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モウリーニョ監督就任でトッテナムはどう変わるか、そして懸念は…? 選手層と指揮官の好みで分析

トッテナムの指揮官にジョゼ・モウリーニョ氏が就任した。マウリシオ・ポチェッティーノ監督の解任発表後間もなくの就任となったが、モウリーニョ監督とトッテナムの相性はどうか? 選手の顔ぶれと新指揮官の好みを分析する。(文:内藤秀明)

text by 内藤秀明 photo by Getty Images

新監督はスペシャル・ワンに

ジョゼ・モウリーニョ
トッテナムの新指揮官に就任したジョゼ・モウリーニョ【写真:Getty Images】

 個人的な意見を言うと、ポチェッティーノ監督の解任は非常に残念だ。これまでの功績を見れば優秀な監督であることは疑いようがない。また右SBなど一部穴のポジションもあるものの、全体的には質の高い選手も揃っており、けが人の復帰と共にチームの再建自体は可能かに思えた。

 ただし近年、英国の各チームの番記者をこぞって引き抜いていることもあり、様々な内部情報も発信している米メディア『ザ・アスレチック』によると、財布の紐を固く締めていることで有名なダニエル・レヴィ―会長が、コーチングスタッフ分も含めて1200万ポンド(約18億円)もの違約金を払ってまで解任を言い渡したのだというのだから、簡単な判断だったとは思えない。

 一方で最終的に解任に至ったということは、何かが修復不可能な状態になっていたのだろう。同じく米メディア「ザ・アスレチック」によると、トビー・アルデルヴァイレルトやクリスティアン・エリクセンなど、退団予定だった選手たちが残留したことで、チーム内の不満が大きくなっている情報もあった。戦術云々の前に、マネジメントが機能しない状態になっていたのかもしれない。

 そして衝撃のニュースが発表されてから、およそ半日ほどで、既に後任がほぼ決まっているという報道も出てきていた。最も可能性が高いのが、元マンチェスター・ユナイテッドのジョゼ・モウリーニョと伝えられた。英メディアの中でも信憑性が高いと言われている『スカイスポーツ』や『ガーディアン』に記事を寄稿しているスポーツ・ジャーナリストのファブリツィオ・ロマーノ氏は、自身のInstagram上で

「ジョゼ・モウリーニョは、トッテナムの新監督として選ばれた。(契約も)ほぼ合意済み。エージェントは、現在、契約完了に向けて動いているところだ。すぐにダニエル・レヴィ会長とも対面するはず。『スペシャル・ワン』が帰ってくる!」

 と、投稿した。

 また英ブックメイカー『スカイ・ベット』でも、「スパーズの新監督」のベッティングのオッズが、「一番人気・モウリーニョ・1.07倍」の状態になるなどほぼ決まったも同然の様子だったところ、現地時間20日早朝6時、解任からおよそ13時間後、モウリーニョの監督就任をクラブが公式に発表した。

 初期段階では機密情報を流出させず、監督解任を発表したとほぼ同時に新監督発表という、横槍が入る前に契約を締結させるこの一連のスムーズな流れに驚くばかりである。財布の紐だけでなく口も固い組織も作り、裏で粛々と仕事を進めるあたり、さすがレヴィ会長といったところか。

モウリーニョが来るとどうなるのか

 では、実際問題、モウリーニョのスパーズ新監督就任は、有りか無しかでいうと、個人的には有りだと思っている。理由の一つにモウリーニョ好みの選手たちが揃っている。けが人がおらずフルメンバーのスカッドだった場合でスタメンを予想すると、GKはベテランのウーゴ・ロリスだろう。はやく長期離脱から復帰して欲しいものだ。

 最終ラインは4バックで右からフアン・フォイス、アルデルヴァイレルト、ヤン・フェルトンゲン、ベン・デイビスを起用するのではないだろうか。ポルトガル人監督は、最終ラインには安定した守備を求め、攻撃性能はそこまで…だ。そういう意味ではフォイスにとっては、CBでは起用されるチャンスはないだろうが、守備的なSBとして名を上げる大きなチャンスが訪れたとも言える。

 中盤については2ボランチを好む。運動量豊富で技術もしっかりしているタンギ・エンドンベレは確定だろうが、相方は誰になるのか悩ましい。

 モウリーニョの傾向でいうと大柄な選手…ネマニャ・マティッチやマルアン・フェライニを置きたがる傾向にあるため、順当にいけばムサ・シソコ。フランス人MFの予測不可能な攻め上がりが守備面で気になるようなら、エリック・ダイアーを起用するはず。近年伸び悩んでいる大型MFにとっては、この監督交代は救いになる可能性もある。それはヴィクター・ワニャマにとっても同様かもしれない。

