母国と王国の対決
両チームとも、苦しみながらも準決勝を突破した。南米王者・フラメンゴはアジア王者のアル・ヒラルに先制を許す苦しい展開となったが、後半に3得点を挙げて逆転勝利。北中米カリブ海王者・モンテレイと対戦した欧州王者・リバプールも、後半アディショナルタイムの得点でなんとか勝利をつかみ取った。
リバプールは準決勝でベンチスタートだったFWロベルト・フィルミーノとFWサディオ・マネ、欠場したDFフィルジル・ファン・ダイクをファイナルの先発に起用。ユルゲン・クロップはクラブ史上初の世界一に向けて、現状のベストメンバーを送り出した。
南米王者を率いるのはポルトガル出身のジョルジェ・ジェズス。65歳の指揮官はベンフィカなどを率いて、3度のリーグ制覇を達成している。昨シーズンはアル・ヒラルを率いたが、今夏からフラメンゴの監督に就任して、南米王者へと導いている。
両クラブは1981年に第2回トヨタカップで対戦している。国立霞ヶ丘競技場で行われた試合には、フラメンゴの神様ジーコ、リバプールのケニー・ダルグリッシュが出場し、フラメンゴが3-0で勝利を収めた。サッカーの母国と王国からやってきた両クラブはクラブワールドカップの戴冠を懸けて38年ぶりに相まみえた。
フラメンゴが主導権を握った前半
前半開始早々にフィルミーノがDFラインの裏に抜けてシュートを放つが枠外へ。さらにFWモハメド・サラーの落としを受けたMFナビ・ケイタが放ったシュートも枠に飛ばすことはできない。立ち上がりの決定機を活かせず、試合の主導権をフラメンゴに移っていく。
フラメンゴはリベルタドーレスカップとブラジル全国選手権で得点王に輝いたFWガブリエルとFWリベイロを最前線に据えた4-4-2で試合をスタートさせたが、ジェズス監督はすぐに動いた。リベイロを右サイド、準決勝でゴールを決めたMFデアラスカエタをトップ下に変更した。
左サイドに入ったFWブルーノ・エンリケは輝きを放った。今年9月にはブラジル代表初キャップを飾った28歳は、DFラインの裏への飛び出しと、左足から繰り出す強烈なシュートでリバプールの守備陣を苦しめた。
サイドバックは、今夏までバイエルン・ミュンヘンとアトレティコ・マドリーにそれぞれ所属していたDFラフィーニャとDFフィリペ・ルイスが務めた。リバプールは彼らへのマークを曖昧にしてしまった。前線が落ちるのか、中盤がスライドするのか、サイドバックが寄せるのか。フラメンゴは両サイドバックがフリーの状態を作ることができた。
リバプールはMFファビーニョが負傷でMFジョーダン・ヘンダーソンがアンカーに回り、ケガ明けのワイナルドゥムが不在だった。MFアレックス・オックスレイド=チェンバレンとケイタが入った中盤は強度不足だった。結果的に前半はフラメンゴが58%のボール保持率をマークし、リバプールの3本を上回る6本のシュートを放った。
決め切れないリバプール、取り消されたPK
前半を0-0で凌いだ形になったリバプールには、後半立ち上がりに決定機が生まれる。ヘンダーソンのロブパスを受けたフィルミーノがワントラップから左足を振り抜くが、ゴールポストに阻まれる。5分間で3本のシュートを放ったが、先制点にはつながらなかった。
しかし、フラメンゴは前半のように主導権を握ることができず。2トップの一角にポジションを移したエンリケは、存在感が消えてしまった。
最大の決定機は後半アディショナルタイムに生まれた。フィルミーノのパスに抜け出したマネがシュートを放つが、追走したラフィーニャがファールを犯してPKの判定。しかし、オンフィールドレビューが行われた結果、ラフィーニャのプレーはノーファールとなり、PKは取り消された。
90分間でスコアは動かず、試合は延長戦に突入。すると99分、自陣からヘンダーソンのスルーパスがマネに通った。これを反転して受けると、左側を駆け上がるフィルミーノにパスを送る。ブラジル代表FWは前に出てきたGKと寄せるDFを冷静にかわして右足でゴールに流し込んだ。
ボディブローのように打ち続けたロングボール
データサイト『Whoscored』によると、試合を通じてリバプールのフィールドプレーヤーは79本のロングボールを蹴っている。フラメンゴを33本も上回る数を蹴りながら、58%と高い成功率をマーク。セカンドボールの回収も含めればマイボールとなった確率はもっと高い。
サイドチェンジで相手を左右に揺さぶり、ロングボールで相手のDFラインを下げることで中盤のスペースを空け、リバプールは敵陣に襲い掛かった。これが後半はボディブローのように相手を疲弊させた。終盤のフラメンゴにカウンターの体力は残っていなかった。
リバプールにとっては、前半を無失点で切り抜けたことも大きかった。攻撃ではよいところが少なかった初めの45分だったが、守備では相手に枠内シュートを打たせなかった。ジョー・ゴメスとファン・ダイクのシュートブロックは見事で、集中力を切らすことなく対応していた。
前半を無失点で切り抜けた忍耐力と、ボディブローのように相手に楔のロングボールを打ち続けたことが、リバプールに勝利をもたらした。派手さには欠けるが、今季の戦いを象徴するような粘り強さだった。
最終ラインと中盤には複数の負傷者を抱えてベストな布陣を起用できず、準決勝も決勝も一筋縄ではいかない試合だった。そのような状況で優勝できたリバプールは、世界一にふさわしいチームと言えるだろう。
(文:加藤健一)
【了】