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中島翔哉、ポルト加入後最高の輝き。指揮官が抱いた「確信」、それは勝利をもたらす創造性

中島翔哉に突然チャンスが訪れた。現地16日に行われたポルトガル1部リーグ第14節のトンデラ戦で、7試合ぶりに先発で起用されたのである。なぜ今、このタイミングで、あのポジションだったのか。指揮官の言葉と頭の中を読み解くと、中島がポルトでさらに輝くための道筋が見えてきた。(取材・文:舩木渉【ポルトガル】)

text by 舩木渉 photo by Getty Images

誰も予想しなかった突然のスタメン抜てき

中島翔哉
ポルトに所属するMF中島翔哉がトンデラ戦に先発フル出場した【写真:Getty Images】

 なぜこの並びになったのか? 試合が始まってからしばらく、この問いの答えを求めてピッチを眺めていた。

 現地16日に行われたポルトガル1部リーグ第14節のトンデラ戦で、ポルトのMF中島翔哉が先発起用された。リーグ戦では7試合ぶり、今季2度目のこと。しかも最も得意とする左サイドでも、右サイドでもない、この起用法が不思議だった。

 というのも、ストライカーを本職とするFWムサ・マレガが先発メンバーに入っていて、彼をあえて右サイドに回してまで中島を最前線に配したのである。スタメンの組み合わせを見て、これまでの起用法と照らし合わせれば右サイドが自然な流れだっただろうが、そうならなかったのには何か理由があるはずだ。

 1つ気づいたのは、中島の起用によってポルトの攻守におけるメカニズムに変化が生まれていたことだ。これまでのオーソドックスな4-4-2では2トップが攻撃の組み立てに絡むことなく、右サイドのMFオターヴィオが内側にポジションを取って幅広く動き回りながら中盤と前線をつなぐ役割を果たす。

 一方、中島が入ると攻撃時はFWチキーニョ・ソアレスの1トップに近い形となり、背番号10の日本代表MFはトップ下に近い位置で動いていた。守備時は2トップが横並びでプレスをかけるため、変則システムとも言えるだろう。

 ここで考えられるのは、中島の攻撃時における特徴と、守備時の献身性の両面をチーム全体の機能性をある程度保ったまま活かそうと試みたということだ。後半途中から中島を起用する場合は、ゴールが欲しい場面か、何らかの理由で攻撃を活性化したい場面が多かった。しかし、同時に自由すぎるポジショニングが故、危険な場所での不用意なボールロストからピンチを招くリスクもあった。

 試合開始時からサイドで起用することの難しさも同じところにある。より長い時間、突然のピンチを迎えるリスクを抱えたまま戦うのはどんなチームにとっても難しい。だからこそ2トップの一角に置いて、ボールをもらいに下がりすぎる癖を抑え、よりゴールに近い位置でポテンシャルを発揮させる。それによって失点のリスクを軽減し、ゴールという最大限のメリットを享受できる可能性も上がることを狙ったのではないだろうか。

次々にチャンスを生み出し…

 今思えば、伏線はあった。ポルトを率いるセルジオ・コンセイソン監督は、トンデラ戦前日の記者会見で「前線における複数のペア」をどうするか問われ、「多くの場合、ここで何が行われているか多くの人には見えない」と語ったうえで「5人のストライカーと、また別のもう1人が前線でプレーできる」と述べていた。

 5人のストライカーがマレガ、FWゼ・ルイス、FWチキーニョ・ソアレス、FWヴァンサン・アブバカル、そしてFWファビオ・シルバのことを指しているのは明白として、残る「また別のもう1人」とは誰か。あくまで過去の起用法などから想像するしかないが、2トップでの出場経験があるFWルイス・ディアスか中島のどちらかのことを指しているのではないだろうか。

 コンセイソン監督は「ここでは動作するか確認するための実験は行なっていない。我々は自分たちが何をすべきか確信している」とも言った。この時、中島がサイドではなく最前線で力を発揮できる「また別のもう1人」だと「確信」があったと考えることもできる。

 結果的に、中島はセカンドトップとしてポルト加入後最高とも言える輝きを放った。相手セントラルMFから厳しいマークを受けていたこともあり、流れの中で周囲と有機的に絡む回数が決して多かったわけではないが、彼がいいポジションといい体の向きでボールに触れば高い確率でチャンスに結びついた。

 まず10分の先制ゴールが生まれた場面。中島は一度パスを要求して下がるが、味方の選手は周りの状況の悪さを見極めて、セントラルMFのオターヴィオに渡す。ここで動き直して相手のマークを引きつけながらパスを引き出した中島は、反転しながらの左足ワンタッチパスでボールを前進させる。

 そこには中島が動いたことで大きなスペースができており、左サイドからルイス・ディアスが走り込んでいた。そしてこのコロンビア代表アタッカーは少しドリブルで運び、右サイドへ展開。最後はオーバーラップしてフリーになっていた右サイドバックのDFヘスス・コロナがワンタッチでクロスを上げ、中央で待っていたチキーニョ・ソアレスがヘディングシュートを突き刺した。

