師弟対決となったロンドンダービー
両チームにとってこの試合は、単なるロンドンダービー以上の価値を持つものだった。4位チェルシーと5位トッテナムの勝ち点差は3ポイント。この試合の結果如何で順位が入れ替わる可能性があった。
11月にトッテナムの指揮官に就いたジョゼ・モウリーニョは、就任後初めてのチェルシー戦となった。古巣の指揮官は多くのタイトルをともに勝ち取ってきたフランク・ランパード。リーグテーブルの直接対決と師弟対決の要素を含んだダービーとなった。
反対にトッテナムはモウリーニョ就任後、2-1で敗れたマンチェスター・ユナイテッド戦以外の4試合に勝利している。クリーンシート(無失点)がバーンリー戦のみなのは不安材料だが、前線の個性を活かした戦いで5戦14得点を挙げている。
直近のリーグ戦で1勝4敗と不調に陥るチェルシーは、この試合に向けて策を講じてきた。最終ラインにアントニオ・リュディガー、クルト・ズマに加えて、臀部の負傷から復帰したフィカヨ・トモリを起用。今シーズン初めて3-4-2-1というシステムで試合を始めた。
奏功したチェルシーの狙い
トッテナムはケインとソン・フンミン、ルーカス・モウラが相手の最終ラインをけん制し、中盤のエヌゴロ・カンテとマテオ・コバチッチに対しては、ムサ・シソコとトップ下のデリ・アリをマッチアップさせた。
ソン・フンミンのポジショニングは素晴らしかった。右ウイングバックのセサル・アスピリクエタへのパスコースを塞ぎながら対面するリュディガーへ寄せた。何度も首を振りながらポジションを取り、2人をピン止めしていた。
一方で反対サイドはマークが曖昧になっていた。チェルシーの左ウイングバックを務めるマルコス・アロンソはフリーだった。右サイドバックのセルジュ・オーリエが寄せればウィリアンが空き、シソコがスライドすればコバチッチが空く。チェルシーは左サイドが攻撃の起点となった。
チェルシーの狙いは明確だった。トッテナムの4人のアタッカーに対し、1枚多い5人で守ることで攻撃を封じる。さらに、ケインの中盤に下りる動きや、ソン・フンミンの裏を取る動きに対して、3バックはついていって自由を与えない。身体能力に秀でるセンターバックを3枚並べて、トッテナムの前線の個性を消したランパードの采配は奏功した。
そのチェルシーが先制に成功した。12分にショートコーナーのリターンを受けたウィリアンがカットインから華麗なミドルシュートを決めた。
輝いたウィリアンとマルコス・アロンソ
しかし、先制後はなかなか決定機を作れず。それでも、前半のアディショナルタイムに入ったところで、チェルシーにとってはラッキーな得点が生まれた。
アスピリクエタとカンテが連係してアリからボールを奪う。パスを受けたウィリアンが左サイドをオーバーラップするマルコス・アロンソへ浮き球のパスを送る。少し長くなったボールにGKパウロ・ガッサニガが飛び出したが、目測を誤ってボールに触れられず。マルコス・アロンソに衝突してしまった。
VAR(ビデオ・アシスタント・レフェリー)による検証を経て、チェルシーにはPKが、GKガッサニガにはイエローカードが与えられた。これをウィリアンが冷静に沈め、チェルシーは前半を2点リードで折り返した。
クリスティアン・プリシッチが加入したため、今季のウィリアンはほとんど右サイドでプレーしている。しかし、この試合で久々に左シャドーとして先発すると、2得点を挙げる活躍を見せた。先制点のシーンも含め、広い視野と意表を突く選択肢で相手にとっては厄介な存在になっていた。
マルコス・アロンソはリーグ戦では8試合ぶりの先発となった。久々の出場機会だったが、データサイト『Whoscored』によるボールタッチ数は両チーム最多の105をマーク。攻撃の起点となるだけでなく、2点目のシーンでは鋭い飛び出しからPK獲得のきっかけに。久々のウイングバックで水を得た魚のようなプレーを見せた。
ソン・フンミンの愚行
後半のトッテナムはエリック・ダイアーを下げてクリスティアン・エリクセンを投入。アリとソン・フンミンをシャドー、オーリエとモウラをワイドに配した3-4-2-1へと布陣を変更して、ミラーゲームに挑んだ。
2点ビハインドを追う60分、ヴェルトンゲンのロングパスをソン・フンミンが左サイドで収めるが、寄せてきたリュディガーと接触して倒れてしまう。このときソン・フンミンの脚が不用意にリュディガーの腹部に当たった。62分、VARによる映像チェックを経てソン・フンミンにはレッドカードが提示された。
ソン・フンミンの退場によって、数的不利となったトッテナムの反撃は難しくなった。システム変更により、敵陣へと攻め込むシーンが徐々に増えてきただけに、試合の流れを大きく変えたプレーだった。
オーリエは冷静さを失い、エリクセンはパスを送る相手を見つけられない。数的不利の状況でシソコとモウラに代わって入ったタンギ・ヌドンベレは妄信的に個人での打開を試みる。結果、トッテナムは反撃のチャンスを失った。
ケパ・アリサバラガには客席から物が投げ込まれ、リュディガーには人種差別的なチャントが浴びせられた。試合はそのまま0-2で終わったが、師弟対決となったビッグマッチは、なんとも後味の悪い締めくくりとなった。
(文:加藤健一)
【了】