波乱の展開を予感させた開始15秒
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UEFAチャンピオンズリーグは、最終節を残して7チームが既に決勝トーナメント進出を決めた。リバプールは5試合で10ポイントを挙げて首位にいるものの、3位・ザルツブルクとの勝ち点差は3ポイント。敗れれば3位転落の可能性もある状況で最終節の対決に臨んだ。
12月のリバプールは、26日間に公式戦9試合が組まれている。正気の沙汰ではない過密スケジュールの最初の3試合で、勝ち点9を掴むことに成功した。
4日のエバートン戦ではFWディボック・オリギが2得点、怪我に苦しみ今季初先発となったMFジェルダン・シャキリもゴールを奪った。続くボーンマス戦でも初先発のMFナビ・ケイタにゴールが生まれ、アレックス・オックスレイド=チェンバレンもリーグ戦初得点。そして、この試合ではケイタが公式戦2試合連続のゴール。抜擢に応えた控え選手が結果を出している。
グループリーグ突破がかかった一戦は、両チームの激しさが前面に押し出た試合となった。ハイライト映像を90分間ぶっ続けで見させられているかのように、目を離す暇のない展開だった。
開始15秒、リバプールのキックオフで始まると、MF南野拓実の落としからMFズラトコ・ユヌゾビッチのロングパスにFWアーリング・ハーランドが抜け出す。数十秒後に今度はFWファン・ヒチャンが裏に抜ける。どちらもDFフィルジル・ファン・ダイクが処理してリバプールは事なきを得たが、このシーンが後の波乱の展開を予感させるものとなった。
前半はザルツブルクが優勢
ザルツブルクはこの試合に4-3-1-2のフォーメーションで臨んでいる。今大会で既に8得点を挙げている19歳のハーランドは前線でファン・ヒチャンと並んで先発に起用され、トップ下には南野が入った。
リバプールはアンカーのジョーダン・ヘンダーソンがセンターバックの間や脇に落ちて、3-4-3の形でビルドアップを開始する。ザルツブルクは2トップが相手の最終ラインを、南野と2人のインサイドハーフは相手のインサイドハーフとサイドバックを中間ポジションで監視。ザルツブルクの5人がリバプールの7人を見る形となった。
ザルツブルクの前線は数的不利なのでボールを奪うことはできないが、リバプールも出しどころに困っていた。最終ラインから中盤やサイドバックにボールが出ると、ザルツブルクの激しい寄せに遭って前を向くことができない。結果、リバプールは前線へのロングボールに頼らざるを得なくなった。
ザルツブルクはボールを奪うと縦につけて2トップとトップ下の南野でカウンターを完結させてしまう。これを警戒したリバプールの両サイドバックは、タッチライン際の「定位置」を離れて、いつもより中央寄りのポジションを取った。
高いキック精度を誇る両サイドバックによる展開から、幾度となく相手ゴールを脅かしていた今季のリバプール。だが、相手の激しいプレッシングによってサイドチェンジという武器を封じられてしまった。
ザルツブルクがわずかに「優勢」だった前半。嵐のような戦いとは対照的に、台風の目に入ったかのように、スコアは動かずに前半を終えた。
奏功したリバプールの修正
先に仕掛けたのはリバプールだった。アウェイチームは後半、サラーを最前線、2列目に右からケイタ、FWロベルト・フィルミーノ、マネと並べ、中盤の底にヘンダーソンとMFジョルジニオ・ワイナルドゥムを配置。4-3-3-から4-2-3-1に形を変えた。
この采配は的中した。最前線のサラーはDFラインからのロングボールの収めると同時に、DFの裏を取る動きで相手のDFラインを下げさせた。2列目の3人は、それによって生まれたスペースでボールを受けられるようになり、敵陣への侵入が容易になった。
そして57分、リバプールが均衡を破った。DFトレント・アレクサンダー=アーノルドからDFアンドリュー・ロバートソンへのサイドチェンジのパスが通る。マネが左のハーフスペースでこれを受けて縦に突破。GKが飛び出てきたところでクロスを入れると、ゴール前で待っていたケイタが頭で合わせてゴールネットを揺らした。
さらにその直後、ヘンダーソンがDFラインの裏にボールを入れると、抜け出したサラーが飛び出してきたGKをかわす。ほとんど角度がない位置から右足でゴールを狙うと、ボールはゴールへと収まり、58分に追加点を挙げた。
2点を追うザルツブルクは68分、アンカーのユヌゾビッチを下げてFWダカを前線に入れる。さらにその7分後、ハーランドを下げてMF奥川雅也を投入。しかし、前半に猛威を振るっていたカウンターは、次第に散発的になっていった。
一方で2点を先行したリバプールにも、余裕は一切感じられなかった。75分にフィルミーノを下げてMFジェームズ・ミルナー、87分にケイタを下げてオリギを入れてゲームを締めくくった。
伏線は前回対戦にあった
試合はそのまま0-2で終了。グループリーグ突破のわずかな望みをかけて戦ったザルツブルクだが、勝ち点7のまま3位となり、ヨーロッパリーグに駒を進めることになった。
さかのぼること約2か月。10月3日にアンフィールドで行われたリバプール対ザルツブルクが、この試合の伏線になっていたのかもしれない。
ザルツブルクは4-4-2で試合をスタートさせたが、36分までに3失点。すると、南野をトップ下に配した4-3-1-2に布陣を変更。約21分間で3点を奪って試合を振り出しに戻した。最終的にはサラーがゴールを奪って軍配はリバプールに上がったが、ザルツブルクが敵地でCL王者を苦しめた。
ザルツブルクは前回対戦を踏襲して、4-3-1-2でこの試合をスタートさせている。鋭い出足で相手の攻撃を封じて、ボールを奪ったら縦へ推進していく。前半だけで6本の枠内シュートを放ったが、ゴールを割ることができなかった。“たられば”だが、前半に得点していれば、試合の行方は大きく変わっていただろう。
ユルゲン・クロップ監督は、相手のプレッシングにプレッシングで応戦した。前半こそ劣勢気味ではあったが、ハーフタイムに施した修正によってそれをひっくり返した。矛の鋭さはそのままに、斬り方を変えることで相手をねじ伏せたところに、CL王者たる所以を感じることができた試合だった。
(文:加藤健一)
【了】