パフォーマンスを論じることには意味がない
オーストラリア5-0ネパール、韓国8-0スリランカ、中国7-0グアム、イラン14-0カンボジア(!)、そして日本6-0モンゴル。モンゴルは1本のシュートも打てなかった。およそサッカーとは思えない点差が並んでいる。アウェイではこんな試合にはならないだろうが、2次予選のあり方がこれでいいのかと思わざるをえない。
ヨーロッパや南米にも格差はあった。1970年代には今回のアジア予選のような点差も珍しくなかった。そうした時期を経験して、現在の実力が接近した予選になっている。モンゴルにとっては4万人のスタジアムでのプレー、ヨーロッパのクラブに所属する選手たちとの対戦は得難い経験でもあるだろう。ただ、もう少し絞り込んでから3次予選で強豪と対戦する形式のほうがいいのではないか。
ホームのモンゴル戦は日本にとって得るものが少ないのは最初からわかっていた。その中で、森保一監督は「勝つ」と「試す」を両立させようとしていたようだ。
招集して極めて短い準備での試合なので、戦術的にできることは限られている。これまでのベースを確認しつつ、今後に備えての選手起用をいくつか試みるぐらいしかやることがない。新しい選手を試したいところだが、それもベースを維持したうえでなければあまり意味がないわけで、違うチームを2つ作っても無駄でしかない。これほど欧州から招集しなくてもとは思うが、試せる数に限りはある。
先発メンバーの変化は、柴崎岳と組むボランチに遠藤航を起用。右ウイングに伊東純也、トップに永井謙佑。交代出場は安西幸輝、鎌田大地、原口元気だった。
モンゴル戦で個々のパフォーマンスを論じることには意味がないので、機能性と意図のみを考えてみたい。
中島のFW起用
これまでのベースを維持したうえでのテストで興味深いのは、中島翔哉の中央での起用だ。70分に永井に代えて原口が登場、中島は中央へ移動して鎌田と2トップを組んでいる。原口の左サイドはこれまで何度も起用してきているのでテストではない。試したかったのは中島のFWなのだと思う。
中島のベストポジションは左サイドなのだが、いずれ守備が問題になるのは目に見えている。中島の守備力そのものが低いというより、守備ができる場所にいないからだ。しかし、左から中央にかけて自由に動く中島のプレースタイルを制限するのも面白くない。
そこでまず考えられるのは、中島の背後をカバーできる守備力の高いMFの起用である。これまでは遠藤、橋本拳人、三竿健斗が起用されてきた。この場合、中盤は左へスライドするので右サイドハーフにも稼働範囲があって守備意識の高い選手が必要になる。強豪国を相手にしたとき、中島と同じタイプを右に置くのは無理だ。モンゴル戦ではフィジカル能力が高い伊東が右に起用されたが、所属のザルツブルクでこのポジションでプレーしている南野拓実を使う手もある。
2つめの解決策は中島のFW起用。バルセロナでエルネスト・バルベルデ監督がリオネル・メッシを2トップの1人にしたのと同じだ。このポジションなら単純に中島の守備負担は軽くなる。バルサの場合は4-3-3から4-4-2への変更が伴ったが、日本代表はもともと4-4-2なのでチーム全体への影響はない。中島がフィットするかどうかだけだ。3つめは、中島を左のままで起用してMFを増員、4-3-3(4-5-1)にする。これはまだ試していない。
複数のポジションができるバックアップ
モンゴル戦で負傷した冨安健洋の代わりに室屋成を追加招集した。室屋を最初から呼んでいなかったのは不思議なぐらいである。
前回も室屋は招集されず、冨安の右サイドバックをテストした。今回は安西だった。右サイドバックのレギュラーは酒井宏樹で、今のところ盤石である。素直に二番手を選ぶなら室屋だと思うが、あえてそうしていないのはユーティリティーなタイプを酒井のバックアップに選びたいのだろう。
ワールドカップメンバー23人の選考はGK3人、フィールドプレーヤー各ポジション2人が基本になるが、システム変更等も考えるとポジションによって偏りは出てくる。そこで複数のポジションでプレーできる選手が必要になる。冨安はセンターバック、サイドバックがやれて、アジアカップではMFでも起用された。安西は左右のサイドバックができる。
大迫勇也のいないモンゴル戦、2トップは永井と南野でスタート。61分で鎌田、永井に変わり、70分で鎌田、中島。FWに関しては大迫、南野がファーストチョイスだが、このポジションは怪我やコンディションに左右されやすい。今後もテストは続くだろうし、可能性を狭めることはないと思う。
(文:西部謙司)
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