ユベントスの戦術は?
各ポジションにワールドクラスの人材を揃えるユベントスはやはり強い。昨季はチャンピオンズリーグ(CL)でこそアヤックスに敗れベスト8敗退となったが、セリエAでは2位・ナポリに勝ち点差11をつけ見事8連覇を達成。同リーグは現在、ビアンコネロの独壇場と化している。
しかし、そんなユベントスも今季は変化の時を迎えている。過去5シーズンでスクデット5回、CLでチームを2度も決勝進出に導いたマッシミリアーノ・アッレグリ監督が昨季限りで退任。後任にはチェルシーをヨーロッパリーグ(EL)制覇に導いた智将・マウリツィオ・サッリ監督を招聘したのである。
これにより、チームのコンセプトが大きく変化した。アッレグリ監督の下では4バックと3バックを試合によって使い分けていたが、サッリ監督はすでに「3バックは使わない」と断言している。よって、ユベントスの今季の基本フォーメーションは4-3-1-2となっている。試合によっては、ナポリやチェルシーで用いていた4-3-3を使用することもあるが、ここ最近は前者が定着した印象がある。
アッレグリ監督時代のユベントスは、前線の選手にもハードワークが求められており、高い位置からボールホルダーを捕まえては素早い攻めへと転じていた。ゴール前では人へのチェックを外さずに、ボールを跳ね返し続けていた。
サッリ監督の下でも前線からのハイプレスは行うが、大きく変わったのが自陣での守り方だ。サッリの場合は守備の基準をボールと味方に置いているため、いわゆるゾーンで守ることが多い。よって、最終ラインの選手にはより的確なポジショニングと判断力が求められるようになっており、今季にアヤックスから加入したDFマタイス・デリフトも当初はこの守備戦術に適応するのに相当苦労していた。
当然、ゴール前に侵入してくる敵を守備の中心とはしないため、一歩判断を間違えるとかなり失点のリスクは大きくなる。ただ、その約束事が90分間キッチリと保たれれば、なかなか崩れることはない。難易度の高いことをサッリ監督は求めているわけだが、守備のレベルがずば抜けて高いユベントスであれば、浸透するのもそう遅くはならないはずだ。
攻撃時はポゼッションが基本。スタートシステムは4-3-1-2だが、試合の中ではトップ下の選手がサイドに流れ4-3-3になることもある。基本的にはショートパスで局面の打開を図るが、ナポリ時代と比べてもロングボールや鋭い縦パスを積極的に入れるようになった印象が強い。
ただ相手陣内深い位置まで侵入することができれば、人数をかけたテンポの良いパス回しで崩し切ることができる。ここは、ナポリ時代の良さがユベントスでも活きていると言えるだろう。アッレグリ監督は良い意味で個のクオリティを重視していたが、サッリ監督はこのように組織的なサッカーを植え付けようとしている。
いまのユベントスにはアッレグリ監督時代のような派手さがない。勝利を収めた試合を観ても、圧倒的な強さを発揮している印象はまったく受けない。ただそれは、チームがより難易度の高いサッカーに適応しようと、一歩一歩成長を続けている段階だからこそだ。後半戦の戦いも目が離せない。
豊富な人材を誇るDF陣
GKはヴォイチェフ・シュチェスニーがファーストチョイス。至近距離からのシュートに対する反応がピカイチで、正確な足元の技術でビルドアップ時にも効果を発揮することができる。身長も195cmと大柄で、ハイボールの処理も的確だ。
今夏にユベントスへ復帰したGKジャンルイジ・ブッフォンがセカンドキーパーで、イタリア代表のマッティア・ペリンが第3GKとなっているなど、GKの層は欧州でも屈指である。
最終ラインは左からアレックス・サンドロ、デリフト、レオナルド・ボヌッチ、ファン・クアドラードが基本となっている。
DFジョルジョ・キエッリーニが負傷離脱中ということもあり、ゲームキャプテンを務めることも多いボヌッチは対人の強さと正確なビルドアップ能力を持っており、DFラインに欠かせない存在として活躍している。その相棒を務めるデリフトは加入当初こそ適応に苦しんだが、徐々に安定感あるパフォーマンスを取り戻してきた印象が強い。もともと持っている能力は高いため、こちらも現在のユベントスには不可欠な選手だ。
左サイドバックのA・サンドロ、右サイドバックのクアドラードはともに豊富な運動量を活かしてサイドでの上下動を繰り返すことができる選手。前線の選手が内側に絞ってできたサイドのスペースを的確に突くことができ、隙あらばボックス内に侵入してフィニッシュまで持ち込むこともある。
クアドラードに関しては守備面で改善の余地があるとはいえ、攻撃的なサッカーを目指すサッリ監督の下では持ち味は活きている。今後もサイドバックとして積極的に起用されていくだろう。
