マジョルカがマドリーを下す大金星
まさに大金星であった。恐らくスペイン中の、いや、世界中の人々がこのような結果になるとは思っていなかったであろう。それほどに、衝撃的な幕切れとなった。
現地時間19日に行われたリーガ・エスパニョーラ第9節、マジョルカ対レアル・マドリー。誰もがアウェイチームの勝利を確信していたこの一戦は、なんと1-0でホームチームが制す。敗れたマドリーはこれが今季リーグ戦での初黒星。首位をライバルのバルセロナに譲る結果となってしまった。
試合が動いたのは7分のことだった。左サイドでボールを受けたFWラゴ・ジュニオールがドリブルで相手陣内深い位置まで侵入すると、鋭く中へ切り込む。こうして対峙したDFアルバロ・オドリオソラのマークを外した背番号11は、そのまま右足を振り抜く。放たれたシュートはゴール右隅に吸い込まれ、マジョルカに先制点が生まれたのである。
その後のマジョルカは、ただただ耐える時間帯が続いた。マドリーは当然ながら点を奪いに来る。ボックス内まで侵入されることも多かったが、最後の最後で身体を投げ出して失点を防ぐ。チーム全体が高い守備意識を持ち、集中したプレーでマドリーの攻撃を跳ね返し続けた。
そんな防戦一方な状況で、日本代表MFの久保建英は59分にMFアレイクス・フェバスに代わって登場。もちろんチーム全体が押し込まれている状況なので、ボールが回ってくる機会はそれほど多くないと予想できた。ただ、少ないチャンスの中で“古巣”相手にどのようなインパクトを与えられるのか。ここは久保にとって最大のポイントとなっていた。
ピッチに立った直後から、やはり久保は守備面でのプレーをこなすのに精一杯であった。対峙するDFマルセロはご存知の通り世界でも屈指の攻撃的サイドバックである。この日も高い位置でプレーしており、それに伴い久保のポジションもいつもより低めとなっていた。ただ、マルセロに対しそこまでやられた、という印象もなかった。
また、DFフラン・ガメスのサポートも久保は怠らなかった。同選手がFWヴィニシウス・ジュニオールと対峙している時には、久保が中を切り、ガメスは縦を警戒するなど二人でコンタクトを取りながら柔軟な守備を見せた。これによりV・ジュニオールも打開するのに手を焼いた。久保の守備意識は、チームの大金星を助けたといっても過言ではない。しかし…。
慣れない状況だからこそ見えた課題
最も久保にとってアピールが必要であった攻撃面では、残念ながら輝きを放つことができなかった。ボールを持ってもパスがズレる場面が多く見受けられ、いつもより苦戦していたのは明らかだった。
時間帯的にも難しかったのは確かだ。マドリーは74分にオドリオソラを退場で欠き、1人少ない状況になる。いよいよ初黒星が近づいてきた中で、なんとか得点を奪おうとマジョルカに猛烈なプレスを与えてきたのである。
久保がサイドでボールを持っても、2人以上に囲まれる。サイドなので、当然ながらパスコースは限定され、突破できるスペースも狭い。そこをなんとか回避しようとするが、味方との呼吸が合わずボールをロスト。このようなシーンが、何度かあった。
もちろん、カウンターから良い形でボールを運び、相手の最終ラインを深い位置まで下げさせることもあった。それでも、アトレティコ・マドリー相手にポスト直撃のシュートを放つなどビッグクラブを前にしても持ち味を発揮していた久保にしてみれば、やはりこの日の物足りなさは残った。
久保は途中出場で計7本のパスを記録した。ただ、成功率は29%と決して良くはない。デュエルの勝率も0%というデータが出ている。同選手にとっては厳しい古巣との一戦になった。データサイト『Who Scored』では久保に6.1のレーティングが与えられている。これはチーム内で最も低く、両チーム合わせても2番目に低い数字となっている(1番は退場したオドリオソラ)。
ビッグクラブ相手から追われるという展開は、マジョルカにとって珍しいことだ。恐らく久保も、移籍後初めての体験だったのではないか。レベルの高い選手たちがこれほど猛烈なプレッシャーを与えてくることは、試合前に想定していなかったはずだ。だが、そうした状況で冷静に、かつ的確にプレーできるかどうかは、今後の久保、そしてチーム全体の課題となるはず。だが、日本代表MFにはそれを克服するだけの力はあるはず。今後、世界のトッププレイヤーたちの仲間入りを果たすには、そうしたことも必要になる。
ただ、マドリー撃破はチーム全体の成果だ。久保も守備の意識が高く、そこで大きく後手に回らなかった点は非常に良かった。攻撃面では沈黙してしまったが、やるべき仕事はそれなりに果たしたのではないか。
マジョルカはこれでリーグ戦連勝。順位も14位に浮上した。勢いがあるのは確かで、今後どこまで上に行けるのかは注目だ。その中で久保にはいち早く結果を残してほしいところだが。
(文:小澤祐作)
【了】