中島の力を引き出したチームメイトの動き
ポルトガルリーグの優勝争いは、早くもベンフィカとポルトの2クラブに絞られたと言ってよさそうだ。
現地5日に行われた2020年最初のリーグ戦で、ポルトはスポルティングCPに2-1で勝利を収めた。これで2位のポルトと4位スポルティングCPの勝ち点差は12ポイントに広がっている。
今季のスポルティングCPは序盤から不安定で監督交代も経験し、徐々に調子を上げてきたところだった。ポルトガル国内3強の一角として確かな力を見せてはいるが、19試合残っていても、ほとんど負けが期待できないベンフィカやポルトとの大きな差を埋めることは難しいだろう。
一方、ポルトにとっては首位ベンフィカを追走するために落とせない大一番だった。今の段階で4ポイント差をキープしておかなければ、逆転優勝はかなり厳しくなってしまう。それほどまでに「3強」と「それ以外」の実力差が大きいリーグなのだ。
ポルトに所属する日本代表MF中島翔哉にとっても2020年をより充実したものにするため、重要な一戦だった。昨年末には公式戦3試合連続で先発起用、さらには移籍後初ゴールも生まれた。とはいえ国内カップ戦も2試合含まれていたため、あの勢いを継続しながら、チームにとってより重要な選手となるには強豪スポルティングCPとのリーグ戦でのアピールが重要だった。
迎えた5日の大一番で、中島はこれまで通りトップ下で先発起用された。ただ、相手からの警戒はこれまで以上に強まっており、厳しいマークに遭う。スポルティングCPのMFイドリサ・ドゥンビアが中島の横にぴったりとつき、プレッシャーをかけていた。
そんな中でも、中島は周囲との相互理解が進んでいることを証明した。34分、中盤左サイドでボールを持った背番号10はドリブルで一気にスピードに乗ると、そのままペナルティエリア手前まで運んで強烈なミドルシュートを放った。
この時、中島の前ではFWチキーニョ・ソアレスが左サイドに張り出し、FWムサ・マレガが中央から斜め左に逃げるような動きでマークを引きつけ、中島がドリブルからシュートに持ち込むためのコースを作った。味方選手が小柄な日本人アタッカーのプレーの意図を読み取り、生かそうとしたのは明らかだった。
なぜ交代? 指揮官が説明した理由は…
とはいえ中島は1-1で迎えた66分にFWルイス・ディアスとの交代でピッチを退いた。何度もボール奪取の場面に絡んだように守備での献身的な動きを見せたが、ゴールもアシストもつかずチームの流れも悪い状態での交代には悔しさもあったはずだ。
試合後、ポルトを率いるセルジオ・コンセイソン監督は「中島は守備のプロセスにおいてリカバリーに動くことが難しくなっていたように感じたので、(右サイドの)オターヴィオを中に入れ、(左サイドの)マレガを右サイドに移し、ルイス・ディアスを左に置いた。そして我々は試合に勝った。(あの交代は)中島のためではなく、私が求めていたことを完璧に(プレーとして)変換してくれる選手たちのためだった」と、66分の交代に至った理由を説明した。
やはり厳しいマークに遭い、味方からなかなか良い形でパスをもらえない状況で動き回ったこともあって、これまでの試合よりも体力の消耗が早かったのだろうか。スポルティングCPのような強豪を相手にした時、いかにして90分間を通して力を発揮していくかは、中島が今後乗り越えていくべき壁になりそうだ。
ポルトにとってもスポルティングCPが難しい相手だったことは間違いない。試合後のスタッツを見ても、ボール支配率では48%:52%で上回られ、シュート数もポルトの10本に対してスポルティングCPは15本、パス成功数もポルトは142本にとどまったがスポルティングは163本だった。
それでもポルトが勝利できた理由は、粘り強い守備と的確なスカウティングにあった。前節までリーグ戦はわずか6失点、ホームでは無失点という驚異的な守備力を誇るポルトは、スポルティングCP戦でも堅かった。GKアグスティン・マルチェシンの安易なキックを狙われて1失点こそ喫したものの、後半の中頃に相手に流れが傾いて立て続けにチャンスを作られた時間帯もしっかりと耐え切った。
会心の勝利と、その代償
攻撃面ではコンセイソン監督が「良い形で試合に入れた」と振り返った、立ち上がり6分の先制ゴールはまさにスポルティングの弱点を突いた一発だった。「マレガが(右サイドバックの)リストフスキと(右センターバックの)コアテスの間のスペースを斜めに抜けようとする、先制点はまさにそういったシチュエーションから生まれた」と指揮官はご満悦だ。
ストライカーか右サイドを任されることの多いマレガを左サイドに置いたのも、おそらくゴール方向に走ることで相手の弱点を突けると踏んだからだろう。先制点以外の場面でも、マレガは頻繁にゴール前へと顔を出して危険な存在となっていた。
後半も主導権を握られる時間帯がありながら、ギリギリのところでリスク管理を怠らずに最少失点。そして73分にチキーニョ・ソアレスがコーナーキックから打点の高いヘディングシュートで今季公式戦11ゴール目を叩き込んで、相手の心は折れた。
セットプレーは今季のスポルティングCPにとって泣きどころの1つに違いなかった。前節までにリーグ戦で喫した15失点のうち、流れの中から5失点、PKで5失点、フリーキックやコーナーキックからが3失点。PKも含めれば、ゴール前で相手にボールを置いて蹴らせるようなチャンスを多く与え、高確率で失点していたことがわかる。
実際、チキーニョ・ソアレスがヘディングシュートを決めた場面でもゾーンディフェンスにおける各選手のエリア管理が甘く、競り合いの瞬間に守備側の反応がかなり遅れてしまっていた。あれほどゴール前での守りが緩いと、セットプレーは狙いどころにされてしまう。相手の緩さを利用してフィニッシャーだけをフリーにするよう、ポルトの選手たちの動きも計算されていたように見えた。
事前のスカウティング通りに少ないチャンスを生かしてゴールを奪い、自慢の堅守で勝ち点3をもぎ取ったポルトも代償は払った。前半にディフェンスラインの柱、DFぺぺが左ふくらはぎを痛めて負傷交代。さらに後半の68分にイエローカードを受けたDFイバン・マルカノが警告の累積により次節出場停止となってしまった。
ぺぺの検査は6日に改めて行われる予定だが、ポルトはセンターバックの主力2人を欠いた状態で、10日のモレイレンセとのアウェイゲームに臨む可能性が極めて高い。守備陣が万全でないなら、いつも以上に多くのゴールを、相手よりも先に奪っていくことが重要になる。
スポルティングCP戦で途中交代に終わった中島には、その悔しさを晴らす爆発とリーグ戦での初ゴールを期待したいところだ。
(文:舩木渉)
【了】