マンCのお株を奪ったマリノスのメカニズム
アンジェ・ポステコグルー監督が横浜F・マリノスで偽SBを採用した現在は、オーストラリア代表監督だった2015年アジアカップ当時に比べ攻撃の爆発力が格段に増した。攻撃面での効果が絶大であるがゆえに偽SBへの依存度が高くなった。
しかし、この戦術を採用するにあたり設定すべき守備面の約束事については行き届いていない。依存度が高い、そして毎試合とる戦術にもかかわらず守備の整備が行き届いていないという点においてペップと一線を画す。
また、F・マリノスは守備ブロックを敷く際、中央を警戒してSBが絞りすぎる傾向がある。今ほど顕著ではないが、オーストラリア代表監督時代のチームにも見られた傾向だ。
7月27日にマンチェスター・シティと対戦したユーロジャパンカップでは、相手インサイドハーフに世界最高峰のプレーヤーであるデ・ブルイネが位置するため、その傾向はより如実に表れていた。
1失点目はサイドに大きく展開され、チャンネル(相手CBとSBの間にあるスペースのことを指す。そのスペースにインサイドハーフなどが入り込んでゴールを襲う)から抜け出したデ・ブルイネに叩き込まれたものだ。シティは偽SBへの依存が強くないがゆえに、よりシンプルでリスクの小さい形でフィニッシュまで持っていくことができるのだ。
横幅を使うシティに対して、F・マリノスは通常通り偽SBを活用した攻撃を展開。序盤こそシティのプレスに圧倒されたものの、時間が経つにつれ得意の形でチャンスに持ち込む場面が増えていった。
同点弾はまさに偽SBが真価を発揮したゴールであった(図6)。偽SBとして内側に絞ったティーラトンが右WGのベルナルド・シウバ、右SBのウォーカー、右インサイドハーフのデ・ブルイネを引きつけることに成功。
本来であればB・シウバは畠中を、ウォーカーは遠藤を、そしてデ・ブルイネは内側のケアをしながら扇原を見るべき局面であったが、3人全員がティーラトンに意識を向けた。その結果、畠中から扇原へのパスコースが開け、扇原から三好へのパスコースも開け、最後はウォーカーのマークが外れた遠藤が押し込んで奪う、狙い通りの得点であった。
F・マリノスの偽SBが機能したのはこのシーンだけに留まらなかった。結果として1-3でF・マリノスの敗戦となったが、6万5000人を超える観衆が見守る中、オフシーズンとはいえプレミア王者のシティ相手にそのお株を奪うプレーを見せたのだ。
(文:とんとん)