ピンポイントでターゲットに合わせる技術
試合を見ているのか、トレント・アレクサンダー=アーノルドのプレー集を見ているのかわからないほど、右サイドバックの21歳は躍動していた。
リバプールはFIFAクラブワールドカップに参加した影響で1試合未消化だが、この試合の勝利によって2位・レスターとの勝ち点差を13に広げている。
立ち上がりの約1分間で2本のシュートを放ったのはリバプールだったが、試合の序盤はしばらくレスターがボールを持つ時間が長かった。しかし、積極的にボールをつなぐものの、フィニッシュまでは持ち込めない。
レスターは不用意なボールロストが続き、リバプールはカウンターからチャンスを作っていく。徐々にリバプールへと流れが渡り、コーナーキックの流れから31分に先制点が生まれる。
アレクサンダー=アーノルドが左サイドからインスイングの軌道で入れたクロスを、ファーサイドでロベルト・フィルミーノが頭で合わせた。
前方のジェイミー・ヴァーディーとは十分に距離があり、ノープレッシャーでクロスを上げることができた。余裕を持ってゴール前を確認すると、手を挙げるモハメド・サラーとフィルミーノが視界を捉えた。ベン・チルウェルがバックステップを踏んでクロスに備えたが、アレクサンダー=アーノルドはピンポイントでターゲットに合わせる技術を持っていた。
6人のDFの間を通すパス
その後も何度か決定機があったが、追加点は生まれず。リバプールは70分に2枚替えを敢行すると、直後に追加点が生まれた。
アレクサンダー=アーノルドの左CKがチャーラル・ソユンジュの左腕に直撃。PKが与えられ、直前の交代で入ったばかりのジェームズ・ミルナーがこれを決めた。
3点目はその3分後。フィルミーノからのパスをミルナーがバイタルエリアで受けると、右サイドへ展開。パスを受けたアレクサンダー=アーノルドが出した速くて低いクロスは、ファーサイドに走り込んだフィルミーノの下に。先制点を決めている背番号9はワントラップから冷静に右足を振り抜いた。
クロスというよりはパス。アレクサンダー=アーノルドとフィルミーノの間にレスターは6人の選手がいた。25ほどの距離があったが、そのわずかな隙間に、まさに針穴に糸を通すようなパスを出した。
試合は終盤に差し掛かり、3点リードしたリバプールはボールを保持して試合をコントロールする。しかし、66番をつけた21歳の右サイドバックは4点目のチャンスを見逃さなかった。
センターサークル付近でサディオ・マネがボールを受けて敵陣へと攻め込むと、右側からアレクサンダー=アーノルドがスプリントして駆け上がる。
ボールを受けた右サイドバックは迷わず右足を振り抜くと、ボールはチルウェルの股を抜け、GKキャスパー・シュマイケルの伸ばした手は届かず、ゴールネットへと吸い込まれた。
A・アーノルドが躍動した理由
データサイト『Whoscored』によれば、アレクサンダー=アーノルドは両チーム最多の105、左サイドバックのアンドリュー・ロバートソンはそれに次ぐ101回のボールタッチを記録した。
レスターは両サイドハーフのプレスバックが少なく、リバプールのサイドバックを留める方法を用意していなかった。果たして、リバプールのサイドバックが高い位置でフリーの状態を作ることは容易だった。
4得点すべてがアレクサンダー=アーノルドの右足から生まれている。フィルミーノの2得点をアシストし、CKからPKを誘発。さらにダメ押しとなる4点目のミドルシュートを決めた。
少し時間を遡れば、18日のクラブワールドカップ準決勝でも、フィルミーノの決勝点をアシストした。このときはニアへ走り込んだフィルミーノへ、柔らかいパスを通している。
オープンプレーでありながら、プレースキックのように精度の高いボールを蹴れる。縦回転で落としたり、カーブやシュート回転で曲げたり、無回転のボールも蹴れる。今季は既に8アシストを挙げ、昨季(12アシスト)を大きく上回るペースで得点を演出している。
さらにはこの試合で見せたミドルシュートや、直接FKからもゴールを狙える。DFでありながらチャンスメイカー。相手にとってこれほどの脅威は他にない。
代役は世界中を探してもいない。過密日程による疲弊が懸念されるが、替えが利かない。ユルゲン・クロップにとっては嬉しくも辛い悩みになっている。
(文:加藤健一)
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