 2列目の中で鍵になるのは、トップ下だ。ユナイテッドでは、ジェシー・リンガードを起用し、守備の場面ではストライカーの後方で緻密なポジションチェンジを繰り返させて、常に相手のビルドアップを阻害する役割を担わせた。このような相手の嫌がることをさせたら天下一品の選手がいる。デレ・アリだ。

 直近は復調気味だが、2019年は怪我や得点力不足に悩まされる時期が長かったイングランド代表のタレントは、モウリーニョが率いるトッテナムにおいて最も輝きを見せる可能性がある。守備面での貢献に加えて、ゴールに近い2列目の中央で起用されることで得点の量産も考えられる。

 インサイドハーフでもそつなくプレーできる器用な選手だが、やはり得点感覚や相手をおちょくる南米的なプレーは2列目でこそ生きる。モウリーニョの監督就任で最も期待したいのはアリなのだ。

 両翼に関しては選択肢が豊富だ。ソン・フンミン、エリック・ラメラ、ジオヴァニ・ロ・チェルソ、退団しなければクリスティアン・エリクセンなどのアタッカーたちが、試合に応じて使い分けられるはず。幸いなことにスパーズの中盤にはハードワークを怠る選手はいない。モウリーニョのおめがねにもかなうはずだ。

 そしてワントップは言わずもがな、ハリー・ケイン。ポチェッティーノはソンをトップの位置で使うことも好んだが、モウリーニョは最前線に高さや強さを求めることのほうが多い。そういう意味ではケインが適任だ。

 控えにフェルナンド・ジョレンテもいれば試合終盤のパワープレー要員にもなって完璧だったのだろうが、残念ながらスペインの大型FWは今年の夏にナポリへ移籍してしまった。

モウリーニョが来た際の懸念

 ハードワークを求める監督の戦術と選手のプレースタイルはフィットしている。最終ラインを除けば全体的にチームが若く、チャレンジャー精神を持った選手が多いのもモウリーニョに合うだろう。なによりプレミアリーグやチャンピオンズリーグなどのビッグタイトルを獲得することで、シティやリバプールと真の意味で肩を並べたい時期に、タイトル獲得請負人が来るというのも悪くない。

 ただし懸念点もある。一つ目は言わずもがな、サッカーが守備的であること。ポチェッティーノはリスクを冒す選手采配も多かったが、モウリーニョはそうではない。そのスタイルにファンは我慢ができるのか。

 二つ目は多くの選手がモウリーニョのサッカーにフィットしているが、一部、戦力外になりそうな選手もいる。そのうちの一人がハリー・ウィンクスだ。シンプルなパスワークでリズムを作るイングランド代表MFだが、モウリーニョはもっとわかりやすく守備での貢献や、攻撃で突破できるMFを起用する。

 なにより上背のある選手を好むポルトガル人監督は、ユナイテッド時代、出場選手の半数が190cm超えていたこともあるほどだ。アカデミー出身の小柄なゲームメイカーは良い選手だけに、なんとかその才能をモウリーニョに認めさせたいところである。

 三つ目は右腕ルイ・ファリアの不在だ。結局、ユナイテッドのラストイヤーでは、ポグバをコントロールできなかったなどのマネジメント面での問題や、コンディション調整に失敗するなどの問題が重なり解任に至ったが、その両方において重要な役割を果たしていたのが、約17年間も仕事を共にした相棒だったという。

 モウリーニョは戦術的ピリオダイゼーション理論という、コンディショニングも含めて全てのプレーに関しても、典型的な筋トレではなくボールプレーを中心に行る理論を重要視しているが、その方法論は誰でも再現できるわけではない。そういう意味ではファリアが現在カタールのアル・ドゥハイルSCで監督を務めている以上、新しいアシスタントマネージャーを探さなければならない。

 と、懸念点も示したが、幸いなことにモウリーニョには約1年間の休暇があった。この間に新相棒を発見している可能性もある。あるいは、ユナイテッド時代には「もう古い」とまで言われた戦術面や選手選考に関してもアップデートがあるかもしれない。これまでほぼ休みなく監督を続けてきたタイプだからこそ、今回の1年間をどう有効活用したかについては気になるところである。

 いずれにしても、ポチェッティーノ監督を解任した時点で、モウリーニョが最も妥当な後任であることに変わりはない。スペシャル・ワンは、イングランドの地で再び何を見せてくれるのか。

(文:内藤秀明)

【了】

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