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レアルが狂わせたエイバルの歯車。4-0大勝は必然、白い巨人を照らしたモドリッチの頭脳という光

リーガ・エスパニョーラ第13節、エイバル対レアル・マドリーが現地時間9日に行われ、0-4でアウェイチームが勝利している。これで公式戦5試合で無失点としたマドリー。チームはマジョルカ戦での敗北から見事に立て直している。この試合では守備の強度も素晴らしかったが、違いを魅せたのはやはりあの男だった。(文:小澤祐作)

text by 小澤祐作 photo by Getty Images

エイバルを壊した前半のマドリー

レアル・マドリー
レアルは敵地でエイバルと対戦し、ベンゼマの2ゴールなどで4-0と大勝している【写真:Getty Images】

 公式戦4試合連続無失点中と抜群の安定感を誇るなど、ここ最近調子を上げてきたレアル・マドリー。10月19日に行われたリーガ・エスパニョーラ第9節のマジョルカ戦で0-1の敗北を喫したのは予想外であったが、チームはそのショッキングな試合を経て、見事立て直してきた印象だ。

 そんなマドリーは現地時間9日にリーガ・エスパニョーラ第13節でエイバルと対戦している。相手はリーグ戦12試合を終えた時点で14位につけるなど、マドリーからすれば格下という位置づけになっていたが、ここ最近のエイバルはビジャレアル、レガネスから連勝を奪っており、調子は上向き。マドリーにとってはアウェイでのゲームということもあり、そう簡単な展開にはならないことが予想されていた。

 ホセ・ルイス・メンディリバル監督の下、ハイライン&ハイプレスを基本とするエイバルは、この試合でも立ち上がりからマドリー相手に自分たちの色を出す。相手の最終ラインまで猛烈なプレッシャーを与え、マドリーのビルドアップを的確に阻止。まず守備で優位に立ったところで、ショートカウンターを繰り出し一気にゴールへ迫る。こうした狙いをエイバルが持っていたことは、試合開始間もなくのアクションを見ても明らかだった。

 しかし、「狙い」を持っているのは当然マドリーも同じである。そうしたものが表れたのが、3分のシーン。左サイドのDFフェルラン・メンディからMFルカ・モドリッチにボールが出ると、エイバルが一度最終ラインを上げる。その瞬間にFWカリム・ベンゼマが裏に抜け出す動きを見せると、モドリッチから浮き球のスルーパスが出る。ここは結果的にオフサイドとなってしまったが、相手DFラインの裏をマドリーが突こうとする考えは、このシーン一つから読み取れた。

 17分にはその狙いが功を奏し、マドリーが先制に成功する。左サイドでFWエデン・アザールがボールを持つと、相手の背後へ抜け出したベンゼマへスルーパス。背番号9はボールをキープし、クロスを上げると、中央でモドリッチがシュート。このこぼれ球に反応したベンゼマが左足で冷静にゴールへ流し込んだのだ。

 立ち上がりからエイバルに圧力をかけられるも、それを見事に回避し、早い時間に先制ゴールを奪ったマドリーは、その後もエイバルを圧倒する。ハイプレスを徹底してくる相手に対し、前線が流動的になることでマークをかく乱させ、ボールホルダーが使いやすいスペースを供給する。全体的にミスや無駄なボールロストが少なく、スムーズに相手陣内へ侵入。スピード感あふれる攻撃を展開し、相手を押し込み続けた。

 加入当初は目立った活躍ができず、批判の対象になることもあったアザールも本来のキレを取り戻した印象があり、左サイドで躍動。ベンゼマとの呼吸も良かった。また、MFフェデリコ・バルベルデやFWルーカス・バスケスらもイキイキとプレーするなど、ジネディーヌ・ジダン監督の先発起用に応えた。

 エイバルはハイプレスを徹底したが、前線の選手と最終ラインの選手が連動している印象はなく、中盤に大きなスペースを与えることも多かった。当然、マドリーはそのスペースを効果的に使う。エイバルはそこからピンチを招いたのだ。マドリーによって、早い時間から歯車を狂わされたと言える。

乾も苦戦した白い巨人の壁

 先制後も押し込まれたエイバルは、20分にDFセルヒオ・ラモスにPKを沈められると、その9分後にも再びPKを献上し、これをベンゼマに決められた。前半だけで、3点ものビハインドを背負っていたのである。

 データサイト『sofascore』によると、エイバルは前半だけで実に7本ものシュートを放っていた。これはマドリーの6本を上回る数字だ。しかし、枠内に飛んだのは0本で、ゴールの可能性は感じられなかった。ドリブル成功率はマドリーの86%に対しエイバルは40%。インターセプトの回数も4:11、地上でのデュエル勝利数も19回:34回になっているなど、エイバルはあらゆる面でマドリーを下回った。

 後半に入っても、マドリーはエイバルを前にペースを握る。左右にボールを展開しながら相手のディフェンス陣を揺さぶり、綻びが出たところでスピードを上げ、一気に崩し切る。また、モドリッチ、バルベルデらが中盤でボールを落ち着かせることもできたため、状況を見ながら攻撃のペースをチェンジし、エイバルを混乱させる。雨での影響でピッチコンディションはそれほど良くなかったはずだが、それでもボールは面白いくらいスムーズに回っていた。

