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トッテナムはどう変わったのか? モウリーニョによる新たな色、重要なカギを握るのは…

プレミアリーグ第13節、ウェストハム対トッテナムが23日に行われ、2-3でアウェイチームが勝利を収めている。ジョゼ・モウリーニョ監督の初陣ということもあり、大きな注目を集めたこの一戦。試合は終盤までわからない展開となったが、良い時間帯で3点を沈めたトッテナムが逃げ切る形となった。その中で見えた、モウリーニョの色とは?(文:小澤祐作)

text by 小澤祐作 photo by Getty Images

注目を集めたスペシャルワンの初陣

トッテナム
トッテナムはモウリーニョ監督の初陣を3-2で飾ることになった【写真:Getty Images】

 19日に発表されたニュースは、世界のサッカーファンを驚かせた。トッテナムを指揮していたマウリシオ・ポチェッティーノ監督が、成績不振により解任されたのである。同クラブを指導して今季で6年目。その間にクラブを4季連続でプレミアリーグのトップ4に導き、昨季はチームの歴史上初となるチャンピオンズリーグ(CL)決勝進出も果たしていた。いまのトッテナムを築き上げた最大の功労者といっても過言ではない男の別れは、多くのスパーズファンに悲しみを与えることになった。

 しかし、その解任報道を払拭させるかのような勢いで世界を驚かせたのが後任監督の発表であった。現地時間20日、トッテナムはクラブ公式サイトにおいてジョゼ・モウリーニョが新指揮官に就任することを発表したのである。チェルシーやインテル、マンチェスター・ユナイテッドなど数々のビッグクラブを率いてきた名将が、いよいよピッチに帰ってくることになったのだ。

 そのモウリーニョ監督の初陣となったのが、23日に行われたプレミアリーグ第13節のウェストハム戦となった。スペシャルワンの就任から試合まで、与えられた準備期間は2日しかなかったが、その短い時間でどれほど自分の色を出せるのかには大きな注目が集まることとなった。

 試合開始前に発表されたスタメンにはFWハリー・ケインやMFデレ・アリなどこれまでにも主力としてチームを牽引してきた選手が順当に名を連ねていたが、中にはMFエリック・ダイアーやFWルーカス・モウラ、DFベン・デイヴィスといった選手の名もあった。彼らはポチェッティーノ監督の下であまり出場機会に恵まれているわけではなかったが、こうした選手を起用してきたところに、モウリーニョの色がさっそく表れたといった印象が強かった。

 システムはオーソドックスな4-2-3-1。トップ下にデレ・アリ、左サイドハーフにはFWソン・フンミン、右にルーカスでダブルボランチはMFハリー・ウィンクスとダイアーという並びになった。ただ、ここまでの配置などはポチェッティーノ監督時代にもあったもの。この段階ではまだモウリーニョが何を仕掛けてくるのか定かではなかった。しかし、試合開始のホイッスルが鳴り響くと、ポルトガル人指揮官の色がさっそく表れた。

カギは左のB・デイヴィス?

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モウリーニョ監督の下、ベン・デイヴィスが肝になる可能性は高い【写真:Getty Images】

 立ち上がりからボールをキープしたトッテナム。その攻撃陣の中で重要な役割を果たしていたのがデレ・アリだった。

 相手の中盤底と最終ラインの間のスペースを狙うイングランド人MFは、試合開始早々からそのエリアで縦パスを引き出し、ケインやソン・フンミンといった選手を生かすことが多かった。実際、3分、6分と縦パスを引き出したデレ・アリから裏のスペースへ走り込むケインへスルーパスが出ており、いずれもオフサイドになってしまったが、そうした狙いがあったことは明らかであった。3分と6分に見たこの形からゴールに結びつかなかったとはいえ、ここの狙いはウェストハムに小さなダメージを与えていた。それが、後の得点に繋がるわけである。

 さて、トッテナムの攻撃だがビルドアップの中心となるのはベン・デイヴィスであった。右サイドバックのDFセルジュ・オーリエは高めの位置をキープし、前4枚にプラスして攻撃を活性化させる。それにより左のB・デイヴィスは低めの位置を取ることでDFダビンソン・サンチェス、DFトビー・アルデルヴァイレルトと3バックの形を作った。

 そして、ビルドアップの場面ではB・デイヴィスからボランチの一角を務めるウィンクス、あるいは一つ飛ばしてデレ・アリかソン・フンミンへの縦パス、といったものが多く、モウリーニョがここを一つの起点と考えている可能性は非常に高かった。実際、この日のB・デイヴィスのパス成功率は90%と非常に高く、パフォーマンスも悪くない。と考えると、このポジションではDFダニー・ローズやDFライアン・セセニョンよりもB・デイヴィスが起用される確率が高そうだ。ここも、モウリーニョの新たな色といっていいだろう。

