ユベントスに屈するも…ミランは健闘
1-0。78分、アレッシオ・ロマニョーリがエリア内でパウロ・ディバラに抜かれ、シュートを決められてしまう。これが決勝点となり、ミランはユベントスに屈した。開幕から大不振で順位低迷のおり、戦前の予想通りに破れてしまう。ブックメーカー大手ビーウィンのオッズは、ユーベの勝利が1.44に対しミランの勝利は7.25(11月5日時点)と圧倒的な差がついていた。
しかしながら、ピッチ上のパフォーマンスではオッズが示すほどの差は感じられなかった。むしろ、優勢に試合を運んでいたのはミランだったのだ。枠内シュートはユベントスの5に対し、ミランは7。ユーベのGKヴォイチェフ・シュチェスニーのファインセーブに阻まれていたものも幾つかあった。
「そもそもが技術に無頓着ではなく、質の高いボール回しをしてくるチームだ。彼らの今日のパフォーマンスは、今シーズン全ての試合の平均を遥かに上回るものだったはずだ」。ユベントスのマウリツィオ・サッリ監督は試合後、伊スカイ・スポーツのインタビューに対しミランへの賛辞を送っていた。
ミランのステファノ・ピオーリ監督も、自信を持って前を向いていた。「ドローでも順位には何もならなかったとは思うが、若いチームの士気を引き上げてくれるゲームにはなったはずだ」。途中就任後、これで5試合1勝1分3敗。だが、ユベントス相手のこの3敗目は、チームの再建に希望を持たせる内容のものだった。
若手の育成に長け、組織的なサッカーに定評のあるピオーリの手腕はそこかしこに見て取れた。まずは非常にコンパクトな布陣。最終ラインから前線までの距離は30メートル以内の間にきちんと収まる。最終ラインはしっかりと押し上げ、中盤でのプレスとボール奪取を促進させていた。
そしてユーベの攻撃を遮断して、ショートカウンターに転じるための動きが良く整備されていた。一見4-3-3だが、両ウイングは中へと絞り、事実上4-3-2-1の“クリスマスツリー”のように中盤に人数を置いている。これによりユーベの中盤へ激しくプレスを掛けていくとともに、ボールを奪った後でショートパスを回しやすくするような感覚を整えている。
右のスソ、左のハカン・チャルハノールは中へと絞って外を開けており、そこにはサイドバックがオーバーラップしてくる。右のアンドレア・コンティ、そして左のテオ・エルナンデスはともに攻撃が持ち味。両者とも即座に上がり、前線での攻撃に参加していた。
C・ロナウドも苦戦したミランの守備
こういう戦術の中で、若手で構成されたミランのMF陣の技術が生かされる。レジスタを務めたイスマエル・ベナセルは左右に的確にボールをさばき、ラデ・クルニッチも着実にボールを前に運ぶ。そしてルーカス・パケタは精力的に守備をこなしたと思えば、即座に前線へスルーパスを狙うマルチな仕事ぶりを見せていた。
さらにユベントスのシュート数が抑えられていたのも、ミランMF陣の貢献による部分は小さくなかった。すぐに戻ってラインを形成し、サイドやセンターのヘルプに回る。スペースを消し、ラストパスを出させないようにしていたのである。
クリスティアーノ・ロナウドがパスミスを連発して55分で交代を命じられたのも、彼らの手柄と言っても大袈裟ではあるまい。サイドに流れ、中盤に落ちてきた時には必ず中盤の一人が張り付き、スペースを消しにかかる。サッリ監督曰く「膝に問題を抱えてコンディションが悪かった」そうだが、CR7のプレーから精彩を奪うだけの守備をミランが組織として展開していたこともまた事実だ。
しかし強いチームには、敵の守備組織を単独で解体することのできる選手が交代要因として控えている。組織でユーベの攻撃を制限し、C・ロナウドを封じたミランは、途中から入ってきたタレントたちにしてやられることになった。
まずサッリ監督がC・ロナウドを下げて投入してきたのは、左足の技術で攻撃に変化がつけられるディバラ。そしてトップ下のフェデリコ・ベルナルデスキが疲れてきたところで、ドリブルに絶対の自信を持つドウグラス・コスタを投入。フィジカルコンディションが良好で、前線で自在に動く上に繋ぎも正確にこなすゴンサロ・イグアインも絡んだ前線のトリオが、最終的に決勝点の場面を作り出した。
ミランはここから這い上がることができるか
78分、決勝点のアクションはまずD・コスタが中盤で相手のプレスを一枚剥がすところからスタートしている。ドリブルで翻弄した後、下がった位置に下りてきたディバラにパス。ディバラは中盤の別の選手にボールを預けて前に出ると、前線の中央に張っていたイグアインにパスが回る。イグアインは躊躇なくダイレクトでパスを出した。そこには、ディバラが上がってきていた。
中盤で一枚守備を剥がされてから、後手の対応になってまんまとゴール前にボールを運ばれたミラン。「高い位置に出過ぎていた」というロマニョーリはあっさりかわされる。その際ディバラは利き足の左ではなく右にボールを置くことになるが、それでも正確なシュートを打ち切ってしまうのが個で勝負を決めるタレントの所以だ。インテルとのイタリアダービーで先制点を奪った10番は、次は途中出場から決勝点を奪った。
チームワークを突き詰めても個で突き放されてしまうのが、今のユーベとミランの力の差だ。この日の健闘についても、組織プレーのため飛ばしすぎて終盤に点を取られたと意地悪に評価することもできる。もっとも今の時点では、若手中心にシフトした布陣の力を引き出すためには組織の力を伸ばす以外にはあるまい。経営状態から不安の多いミランにとって、このシーズンを戦い抜くためには唯一の方法であると言える。
その上で、ピオーリ監督は可能な限りのことを試みているのは伝わってくる。他のスポーツも参考にしつつ多角的に戦術を研究する一方、選手をまとめていくマネジメント能力にも定評がある指導者だ。かつてインテルで指導を受けていた長友佑都(現ガラタサライ)は「メンタルコントロールは抜群で、試合に出てない選手も誰一人文句を言わない」と評していた。今のミランを、復調へと持っていけるのかどうか注目だ。
(文:神尾光臣【イタリア】)
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