 62分には右サイドでボールを持ったモドリッチから中央のバルベルデへパスが出ると、ウルグアイ人MFはダイレクトでグラウンダーのシュートを放つ。これがゴール右隅に突き刺さり、マドリーは試合を決定づける4得点目を奪った。

 エイバルはその失点後から、徐々にマドリーを押し込めるようになったが、S・ラモスを中心とした白い巨人の守備陣は大きく揺るがない。マドリーはMFカゼミーロの脇のスペースを突かれ、そこから崩されることも多かったのだが、この試合ではモドリッチやバルベルデが攻守の切り替えを素早く行ったことでそのあたりのポイントを的確にカバー。MFゴンサロ・エスカランテや攻撃の核であるMFファビアン・オレジャーナらは二人に囲まれボールを失うケースが多く、エイバルの攻撃はあまり加速することができなかった。

 また、左サイドで先発起用されたMF乾貴士は、相手のカウンターの芽を摘み取るなど守備面で奮闘したが、攻撃面ではマドリーの分厚い壁を前にやや後手を踏んだ。シュート数はチームトップとなる4本を放ったが、枠内に飛んだのは1本のみ。対峙したDFダニエル・カルバハルを前にドリブルで突破するシーンはなく、チームの攻撃をサポートすることができなかった。

 こうして90分間、エイバルを苦しめ続けたマドリーはこのまま4-0で勝利。これで公式戦では5試合で無失点を叩き出しており、リーグ戦ではこれで3試合無敗という結果に。試合後のジダン監督の表情にも笑みがこぼれるなど、チームの状態は明らかに良いだろう。

光を放つモドリッチの頭脳

ルカ・モドリッチ
輝きを放ったMFルカ・モドリッチ【写真:Getty Images】

「とても嬉しいし幸せだ。重要なのは最初から最後まで全力を出したこと。我々は厳しい相手に難しいピッチでそれを成し遂げた。今日の前半は見事だったし、我々はこの勝利に満足しているよ」

 クラブ公式サイトによると、ジダン監督は試合後の記者会見でこのように話していたという。まさに、勝つべくして勝った試合であった。4-0大勝は、必然だったと言えるのではないか。

 さて、ジダン監督は「この試合に出場した選手全員が素晴らしかった」とも会見で振り返っていたというが、中でも印象的なパフォーマンスを見せていたのがMFルカ・モドリッチだと言える。

 インサイドハーフの一角として出場したクロアチア代表MFは、中盤で柔らかいコントロールを見せながら相手の痛い所を突く正確なパスを何度も通すなど、中盤で大きく躍動。攻撃面での存在感はもはや言うまでもないが、14分にDFパブロ・デ・ブラシスの横パスを鋭い読みでカットし、相手の攻撃を一度ストップさせるなど、守備面での賢さや状況判断力も光らせた。

 また、モドリッチはこの日の4ゴールのうち、実に3ゴールに絡む活躍を見せている。

 ベンゼマの先制ゴールの場面では、左サイドを崩し切った段階でペナルティエリア内に侵入しており、ボールが自身の下に入ると相手を背負いながらもシュート。このこぼれ球が先制ゴールを生んでいる。

 また、チームの3点目を生むきっかけになったPK奪取の場面では、右サイドでL・バスケスがボールを持った瞬間、内側をモドリッチが一気に縦に走り出すと、相手DF一人を引き付ける。この動きによりL・バスケスの横にドリブルで突破するコースができると、同選手はその方向へ切り返す。その瞬間にDFホセ・アンヘルの足がかかりPKを得たのだ。

 さらに4点目の場面では、右サイドでボールを持つと、L・バスケスが縦に走り出しDFを引き付ける。しかしモドリッチは冷静で、そこにパスは出さない。背番号17がDFを引き付けたことでできた、中央へのパスコースを突いたのだ。乾も懸命に戻ったが間に合わず、背番号10はそこに鋭いパスを送る。待っていたのはバルベルデ。このボールをゴール右隅に流し込んだのだ。

 こうしてモドリッチがゴールに絡んだシーンを振り返ってみても、常に冷静さを保っていることがわかる。味方の動きと相手の位置、スペースができあがる状況を確認できているから、迷いのないプレーが継続できる。現在34歳とベテランの域に達してきたが、攻守にアグレッシブな姿勢も健在だ。この日も、前半途中に足を痛めながらも最後まで走り続け、勝利に貢献した。攻守においてモドリッチの「頭脳」は必要不可欠であることが、改めてわかった一戦となった。

 データサイト『Who Scored』によると、モドリッチはこの日、パス成功率92%という高い数値を出している。これはスタメンで出場した全22人の中でも2番目に良い数字であった。ドリブル成功数2回、決定的なパスを1本出し、タックル成功数も2回。攻守において存在感を放っていたことは、データにも表れている。試合後のヒートマップを見ても、右から左まで、幅広いエリアに顔を出していることもわかる。世界最高のMFは、やはり別格であった。

「マジョルカでの敗北後にやったことは、もっと仕事に取り組む必要があると考えたことだった。自分たちのクオリティを信じていたよ」

 クラブ公式サイトによると、ジダン監督は試合後の会見でこう話したという。その言葉通り、クラブはマジョルカでの敗北後に調子を上げてきている。まだまだシーズンは続くが、白い巨人はここからさらに勢いを加速させるのだろうか。

(文:小澤祐作)

【了】

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