伝統のマドリードダービー今季リーグ戦初開催
「ダービーはプレーするものではなく、勝利するものだ」。
2015/16シーズンのリーガ・エスパニョーラ第26節、レアル・マドリーとの試合を終えた元アトレティコ・マドリーのFWアントワーヌ・グリーズマンは直後のインタビューでこのような言葉を残した。そんな一流選手の感情をも高ぶらせてしまう一戦こそ、伝統のマドリードダービーである。
今シーズンのリーグ戦における最初の開催となった同ダービー。通算対戦成績は139勝65分69敗とマドリーが大きく上回っている。ただ、近年はアトレティコも大きく力を付け始めたため、実力はほぼ互角といっても過言ではない。ちなみに昨季の対戦成績はマドリーの1勝1分となっている。
リーグ戦3連勝でこの一戦を迎えたマドリーは、お馴染みの4-3-3を採用。DFフェルラン・メンディやDFマルセロが負傷離脱している左サイドバックにはDFナチョ・フェルナンデスを起用した。また、インサイドハーフの一角にはMFフェデリコ・バルベルデが名を連ねた。怪我明けのMFルカ・モドリッチはベンチから戦況を見つめることとなったのである。
対するアトレティコはフラットな4-4-2を採用。前節のマジョルカ戦からほとんどメンバーの入れ替えはなかったが、右サイドバックにDFサンティアゴ・アリアスではなくDFキーラン・トリッピアーが起用されている。
立ち上がりにペースを掴んだのはホームのアトレティコ。サイドを起点に相手陣内への侵入を図り、DFを引き付けたところで中央へボールを送る。そこでは選手間の距離をコンパクトに保ってワンタッチでパスを繋ぎながら、相手のプレッシャーを回避する。これは前節のマジョルカ戦でも見られた形だが、アトレティコはそれをマドリーとのダービーでも余すことなく発揮してきた。
また、アトレティコは攻撃時、FWジョアン・フェリックスを2列目のような位置で生かすこともできる。そこにボールが入れば、MFサウール・ニゲスとMFビトーロは内側に絞って相手SBとCBの間にポジショニング。そしてFWジエゴ・コスタを両CBの間に置く。マドリー守備陣にとって厄介な手を打ってきたのだ。
アザールはなぜ輝けない?
ただ、この日のマドリーは徹底した守備でアトレティコに対応した。中盤3枚はどちらかと言えば重心を低め、意識をディフェンスへと傾け、中央をガッチリと固める。アトレティコの場合、サイドバックも割と高い位置を取ってくるが、そこに対してはFWエデン・アザールなどウィングの選手がしっかりとカバー。インサイドハーフのMFトニ・クロースなどは背後から飛び出てくるMFトーマス・パルティらの警戒を怠らなかった。
7分にフェリックスにDF陣の背後を抜けられ、あわやといったシーンも作られたマドリーであったが、前半10分前後から試合のペースを握り始めた。ゴール前に侵入する機会はあまり多くなかったが、反対にアトレティコに対してもゴール前への侵入をほとんど許さなかった。膠着状態と言えばそうなのかもしれないが、お互いの駆け引きは試合序盤から見応えがあった。
ただ、マドリーにとって気になったのはアザールの存在感だ。左ウィングで先発したベルギー人FWはボールに触れる機会こそ多少はあったものの、特徴であるドリブルで相手陣を切り裂くといった場面はほとんど見られなかった。
こうなった理由はいくつかある。まずはアトレティコの守備だ。彼らはこの日、ハイプレスを徹底するのではなく、場合によってはディレイすることもあった。たとえばナチョがボールを持った際にはサイドハーフのニゲスはまずクロースらインサイドハーフへのパスコースを限定する。最短距離でボールを前に出せるコースを切られたナチョは次に縦へのコースを見るが、アザールにはすでにトリッピアーがベッタリと張り付いている。こうなるとパスは必然的に出しづらくなり、アザールもポジションを動かさなければならない。
また、カウンター時は左サイドにボールが回る機会が多かったが、そこにいるのはアザールではなくFWカリム・ベンゼマだ。ベルギー人FWは守備にも積極的に参加しているため、やはり前線に残っているベンゼマの方が素早くその位置に動くことができる。そうなるとアザールはフランス人FWの代わりに中央へと入って行くが、もともとアトレティコは真ん中の守備が非常に固い。ここでボールを受けるのも至難の業というわけだ。
あとはやはり、この日は左サイドバックがマルセロではなくナチョだった点も大きい。どちらかと言えば守備に重心を置く同選手は前線に飛び出すタイミングや速さなどがまだ物足りない場面があり、アザールのサポートが遅れる。そうなると背番号7はDF2人に囲まれる苦しい状況へと追い込まれる。こうなるといくらアザールとはいえ、打開するのは困難。孤立しているとも言えるが、同選手の特長をチームとして引き出せなかったのである。
マドリーの守備は安定。しかし…
試合に話を戻すと、マドリーはアトレティコに対し守備で優位に立ちながらも、反対に攻撃がそれほど機能しているとは言い難かった。GKヤン・オブラクのビッグセーブに阻まれたシーンももちろんあったが、そもそも枠内に飛んだシュートは14本中なんと3本。さらにシュートアクションを起こしたゾーンを見てみても、全体のおよそ71%がペナルティエリア外となっている。これではなかなか点が入らないのは当たり前だ。
マドリーは後半にバルベルデに代えモドリッチを投入したものの、全体的な流れはそれほど大きく変わらなかった。アトレティコもMFトマ・ルマルを入れ、ニゲスをサイドバックに下げるなど攻撃的な形を試してきたが、こちらもそれほど効果的と言えず。試合は両者得点を奪うことができず、0-0に終わっている。
マドリーは連勝が止まったものの、これでリーグ戦では3試合連続クリーンシート中。守備の課題が多かった昨季から比べるとやや安定感は出てきており、そうした影響が結果にも出ているということはポジティブな要素だ。
ただ、一方で守備に重心を置いた際にはどうしても攻撃の形が疎かになる。アトレティコ相手にアウェイで勝ち点1は決して悪い結果ではないが、優勝を目指すならばこういった試合で勝ち切ることは当然必要となってくる。守備に重心を置くのは良い。ただ、その後の攻撃の形はどうするのか。ここはジネディーヌ・ジダン監督の今後の課題となりそうだ。
一方でアトレティコはこれでリーグ戦7試合中5試合でクリーンシート達成。守備の強度、安定感はさすがといったところである。ただ、リーグ戦直近4試合で2得点という成績はいただけないところ。マドリーと同じく、こちらも攻撃に課題がありそうだ。
(文:小澤祐作)
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