モウリーニョが採った戦法
ジョゼ・モウリーニョとユルゲン・クロップの因縁の対決は、両者ともに多くの負傷者を抱えた状態で迎えた。トッテナムは離脱中の守護神ウーゴ・ロリスに加えて、直近のサウサンプトン戦でFWハリー・ケインとMFタンギ・ヌドンベレを失った。一方のリバプールも、DFジョエル・マティプ、DFデヤン・ロブレン、MFファビーニョ、MFナビ・ケイタに続き、MFジェームズ・ミルナーまでも負傷で欠くこととなった。
首位を独走するリバプールに対して、モウリーニョは奇策を採った。試合前に発表されたメンバーには本職センターバックが3人とサイドバックが2人。5バックも予想されたが、試合が始まってみると最終ラインに並んだのは4人だった。
プレミアリーグデビューとなった20歳のDFジャフェット・タンガンガは右サイドバックに入り、FWサディオ・マネをマンマーク。DFセルジュ・オーリエは1列前に入った。
普段のリバプールはマネへのロングボールを起点としているが、この試合ではタンガンガによって封じられた。序盤はマネのスピードに対応できないシーンもあったが、32分にはマネへのパスをインターセプトするなど、デビュー戦にもかかわらず相手のキーマンを封じていた。
さらに、右サイドハーフのオーリエはロバートソンをマンマーク。ロバートソンが高い位置を取った際は最終ラインに加わり、今季は幾度となくチャンスを作っていたトレント・アレクサンダー=アーノルドからのサイドチェンジを封じた。
フィルミーノが値千金のゴール
前半のリバプールはボール支配率で73.4%と大きく上回ったものの、アタッキングサードへの侵入には苦戦した。モウリーニョが仕掛けた奇策は、リバプールの長所を消して攻撃の形を封じた。
右サイドとは異なり、トッテナムの左サイドはゾーンディフェンスで対応している。出場停止により4試合ぶりのリーグ戦出場となったソン・フンミンがサイドハーフに入り、ケガから復帰したダニー・ローズがサイドバックを務めた。しかし、逆サイドとは対照的に間受けできるスペースがあり、MFアレックス・オックスレイド=チェンバレンがドリブルで突くシーンが何度かあった。
先制点を奪ったのはリバプールだった。37分、左サイドのスローインをFWロベルト・フィルミーノがスペースに走り込んで受ける。一旦は相手に弾かれたが、これをMFジョーダン・ヘンダーソンが拾ってFWモハメド・サラーへパス。これを収めてフィルミーノへ送ると、ワンタッチでタンガンガをかわして左足でシュートを放った。
トッテナムは4-4-2で守りつつ、ミドルプレスからボールを奪えば、相手DFの裏にある広大なスペースを突いた。リバプールは鋭いカウンターに手を焼き、ジョー・ゴメスとオックスレイド=チェンバレンはカウンターへの対応でイエローカードをもらった。しかし、得点には至らず、前半は無得点で終えた。
トッテナムは決定機を活かせず
トッテナムは後半に入ると、プレスの開始場所を高く設定し、フルコートでハメにいった。しかし、リバプールは変わらず自陣からつなぎ、機を見て薄くなった相手の中盤を突く。前半に比べるとオープンな展開となった。
1点を追うトッテナムは69分にMFクリスティアン・エリクセンと負傷明けのローズを下げた。代わってMFエリク・ラメラを右サイドハーフ、MFジオバニ・ロ・チェルソをセンターハーフに入れ、オーリエを右サイドバック、タンガンガを左サイドバックに移した。
この交代により、トッテナムのマンマーク戦術は解体。すると、マネが自由になったリバプールは、左サイドから攻撃を展開することが増えていった。
依然としてリバプールがボールを持つ展開が続くが、トッテナムにも決定機が生まれる。75分にロ・チェルソがタックルしてボールを奪い、最後はソン・フンミンが右足でシュートを放つも枠外へ。直後にジョー・ゴメスのパスミスがあったが、フィニッシュには持ち込めず。82分にはオーリエのクロスにロ・チェルソが合わせたが、シュートは枠を捉えなかった。トッテナムは最後までゴールを割ることができなかった。
リバプールは負傷後初先発となったオックスレイド=チェンバレンを61分に下げ、MFアダム・ララーナ、81分にはマネを下げてディボック・オリギを投入。アディショナルタイムにはサラーに代えてMFジェルダン・シャキリを起用し、南野拓実に出番は訪れなかった。
勝利したリバプールは首位を独走。21試合消化時点での勝ち点61は、5大リーグの歴代最高記録。今節のサウサンプトン戦で不覚を取った2位レスターとの差は16へと広がっている。
フィルミーノの役割
クロップは南野について、複数のポジションでの起用を示唆している。だが、中でも有力なのはフィルミーノが務めるセンターフォワードだろう。「9.5番」とも表現される特殊なタスクが要求され、つなぎの部分や守備面での貢献にスポットライトが当たる。
しかし、それはフィルミーノの仕事の一部分にすぎない。フィルミーノは一昨シーズンが84本、昨シーズンは75本のシュートを記録しているが、今季は21試合でこれまでのペースを大きく上回る65本のシュートを放っている。この数字は49本のマネを上回り、66本のサラーとほぼ同数。ゴール数でもマネ(11得点)、サラー(10得点)に次ぐ7得点をマークしている。
ファーストディフェンダーとして前線からの守備で貢献し、攻撃では前線と中盤のリンクマンとなってチャンスメークに走る。さらには、裏へのボールや間受け、クロスボールへの競り合いなど、あらゆる局面でもゴールを狙う。つなぎ役とフィニッシャーの両方を担っているからこそ、クロップに高く評価されているのだろう。
しかし、その役割の多さゆえに負担も大きく、フィルミーノは途中交代することが多い。この試合はフル出場したが、今季先発した19試合のうち、11試合で途中交代している。南野のプレミアリーグデビューはお預けとなったが、そう遠くないうちに出場機会は回ってくるだろう。
(文:加藤健一)
【了】