと、右足を思い切り振り抜いたシュートはJ・アルバの足に当たってゴールネットを揺らした。前半にビッグセーブを連発していたテア・シュテーゲンも、これには成す術なし。記録はJ・アルバのオウンゴールとなり、48分にバレンシアが先制点を挙げた。
前半同様にアタッキングサードでの停滞感を拭えないバルセロナは、56分にMFアルトゥールを下げて、MFアルトゥーロ・ビダルを投入する。ボックス内で良さを発揮できるビダルは、敵陣で積極的にボールに絡んでチャンスを演出する。効果はすぐに表れ、3分間で2本のシュートを放ったものの、同点とすることはできなかった。
FWルイス・スアレスをケガで欠くバルセロナは、フィニッシュの部分をメッシに依存してしまった。放った14本のシュートのうち、実に11本がメッシによるもの。しかもそのほとんどがPAの外から放ったもので、この90分間でゴールを奪うことはできなかった。
各駅停車のティキ・タカ
1点をリードするバレンシアは、交代カードを切りながら時間を消費し、機を見てカウンターを繰り出した。途中交代で入ったロドリゴはスローインを受けて右サイドを突破する。ゴール前でフリーになっているゴメスにパスを送ると、ゴメスは右足を振り抜いてファーサイドを狙う。テア・シュテーゲンは一歩も動けず、77分にバレンシアに追加点が入った。
ゴメスは前半にPKと決定機をビッグセーブによって阻まれたが、実質2得点で面目躍如の働きを見せた。
バルセロナに2点を追う力は残っていなかった。MFイバン・ラキティッチとMFアレックス・コリャドを入れたものの反撃は叶わず。データサイト『WhoScored』によるパス成功率は92%を記録し、881本のパスを繋いだが、公式戦では6試合ぶりにノーゴールに終わった。
アタッキングサードでの崩しこそが、61歳の新指揮官が直面する課題だろう。初陣では実に1005本ものパスを繋いだが、得点したのは相手が退場者を出した後。11人の相手に対しては、リーグ戦で未だ得点を奪えていない。
パスを繋げども、そのほとんどが各駅停車だった。パスを出して、受けて、探して、……。探している間にスペースは消される。4-4のブロックを敷かれて手詰まりになるのはグラナダ戦と同様。相手のブロックを動かすことができないパスは、あまり意味を持っていなかった。指揮官の言う「ちゃんと解釈していない」証左だった。
また、トランジションで目立っていたのはバレンシアだった。ボールロスト時の即時奪回はポゼッションサッカーの肝となるはずが、この試合ではそれがうまくいかず。バレンシアに繋がれて、リトリートせざるを得ない場面も多かった。
新体制の暗中模索はしばらく続くかもしれない。しかし、1か月後にはUEFAチャンピオンズリーグの決勝トーナメントが始まり、直後にはエル・クラシコも控えている。セティエンとしては、そこまでに勝ち点を落とすことなく、適当な形を見つけなければならない。余談だが、奇しくもシャビ・エルナンデスはこの日、40歳の誕生日を迎えている。
(文:加藤健一)
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