飛躍を遂げたシェフィールドでの日々
イングランド中部の工業都市シェフィールドで生まれ育った幼少期のマグワイアは絵にかいたようなサッカー少年だった。地元紙『ヨークシャー・ポスト』によると、学校から帰ればすぐにグラウンドへ直行し、兄や友人と共にボールを追う日々だったという。メキメキとその才能を伸ばしたマグワイアは、当初はバーンズリーのアカデミーに加入した。あまり知られていないが、ここでマンチェスター・シティに所属するイングランド代表DFジョン・ストーンズと共にプレーしている。
15歳までバーンズリーでプレーしたものの、マグワイアのプレースタイルの土台は、その後に加入したシェフィールド・ユナイテッドのアカデミーで形成された。カイル・ウォーカー、フィル・ジャギエルカなど優秀なDFを輩出したアカデミーで、彼が学んだことは多い。英メディア『テレグラフ』の取材で、マグワイアは以下のように語った。
「16歳~18歳くらいまではセントラルMFでもプレーしたんだ。だから、僕はボールを扱うことを苦にしなくなった。その後はCBに定着したけど、中盤での経験はとても重要だったよ」
英メディア『メトロ』によると、強靭な肉体と確かな技術を武器にシェフィールド・アカデミーの中心となったマグワイアには、キャリアのターニングポイントとなる試合があったという。それが2017年のFAユースカップ決勝セカンドレグだ。
運命の非通知の電話
当時17歳のマグワイアが対戦したのは、ポール・ポグバやジェシー・リンガードを擁するマンチェスター・ユナイテッドのユース。ホームでのファーストレグは2対2で終えたブレイズ(シェフィールド・ユナイテッドの愛称)だったが、オールドトラフォードでの2戦目は苦戦を強いられた。
この試合で目立ったのはマグワイアではなくポグバ。「まるでオーバーエイジ枠のような立ち振る舞い」と語ったのはその試合を観戦した現地記者アンディ・ミッテンだ。終始フランス人MFに圧倒されたブレイズは1対4の大敗を喫した。
マグワイアにとってはこの試合は、結果のみならず内容でも不運な試合だった。試合中に頭を強打し脳震盪で倒れたマグワイアはすぐに病院へ直行。大事を取るため、マンチェスターの病院で一夜を明かすこととなったのだ。
自身の退場とチームの敗戦に肩を落としたマグワイアを心配したユナイテッドのスタッフからトップチーム選手のサイン入りユニフォームを貰うものの、気分は晴れなかった。そんな彼に、人生の転機とも言える出来事が起こる。それは一本の電話だった。試合の数日後に非通知の電話を受けると、なんと相手は当時のユナイテッド監督アレックス・ファーガソンだったのだ。
驚くマグワイアに対して、ファーガソンは容態を気遣うとともにこう伝えた。
「君のプレーは素晴らしかった。もしこのままひたむきに努力を続ければ、きっと一流の選手になれる」
当時プロで活躍できるか不安に感じていたマグワイアにとって、偉大な監督からの称賛はとても大きな励みとなったそうだ。
その後の活躍は周知の通りである。ハルシティやローン先のウィガンで活躍すると、2017年にレスターに移籍。プレミアリーグでも安定した守備を披露すると、イングランド代表にも定着。2018年に行われたロシアワールドカップでは、母国をベスト4に導く最高のパフォーマンスを披露して見せた。
マグワイアの現在のプレースタイル
マグワイア最大の武器は、いわずもがな身長194cm、体重100kgの巨体を生かしたフィジカルバトルの強さである。空中戦では、当たりの強さを生かして完璧な落下地点を確保しつつ、頭一つ抜ける高さも見せつけて確実にはじき返す。地上戦では長い脚でボールをつつくだけでなく、少しでもボールがアタッカーから離れると体を入れて奪取することができる。
またシュートブロックで決定機を阻止する場面も多い。あれだけの巨漢が迫ってくると、ストライカーにとってはプレッシャーになるだろうし、単純に大きいので体のどこかに当てることができる可能性は高い。ダビド・デ・ヘアのセービング頼みの、貧弱な守備ブロックはもはや過去の話だ。
攻撃面では、精度の高いキックや思い切りのいい持ち上がりも良いが、一番の売りは落ちつきである。多少プレスを受けても動じずに、中盤やサイドバックにパスを供給することが可能だ。そのためビルドアップが苦手なCBが多いユナイテッドでは、組み立ての際のボールの預けどころとして機能している。彼が一人いることで、ユナイテッドのドタバタしたビルドアップは、大幅に改善された。
なによりマグワイアは天性のリーダーシップの持ち主だという。リオ・ファーディナンドの退団以降、長らく主軸がいなかったユナイテッドの最終ラインにようやく安心して任せられるDFが現れたのだ。
今シーズンのマンチェスター・ユナイテッドは前線のタレント不足が否めず、攻撃力に不安を抱えている。冬にトップクラスのタレントを確保する可能性もあるだろうが、いずれにしても、前半戦の鍵を握るのは守備だ。1点でも失点数を減らすことで、最小得点でも勝利をおさめられるか。マグワイアの奮闘が鍵になる。
(文:内藤秀明)
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