現在のリバプールの特徴と課題
現在のリバプールは、プレミアリーグを定期的に見ている方からすればご存知のとおり、情熱的なチームに仕上がっている。熱血漢ユルゲン・クロップの哲学がチームに浸透しており、攻撃的に、かつ、エネルギッシュに戦っているのだ。
ドイツ人の名将の代名詞と言えば、「ゲーゲンプレス」という名の、ハードなプレッシングサッカーだが、昨季よりそのサッカーは徐々に変容してきている。やはりプレーの強度が強く、国内カップ戦が二つもあるため過密日程のイングランドでは、年間通してプレッシングに重きをおくサッカーに限界を感じたのか。
昨季より、徐々にポゼッションサッカーにトライし始めていたが、今季はそのサッカーを本格化。ボールを保持しながら、相手を押し込み、強烈な3トップ、サディオ・マネ、ロベルト・フィルミーノ、モハメド・サラーらの高い個の能力が組み合わさり、ゴールをもぎ取っている印象だ。特に、昨季と比べた際に変更箇所は右SBトレント・アレクサンダー=アーノルドと、左SBアンドリュー・ロバートソンの位置が高いところだろうか。
彼らは昨季の時点でもリーグ戦のアシスト数は、アレクサンダー=アーノルドが12、ロバートソンが11を記録。それぞれリーグ戦のアシスト数ランキングで3位と5位につけるなど、アシストを連発していたが、今季もリーグ戦17試合消化時点でイングランド人の若手が6アシスト、スコティッシュのハードワーカーが5アシストをマークし、昨年をやや上回るペースでチャンスを創出している。
なによりアレクサンダー=アーノルドのキック精度が光る。リバプールの最終ラインはロバートソンも、あるいは、フィルジル・ファンダイクも非常に高いキック能力を誇るが、アカデミー出身の若者は異次元のレベルに到達しつつある。
SBの位置から精度の高いボールを最終ラインの裏や、逆サイドに張るウイングに送るだけでなく、時には逆足の左足からもピンポイントのロングフィードを蹴るので驚愕だ。
南野の特性と居場所
そんな環境に南野は間違いなくフィットできるはず。日本代表のアタッカーは、もちろん独力で突破できるスキルもあるが、一番の魅力は中央で低い位置から縦パスを引き出し、攻撃のスイッチを入れるプレーができる部分。あるいは、そのスプリント能力を生かした裏への抜け出しだろう。そういうタイプとアレクサンダー=アーノルドの組み合わせは非常に相性が良い。
思い返せば、マンチェスター・ユナイテッドに所属していた香川真司も、スペースでボールを引き出すプレーに長けているという意味では、南野と近しい能力を持っているが、残念ながら味方との相性が悪かった。
右SBを務めるアントニオ・バレンシアは、素晴らしいフィジカル能力を持ち、年々ビルドアップ能力も向上していった選手だが、少なくとも日本人MFがいた2012年頃は低い位置の組立てを苦手としていた。
また全体として見ても、ウェイン・ルーニーや、マイケル・キャリックなど、一部の選手を除けばポゼッションサッカーよりも、ダイレクトな縦に早いプレーを得意とする選手が多く、香川は90分通して味方と噛み合った試合は少なかった。
そういう意味では、あれから数年がたち、プレミアリーグも進化し、ポゼッションに対する理解は深まった。加えて、リバプールには最終ラインのほぼ全ての選手だけでなく、中盤のファビーニョなどの選手らも、フィジカル的な素養を備えながらもボールを保持しながら戦う資質が高い。そういう意味では、南野の中盤で受ける動きや、裏抜けの動き、共に生かしてもらえる環境だと言えるだろう。
なにより、二度、リバプールと直接対決しており、それらの試合で活躍した事実が大きい。南野のような上手くボールを出してもらってこそ真価を発揮するプレイヤーは、味方から信頼を獲得し、ボールを積極的に当ててもらえるようになるまでが肝でもある。
一連の報道によると、リバプールの一部の選手たちが、南野の獲得を進言するほどだったというのだから、まず間違いなく、完全な信頼を獲得するまでのいくつかのステップはパスしているに違いない。
南野は3トップの一角でプレーか
リバプールでは4-3-3を基本戦術としており、トップ下のポジションは原則ない。南野は強烈な3トップとレギュラー争いをすることになり、それがハードなミッションであることは間違いないが、今季のチャンピオンズリーグ王者にはクラブワールドカップに出場する影響などもあり例年よりも過密日程だ。間違いなく日本人FWにチャンスが回ってくるはず。スーパーサブという第一を目指すことが目の前の目標だ。
あるいは、今季、何度か基本システムよりやや前がかりな4-2-3-1のオプションを試している試合もあるので、彼ら3トップと南野の共演が見られることもあるだろう。
毎試合このシステムになることはないだろうが、今季のリバプールは失点が多いため点を取らなければいけない時間帯もやってくるはず。そうなってくると南野の得点能力が生きるはずだ。
いずれにしても、フィットできるチームであることは間違いない。プレミアの水に馴染むまで時間がかかるかもしれないが、あまり気にしすぎず、楽しみに見守っていきたいと思う。
(文:内藤秀明)
【了】