カンテに精神的プレッシャーを与えた元代理人
『天使のような……』と形容されるほど、純粋な印象があるチェルシー所属でフランス代表のMFエンゴロ・カンテ。そんな彼が「詐欺罪で元代理人を提訴」などという、らしくない見出しとともに世間を賑わせている。
11月28日発売のレキップ紙によると、訴えられたのは彼の肖像権を管理する元代理人ヌアリ・キアリ氏(52)。フットボール好きのビジネスマンだという彼への罪状は、『詐欺』、『詐欺未遂』、『背任行為』、『プロのエージェントとしての不法行為』だ。
掲載されていたカンテ本人のインタビューによれば、キアリ氏はカンテに、「私のアドバイスどおりにすれば、君の周りの人にもっと良い思いをさせてあげられる」と言って近づいてきたらしい。しかし実際には、カンテいわく「僕が断るとハナから決まっているようなオファーしか持ってこなかった」
当然、案件は成立しない。それでもキアリ氏は、「自分はまっとうに仕事している。君が気に入らずに断っているだけなのだから、自分の働きに見あった手数料はしっかりいただく」と金銭を要求。カンテが言われたとおりにすると、金銭の要求はさらにエスカレートしていった。
このままでは状況は悪化する一方だと判断して契約解消を申し出ると、カンテの親しい人たちの名誉を傷つける噂を流すなどして、カンテに精神的なプレッシャーをかけてきたという。
「一連のことにほとほと疲れた」(カンテ)
2017年7月、カンテはキアリ氏に15万ユーロ(約1800万円)を提示して契約解除を申し入れたが、話はこじれ、2年も経ったのちにこの提訴にいたった。しかしキアリ氏は、それより以前、今年5月に、カンテの代理人アブデルカリム・デュイス氏を、「恐喝罪」で訴えていた。デュイス氏が、キアリ氏が関わったカンテのアディダスとの契約から得た手数料の取り分を請求してきたとも訴えている。
キアリ氏の件だけなく、カンテの代理人デュイス氏と、「相談役」という名目の取り巻きたちの間にも、レスターからチェルシーに移籍したときの手数料の分配をめぐってトラブルが発生している。カンテのパリ郊外の実家で行われたミーティングの席では、銃をちらつかせて脅した、脅さない、の物騒な揉め事もあったらしい。
カンテは「一連のことにほとほと疲れた」とインタビューでもらしていたが、もっともである。逆によくこの状況の中、サッカーに打ち込んでこられたものだと感心する。
カンテがインタビューの中で訴えていたのは、いかにフットボール選手が、言葉悪いが「クイもの」にされているか、ということだ。カンテは、「周りの人たちのためになる、という言葉に魅力を感じて、慎重な判断を怠った自分の不用心さが招いたこと」と反省しているが、実際、プロ選手、とりわけ代表クラスともなると、彼らを利用しようして近づいてくる良からぬ輩は後を立たない。
ありとあらゆる種類の団体などから、彼らのイメージアップのための広告塔になってほしいというオファーが舞い込み、ときには、まったく知らない人物が、代理人、と名乗っていることさえあるという。
よほどの警戒が必要だが、サッカーに集中しながら両立させるのは難しい。だからこそ、そういうことを請け負ってくれる代理人を置くのに、その代理人から迷惑をこうむるなんぞ、最悪のパターンだ。
カンテに笑顔は戻るか
すでに記憶に古い、2016年に勃発した、マテュー・ヴァルビュエナとカリム・ベンゼマの『セックステープ事件』も、取り巻きたちのいざこざに巻き込まれたものだった。ベンゼマの関与については、3年経った12月9日に判決が出ることになっている。
ここでベンゼマの完全無罪が証明されたら、レアル・マドリーで気を吐くベンゼマのフランス代表復帰論もまた再熱しそうだが、この事件でベンゼマが自分の地元の仲間を信じて行動してしまったのも、信用できる人物が限られている、という状況にあるからだ。いろいろな人が近づいてくる中で、本当に信頼している一握りの仲間がいる場合、彼ら選手たちは、その仲間をとことん信じる。
今回のカンテの一件は、事件そのものもさることながら、トップレベルで活躍するプロ選手の、富と名声を得たがために付随してくる苦悩を象徴している。
いま思えば…ではあるが、11月の代表ウィークのモルドバ戦でのカンテのパフォーマンスは、どこか散漫としていた。せっかくの才能が、ピッチ側のゴタゴタで潰されてはもったいなさすぎる。
カンテに天真爛漫な笑顔が戻り、心の底から安心した環境でサッカーに打ち込める日がくることを願ってやまない。
(文:小川由紀子【フランス】)
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