センターバックの控えにはキエッリーニやダニエレ・ルガーニ、メリフ・デミラルもいるなど層の厚さは申し分ない。サイドバックも左右両サイドをこなせるマッティア・デシーリョがおり、デミラルも右サイドバックとして起用することが可能と、こちらも問題ない。DF陣は世界的にも強力な人材が揃っていると言えるだろう。
適応に苦しむ新加入選手
中盤3枚は左にブレーズ・マテュイディ、中央にミラレム・ピャニッチ、右にロドリゴ・ベンタンクールが基本。トップ下はフェデリコ・ベルナルデスキが務めることが多い。
ピャニッチはビルドアップの中心としてボールを引き取り、散らす能力に長けている。ナポリやチェルシー時代にサッリ監督が重宝していたジョルジーニョと似たような役割と言える。また、ショートパスのみならずロングボールなどでも違いを作り出せるのがポイント。イタリア人監督の下でもそうした特長は表れている。
左のマテュイディは豊富な運動量を活かし、広いエリアをカバーする能力が非常に高い。アッレグリ監督の下では左ウイングでの出場が基本だったクリスティアーノ・ロナウドの背後のエリアを的確に埋めるなど、重要な役割を担っていた。
サッリ監督の下でも守備面で大きく貢献しており、中盤で積極的にボールを刈り取っている。また、攻撃時にもボックス内に走り込む動きで味方をサポートするとともに相手選手を引き付けスペースを空けるなど、効果的な働きを見せている。決して目立ちはしないが、重要な選手である。
右はベンタンクールが基本であるが、サミ・ケディラも悪くない。中盤3枚の中では最も入れ替わりが激しいポジションと考えて良さそうだ。ここは良い意味で定まっていないと言えるかもしれない。
トップ下はベルナルデスキが基本。パウロ・ディバラも同ポジションのチョイスになることがあるが、ゴンサロ・イグアインとC・ロナウドという2トップを活かすことはもちろんのこと、守備面でもプレスのスイッチを入れることが求められているため、よりフィジカル面に長けているベルナルデスキの方が序列は高い。
トップ下の選手は流れの中でサイドに開くこともあるが、ベルナルデスキはもともとサイドアタッカーの選手なので、そういった点でも持ち味は出せる。どうしても点が欲しいという状況ではディバラの起用も効果を発揮できそうだが、そうでない場合はイタリア人FWで十分だと言える。
中盤はこのような組み合わせになっているが、アドリアン・ラビオとアーロン・ラムジーの新加入組が、怪我の影響もあるがなかなか適応できていない。先発出場はともに少なく、序列は高くならないままだ。エムレ・ジャンも早ければ今冬に移籍することが濃厚。中盤の層は厚いが、選手同士の明暗はハッキリと分かれている。
流動的な前線の組み合わせ
2トップはC・ロナウドとイグアインが基本であるが、場合によってはC・ロナウドとディバラ、イグアインとディバラという組み合わせも考えられる。
C・ロナウドはアッレグリ時代に左ウイングとしての出場が大半を占めていたが、現在は2トップの一角として、より攻撃に専念できるようになっている。守備時は相手のパスコースを消す動きまでは見せるが、そこまで前線から強く当たりにいくわけではない。攻撃時は場面によってサイドに目一杯開き、スペースをマテュイディらインサイドハーフの選手に供給する。またはインサイドハーフの選手が走り込んだことにより、改めてできたスペースを突くことができる。ボックス内での強さはもちろんのこと、自由に動き回りチャンスメイクでも貢献できるのである。あとはやはり、ワンチャンスをモノにする力は圧巻だ。
サッリ監督の戦術を知り尽くしているイグアインは、シーズン開幕前こそ戦力外になるのでは? と噂されていたが、そんなことはまったくなかった。むしろ、来たボールをフィニッシュや味方に繋げるセンスは抜群で、C・ロナウドとの相性も悪くはない。オフ・ザ・ボールの動きで背番号7を活かすことも可能と、前線で大きな役割を果たしている。
ディバラは絶対的な主力というわけではないが、パフォーマンス自体は好調だ。相手の最終ラインとDFの間のスペースをうまく使っており、C・ロナウド、イグアインとはまた違った役割を果たしていると言える。状況によってはトップ下の選手とポジションを入れ替えながら、味方を活かしつつ自分を活かしてもらうことも可能だ。サッリ監督の下で持ち味は発揮できていると言える。
FWはこの3枚のローテーションが基本。アッレグリ監督の下で重要な選手として活躍していたマリオ・マンジュキッチは戦力外となっており、早ければ今冬にも新天地が決まるだろう。
また、ドウグラス・コスタの起用方法も悩ましいところで、2トップの一角で使うのかトップ下で使うのか曖昧だ。典型的なサイドアタッカーであり、もちろんウイングの位置が好ましいが、いまのユベントスに同ポジションは存在しない。ただ、ブラジル人FWの起用がどこかでハマれば、オプションは増えるはず。いまは切り札的な扱いであるが、ここも後半戦で見ておくべきポイントだ。
(文:編集部)