 後半に入った49分には、右アウトサイドでボールを持った味方に対し、中島は内側を追い越す動きでパスを引き出し、そのまま右サイドの深い位置まで2人を引きつけながらドリブルで進む。このボールキープによって再び内側にスペースができ、サポートに入ったコロナから、オターヴィオへの横パス、前のスペースに残っていたDFウィルソン・マナーファへの縦パス、さらに折り返し、そのこぼれ球に反応したMFマテウス・ウリーベのゴールをかすめたシュートまでつながった。

ポルトに欠けていた意外性と創造性

チキーニョ・ソアレス
ポルトはFWチキーニョ・ソアレス(手前)の2ゴールなどで3-0の快勝【写真:Getty Images】

 ポルトの3点目が生まれた51分の場面では、中島が立ち位置と体の向きを調整して少し外に膨らみ、オターヴィオからのパスを受けて、すぐ前方の選手に渡す。最後はコロナが左足アウトサイドを使った絶妙なワンタッチパスを、オターヴィオに通してフィニッシュを演出した。ゴールを奪ったブラジル人MFは、中島が動いたことで生じたわずかな隙間を縫って走り込んできていた。

 終盤、選手交代にともない左サイドに移ってからも中島の輝きは薄れなかった。89分には、一度下がりながら内寄りのポジションでボールを要求すると見せかけて、左サイドバックのDFアレックス・テレスにパスが出た瞬間に動きを変えて、中島が相手右サイドバックの背後のスペースへ走る。

 タッチライン際でパスをもらってキープしながら時間を作ると、相手を一瞬の動きで外して、内側を追い越してきたアレックス・テレスのスピードを殺さない絶妙なパスを通した。そのままペナルティエリアに侵入したブラジル人サイドバックはGK強襲の豪快なシュートを放ち、観客がどよめいた。

 60分に訪れた今季初ゴールに最も近づいた瞬間は、シュートこそGKにセーブされてしまったが、守備で正しいポジションを取っていたからこそのチャンスシーンだった。相手の短いゴールキックの流れから、バックパスを処理しようとしたチキーニョ・ソアレスがGKに猛プレスをかけ、パスミスを犯した先に中島が待っていた。

 いつもよりゴールに近いポジションに入ったことで無謀なドリブルでの仕掛けが減り、少ないタッチでのシンプルなプレーが増えた。とはいえ課題が完全に改善されたわけではない。実際、トンデラ戦でも、下がりながらボールを要求する中島に対しボールを持ったDFや中盤の選手たちがパスを出すのを渋り、全体のバランスが崩れかけていた過去の試合で見たような場面は何度もあった。「背後にマークを背負っているのに…」「パスを受けた後どう展開するのだろう…」と、味方選手が困惑している様子はスタンドからも感じ取ることができた。

 ただ、これまで面白みに欠けていたポルトのサッカーに、中島が意外性や創造性をもたらしたことは確かだ。大まかに表現すればサイドを崩してクロスを上げ、フィジカル自慢のストライカーがなだれ込む、力任せに押し切るサッカーではなくなった。中島が入ることで前線に細かいコンビネーションやプレーの緩急が生まれた。

「家族」がもたらした心の平穏とピッチ上の好調

 試合後、記者会見でセルジオ・コンセイソン監督に「中島を先発起用したが、彼にどんなことを期待したのか? 彼は何を見せたのか?」と問うてみた。すると強面で頑固な印象の指揮官は、「私が中島に期待することは、他の全ての選手に期待することと同じだ。それは最大限の献身と、我々のやり方の中で働くことである」と、いつも通りの回答に続けて最近の背番号10の変化にも言及した。

「あなたには見えない多くの部分、特に家族との生活の面で、様々な状況を見なければならない。2週間前に中島の家族がポルトガルにやってきて、彼の気分が変わった」

 確かに12月上旬から中島の出場時間は徐々に伸び、プレーの印象もポジティブなものに変わってきている。トンデラに勝利した後、ピッチからスタンドに手を振る中島は久しぶりに充実した明るい笑顔を見せた。「彼は見事な反応を見せてくれ、彼の作ったゲームを私は楽しんだよ」というコンセイソン監督の評価とリーグ戦では初めてのフル出場は、今後のチーム内での立ち位置が変わっていくことを示唆しているかもしれない。

 一方で「サッカーとは『足もとのボール』についてだけのものではない」という言葉からは、中島の現状を集約し、課題をやんわりと指摘するような意図もうかがえる。指揮官の頭の中にあった「確信」に基づいた起用で輝きを放った背番号10だが、まだまだ改善や成長の余地を残しているということだろう。

 ポルトは年内に予定されていたリーグ戦を全て終えたが、全てクリスマスまでに国内カップ戦を2試合残している。勝っているチームを動かさない傾向にあるコンセイソン監督にとって、中島はいい意味で頭を悩ます存在になるか。格下相手にはなるが、ここからの2試合でいかにパフォーマンスを高い水準で維持していけるかは非常に重要になる。

 年明け早々にはスポルティングCPとのビッグマッチも組まれており、こうした試合でチームを勝利に導く結果を残すことができれば状況は大きく変わるだろう。中島の本来の輝きはまだまだこんなものではない。先発起用の意図とピッチ上での働きを読み解くと、今後への大きな期待を抱かざるを得ないという結論が導き出されてきた。

(取材・文:舩木渉【ポルトガル】)

【了】

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