勝利を手繰り寄せた鈴木武蔵のゴール
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2003年のEAFF E-1サッカー選手権(旧名=東アジア選手権)発足以降、日本は毎回のように初戦で苦しんできた。過去7回の初戦で勝利したのは、日本開催となった2003年と2017年の中国戦のみ。2005年韓国大会や2015年中国大会のように黒星発進を強いられたケースもあった。それだけに、2019年大会の幕開けとなる10日の中国戦は是が非でも白星でスタートしたかった。
だが、練習時間わずか2日の急造チームは案の定、入りから苦労した。序盤は全体にギクシャク感が拭えず、中国超級リーグのベテラン主体の中国に主導権を握られる。エンジンがかかってきたのは15分過ぎ。左サイドの遠藤渓太、森島司ら攻撃陣を軸に攻め込む回数が増えてきた。
そして、日本に大きなアドバンテージをもたらしたのが、前半29分の先制弾だ。佐々木翔の縦パスを上田綺世がヒールで落とし、裏に抜け出した森島がペナルティエリア左の深い位置までえぐって高速クロスを上げた。その瞬間、素早い飛び出しから右足を合わせたのが鈴木武蔵(札幌)。3月のコロンビア戦(日産)でA代表デビューしてから6戦目で待望の初ゴールで、本人も「結果を出せてホントによかった」と安堵感をのぞかせた。
後半の中国の巻き返しを考えると、三浦弦太の追加点も大きかったが、鈴木の先制ゴールがなければ難しい初戦を2-1で勝ち切れなかった。それは紛れもない事実だろう。
日本代表にいなかったタイプのシャドー
「11月のベネズエラ戦の敗戦もあったし、自分たちがやれるところを見せないと。それを一番示せるのが結果の部分。そこを突き詰めていきたい」と背番号9は中国戦前日に語気を強めていたが、意気込みがようやく得点という形になって表れた。しかも、これまで一度も一緒にプレーしたことのない上田や森島と短期間で意思疎通を図り、いい連携の中から生み出したゴールでもあった。その点も自信を深める要素になったはずだ。
「僕は森島君と逆のシャドーだったんで、相手との駆け引きを意識しながらあそこにいることを心掛けました。ニアでしっかり走り勝つことが重要でしたね」と本人も言う通り、最大の武器であるスピードを最大限生かしたゴールだった点に大きな意味がある。
森保ジャパンの2シャドー候補は堂安律や久保建英のような技巧派が多いが、シンプルに縦へ出られる鈴木のようなタイプもいれば心強い。北海道コンサドーレ札幌のミハイロ・ペトロヴィッチ監督も攻守が切り替わった瞬間の爆発的スピードと推進力を高く評価しているというが、森保監督もその凄みを改めて強く認識したのではないか。恩師・ペトロヴィッチ監督の起用法を踏襲することで、鈴木の良さをより一層、引き出せるという手ごたえも指揮官は感じたことだろう。
顕著になった改善すべき点
2シャドー争いに力強く名乗りを挙げた鈴木。ただ、今後に向けて課題に直面したのも確かだ。その最たるものがボールを収めて起点になるプレーだ。1トップでプレーする時からその技術や安定感の不足はしばしば指摘されてきたが、中国のようなタフで球際の激しい相手に寄せられて自身のマイナス面がより顕著になったと言わざるを得ない。
上田は最前線でもっと厳しいプレッシャーの中、時折2枚のDFを背負いながらボールをキープしていたし、A代表デビューを飾った森島も巧みなテクニックと状況判断を織り交ぜながら中国守備陣と駆け引きをしていたが、彼らに比べると鈴木のところで起点になる回数は少なく、ボールロストも目立った。前半から積極的な崩しを見せていた左サイドに比べて、右サイドの攻撃チャンスが少なかったのも、彼が潤滑油的な役割を十分に果たせなかったのがやはり大きかった。そこは今後の香港、韓国戦に向けて改善しなければならない点と言っていい。
「個人としてのレベルはまだまだ足りないんで、もっともっとそこを上げて、チームが苦しい時でも点が取れるFWになっていかないといけない。今回も1点じゃ足りないし、残り2試合で取れるだけ取ってアピールしていきたいです」と、鈴木本人も直面した問題点をクリアしようという意識は強い。そのためにもコンビネーションを突き詰めていく必要がある。
攻撃陣では2番目の年長者
「この試合は準備期間ほぼゼロでのぞんだけど、トレーニングからしっかり話し合っていけばもっともっと向上できる。日本の良さは連携やひたむきに走り続ける力、ハードワーク。それがしっかりできれば自ずから勝利に近づいてくると思います」
そう意気込みを新たにする鈴木は自らアクションを起こしていく立場にいる。U-22世代が23人中14人というフレッシュな構成の中、彼は攻撃陣では仲川輝人に次ぐ2番目の年長者。仲川がA代表初参戦という部分を加味すれば、鈴木が最も経験豊富なアタッカーと言ってもいいかもしれない。
だからこそ、強い自覚を持ってコミュニケーションを図り、若い世代との融合を図っていくことが肝要だ。それをやることで「生かし生かされる関係」を築くことができれば、ゴール数も増えてくるはず。そうやって大車輪の活躍する鈴木武蔵の姿を、今大会を通してぜひとも見てみたい。
(取材・文:元川悦子【韓国】)
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