 と、序盤からトッテナムの形が見えることになったが、試合自体にはそんな大きな動きはなかった。ウェストハムも攻めの形がどこか疎らで、トッテナムの守備陣に怖さを与えることができない。FWセバスティアン・ハラーにボールが収まると若干の可能性は感じられたが、その後が続かない。16位と低迷しているチームの苦しい事情が、試合内容にハッキリと浮き彫りになってしまった。

 一方でトッテナムはルーカスとソンの配置を変えたりと様々な動きを見せながらウェストハムの守備陣を困惑させる。相変わらずダブルボランチをそこまで高い位置に上げることはなく、あくまで攻撃の中心を担うのは前の4枚。攻めていただけにすぐ得点が欲しい時間帯であったが、モウリーニョは頑なにその姿勢を崩すことはなかった。

 しかし、ようやくその瞬間が訪れた。35分、ウィンクスからの縦パスを引き出したデレ・アリが前を向き、ソン・フンミンへラストパスを送ると、韓国人FWは対峙していたDFイサ・ディオプをあっさり外してシュート。これがゴール右隅に決まり、トッテナムが先制に成功したのである。

 ウィンクスからデレ・アリ、といった形は前半開始早々から見られていたものだ。そこからケインやソン・フンミンを生かす形も得点シーンとすべて同じである。ただ、前半の立ち上がりにケインが背後を狙う動きを見せていたことで(ゴールシーンではソン・フンミンやルーカスが同じ動き)、ウェストハム守備陣の中にはデレ・アリに寄せるのか、あるいは背後のエリアを消すためにラインを下げるのかの判断が必要となっていた。しかし、最も痛かったのはその2択が曖昧となって最終ラインとボランチの間が空いてしまったこと。なので、デレ・アリはボールを収めたあとも余裕があった。

 モウリーニョの狙い、そしてそれを継続したからこそ生まれた理想的な得点であったと言える。

後半は苦戦もなんとか逃げ切る

 トッテナムは43分にも左サイドを崩したソン・フンミンからクロスが上がると、これをルーカスが押し込んで2-0。ウェストハムにはシュートわずか2本しか許さないなど、ほぼ完璧な前半を送ることに成功した。

 さらに後半立ち上がりの49分にもオーリエのクロスをケインが頭で合わせ3-0。敵地でウェストハムを大きく突き放すことに成功したのである。

 ウェストハムは攻撃の糸口がまったく見えず、大苦戦を強いられていたため、この時点でトッテナムの勝利は確実かに思えた。しかし、マヌエル・ペジェクリーニ監督が送り出したある選手によって流れは一気に変わる。FWミカイル・アントニオであった。

 右サイドバックからサイドハーフ、トップ下、CFと幅広いポジションをこなすことができる同選手は、馬力のある突破と破壊力抜群のシュートを武器に相手守備陣を粉砕できるプレイヤーだ。この日は後半頭から出場。当初はトッテナムの対応に手を焼いていたが、時間が経つにつれ躍動した。ポジションも当初は左であったが、中盤が過ぎると右サイドに固定されるようになった。

 そのアントニオは73分に見事なシュートを突き刺し1点を返した。これで流れは追いつこうと前に出てくるウェストハムに傾いたのである。

 モウリーニョ監督も当然手を打つ。アントニオが回ってやや後手を踏んでいた左サイドに人を集めてケア。ウィンクス、ダイアーをやや左側に傾け、中央を締めると同時にアントニオに突破を許さない。82分にはルーカスに代えMFムサ・シソコを投入。ウィンクスとダイアーが左に寄って手薄となっていた右サイドのエリアをカバーさせる考えであった。

 トッテナムは後半ATにCKからDFアンジェロ・オグボンナに得点を許し1点差に詰め寄られた。しかし、勢いのある中で奪いきった3点が大きく、試合は3-2のまま終了。モウリーニョ監督はトッテナムでの初陣を白星で飾ることになった。

 後半の試合運びや守備の強度には課題が見受けられたのは事実。ダイアー起用もそこまで効果的であったとは言い難い。まだ、この試合ではB・デイヴィスが負傷。ここを欠いた場合、ビルドアップの起点をどこに定めるのかも課題となる。そして、MFクリスティアン・エリクセンやDFヤン・フェルトンゲン、MFジオバニ・ロ・チェルソやMFタンギ・エンドンベレといった選手の起用をどのように考えているのかも、今後のトッテナムにおいては重要となるだろう。

 とはいえ、就任から間もなくしての大事なリーグ戦。そこで得た勝ち点3は大きいだろう。今はとにかく結果が必要な時である。モウリーニョ・トッテナムはまだまだ続く。これからも名将の手腕に注目していきたい。

(文:小澤祐作)

【了】

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