初のCLで躍動
南野拓実は、前半戦で最も活躍した日本人選手と言っていいだろう。
南野は昨夏、オーストリア・ブンデスリーガで5度目の開幕を迎えた。ザルツブルクの指揮官には、同じレッドブルグループのライプツィヒでラルフ・ラングニック監督の右腕を1年間務めたジェシー・マーシュが就いた。
開幕から公式戦3試合連続ゴールと、幸先の良い滑り出しとなった。ラングニック戦術のベースとも言えるようなエッジの利いたサッカーを展開するザルツブルクの中で、南野はしっかりと存在感を示した。
リーグ戦では5得点6アシストの活躍で、ザルツブルクでの5年間ではキャリアハイの数字を残している。これまではベンチスタートが多かった欧州カップ戦だったが、今季は6試合すべてに先発。マーシュ監督の下で主力選手の1人として存在感を放った。
クラブとして1994/95シーズン以来の出場となったUEFAチャンピオンズリーグ(CL)でも、南野は確かな爪痕を残した。とりわけ、伊東純也との日本人対決となった第1節のヘンク戦は衝撃的だった。
南野はこの試合で4-2-2-2システムの2列目右サイドでプレー。立ち上がりから2トップとともに高い位置からプレッシャーをかけて相手の自由を奪っていった。
すると開始2分、バイタルエリアでボールを受けた南野がDFをワンタッチでかわして前を向いてパスを送る。これを受けたFWアーリング・ハーランドがゴールを決め、先制に成功した。さらに南野は前半アディショナルタイムに、ロングカウンターからMFドミニク・ショボスライの5点目をアシストした。
結果的にハーランドのハットトリックもあり、チームは6-2の大勝を収めた。南野は1ゴール1アシストの活躍を見せ、鮮烈なCLデビューを飾ることとなった。
欧州王者リバプールを苦しめる
チームはヘンク戦大勝の勢いそのままに、2週間後のCL第2節を戦う敵地アンフィールドに乗り込んだ。
しかし、初戦のナポリ戦を0-2で落としているリバプールの勢いに序盤は圧倒された。激しいプレッシングを得意とするチーム同士の対決となったが、多士済々の欧州王者が36分までに3点を奪った。
しかしその後、試合は大きく動く。中盤をダイヤモンド型に変更して南野がトップ下に入ると、前半のうちに1点を返す。さらに55分に左サイドからのクロスに、鮮やかな南野がボレーシュートを決めて1点差に。直後には南野のお膳立てから途中投入されたハーランドがゴールを決めて同点に追い付いた。
結果的に69分のモハメド・サラーのゴールで、ザルツブルクは敗れた。しかし、のちに世界一の称号を手にするリバプールにを相手に互角に渡り合った衝撃は計り知れない。敵将のユルゲン・クロップに「我々にとって今夜は大きな教訓になった」と言わしめるほどだった。
CLでは最終節まで決勝トーナメント進出の望みをつないだものの、最後はリバプールに敗れて3位に終わった。しかし、ザルツブルクの戦いは高く評価され、とりわけ6戦8ゴールを記録したハーランドや、3得点3アシストの活躍を見せた韓国代表のファン・ヒチャンは、複数のビッグクラブが興味を示していた。
しかし、目の前でその躍動を見せられたリバプールが手を伸ばしたのは、ハーランドでもファン・ヒチャンでもなく、背番号18をつけた日本人だった。12月19日にリバプールは、CLで2得点3アシストの結果を残した24歳との移籍合意を発表した。
すぐに訪れたチャンス
南野は年明けからチームに合流した。2日のリーグ戦はルール上出場ができなかったが、チャンスは予想以上に早く訪れた。5日のFAカップ3回戦で、過密日程の最中のリバプールは大幅なターンオーバーを実行。南野は4-3-3の最前線中央で先発起用された。
攻撃では見せ場を作れず、70分間プレーしてシュート1本という結果に終わっている。主力がほとんど不在の中で、チーム全体として明らかに連係面の拙さを見せていた。豊富な運動量と的確なポジショニングでファーストDFとしての役割を果たし、攻撃では絶え間なくパスをもらう動きを繰り返した。しかし、南野にボールが入るシーンはほとんどなかった。
サラー、ロベルト・フィルミーノ、サディオ・マネという世界最強の3トップとポジション争いをするというのは現実的ではない。ベンチには昨シーズンのCLで劇的なゴールを決めたディボック・オリギがいる。強烈なミドルシュートが武器のアレックス・オックスレイド=チェンバレンや、正確な左足のキックを持つジェルダン・シャキリも控えている。しばらくは彼らと4番手を争うことになりそうだ。
フィールドプレーヤーとしては、ローンバックや10代の選手を除けば、1年半ぶりの新加入選手となった。南野にとっても5年ぶりとなる移籍は、新天地への適応がカギになるだろう。リバプールはそれを助けるべく工夫を凝らしているようだ。
クラブはシーズン中に加入した南野のロッカーを、ナビ・ケイタとマネの間に置いた。8番と10番の間には9番のフィルミーノが入っていたが、18番をつける南野のロッカーが配置されたそうだ。ケイタとマネはともにザルツブルクに在籍経験があり、ケイタと南野は半年間ともにプレーしている。リバプールの細かい配慮が南野の順応を助けるかもしれない。
クロップ監督はフィルミーノが務めるセンターフォワードだけでなく、ウイングや8番ポジション(インサイドハーフ)といった複数のポジションで南野を起用するプランがあるようだ。攻撃面で結果を残せるかどうかが、今後のリバプールでの立ち位置を決めることになるだろう。
(文:編集部)
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