久保が作り出す決定機の数々
いくつかのスペインメディアは、MF久保建英がリーガ・エスパニョーラ第15節のべティス戦でベンチスタートになると予想していた。前節はコンディション不良で欠場していたFWラゴ・ジュニオールも戻ってきたことで、攻撃陣の枚数が揃っていたからだ。地元メディアが言う通り、久保が控えに回ってもおかしくはなかった。
しかし、試合前に発表されたスタメンの中に、背番号26がいた。チームのオフェンスには欠かせないラゴ・ジュニオールを差し置いての先発起用だった。久保はこれで4試合連続スタメン入り。同選手に対するビセンテ・モレノ監督からの信頼と期待は明らかである。
久保はこの日、守備時に4-4-2、攻撃時に4-3-3の右サイドでプレー。しかし、立ち上がりは攻撃時に3バックを敷き、両サイドバックを高い位置に上げ攻めに厚みをもたせるベティスペースで進む。久保も当初は守備に回ることも多く、なかなか持ち味を発揮することができなかった。
するとマジョルカは試合開始からわずか6分、MFイドリス・ババがペナルティエリア内でFWナビル・フェキルを倒しPKを献上。これをMFホアキン・サンチェスにキッチリと決められ、早い時間に1点のリードを奪われてしまった。
同点に追いつきたいマジョルカは、当然攻めに出る。流れがベティスに傾いていたのは明らかであったが、その逆風に勇気を持って挑み、なんとか相手ゴール前に侵入しようという強い姿勢が見られた。その中でひと際躍動していたのが、久保であった。
12分には久保が右サイドを駆け上がるとカットインから左足を振り抜く。これはGKの正面に飛んでしまったが、フィニッシュで終われたことはチームにとっても大きかった。
さらにその2分後には右サイドのDFフラン・ガメスからスルーパスを貰うと、ペナルティエリア内で抜群のファーストタッチを見せる。寄せに来たMFアンドレス・グアルダードを一発で外した久保は、そのままニアサイドを狙ってシュート。これはGKホエル・ロブレスのファインセーブに阻まれたが、久保の存在感はベティスを完全に困らせていた。
しかし、マジョルカは33分、フェキルに強烈なミドルシュートを叩き込まれリードを2点に広げられてしまった。久保の奮闘はあったものの、やはり全体的にはアウェイチームに押されていた印象だ。
「ハーフタイムに私は彼らに勇気を出さなければならないと言った」
クラブ公式サイトによると、ビセンテ・モレノ監督は試合後の会見でこのように話していたという。その指揮官の言葉通り、マジョルカは後半にベティスを押し込む時間帯を多く作り出す。そこで輝きを放ったのはまたしても久保であった。
攻撃陣の序列は変わりつつある
後半開始からわずか10分でラゴ・ジュニオールがPKを沈め1点を返すことに成功したマジョルカは、その後もベティスに襲い掛かる。
59分には相手のクリアミスを拾った久保からDFアントニオ・ライージョへグラウンダーのクロスが渡り、シュート。これはロブレスのセーブに防がれたが、決定的な場面であった。
さらにその1分後、久保がペナルティエリア角付近でボールを持つと、ドリブルを開始。細かなタッチで相手選手4人をかわすと、最後はMFダニ・ロドリゲスの決定機を演出した。久保は短時間で2つの決定的な場面を作り出したのである。
さらに73分には右サイドで久保がボールを持つとカウンターが開始。首を振りながらドリブルし、周りの状況を素早く確認した久保は、D・ロドリゲスのサイドに流れる動きによって空いた中央のスペースへ侵入する。背後からMFセルヒオ・カナレス、その前には2人のDFがいたが、久保はその3人にボールを奪われことなく、最後はラゴ・ジュニオールへ繊細なスルーパスを供給。背番号11のタッチが乱れシュートまでとはいかなかったが、ドリブルの質、状況判断、パスの質と久保の魅力がすべて詰まったプレーであったと言える。
しかし、マジョルカは久保の働きもあって何度か決定機を作り出したが、それを生かし切ることができず1-2で敗北。「前半はベティス、後半は我々が良かった」(クラブ公式サイト参照)とはビセンテ・モレノ監督の言葉だが、多くのチャンスをゴールに結びつけられなかった後半の内容はマジョルカにとって悔やまれる。これでリーグ戦は連敗。ダメージは小さくない。
さて、2試合続けてフル出場を果たした久保だが、この日のパフォーマンスも申し分なかった。データサイト『Who Scored』によると、背番号26はこの日、チームトップタイとなる3本のシュート、決定的なパス1本、ドリブル成功数2回を記録。同サイト内ではスタメン出場を果たした選手の中では最も高い「6.7」という評価が与えられている。攻撃面での存在感は抜群であったと言える。
久保はこの日、ほとんど中央へ絞ることがなかった。試合後のヒートマップを見ても、真ん中のエリアだけ色がついていないのだ。それだけ、サイドに張りながらプレーしていた、ということになる。
マジョルカ加入当初はタッチライン際に張ると、サイドで孤立し、味方との呼吸も合わず相手に囲まれるといったことも多かったが、この日はサイドに張ってもシュート数3本を記録するなどゴール前に顔を出すことができている。これは単純に、味方選手が久保の動きを見てくれており、サポートの速さなども改善された部分が大きい。久保が加入当初よりプレーし易くなっているのは明らかで、だからこそここ最近は攻撃面で放つ輝きが大きいともいえる。
久保の活躍によってマジョルカの攻撃陣の序列は変化しつつある。しかし、それはポジティブなことだ。ここ最近のゲームを見ても分かる通り、昇格1年目のクラブに久保の存在はもう欠かすことができないといっても過言ではない。久保自身もマジョルカも変化の時期を迎えている。あとは、結果を残すだけだ。
(文:小澤祐作)
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