「個々の能力が全然違う」。板倉滉が語る力の差
1歩1歩、適応の過程を踏んでいるようだ。9月25日に行われたエールディビジ第4節、対FCフローニンゲン戦。堂安律は、PSVに移籍して以来、初めての先発出場を果たす。
ポジションは右サイド。過密日程が続く中、22日に行われたアヤックス戦から中2日、マルク・ファン・ボメル監督はローテーションを行い、数名のメンバーを入れ替えた。前線ではモハメド・イハッタレンとブルマがベンチに下がり、コーディ・ガクポと、堂安が先発したのである。
試合はPSVがほとんど支配した。フローニンゲンの日本代表CB板倉滉は「立ち上がりから、個々の能力が全然違うなと感じました」と振り返っている。
「スピード感だったり、上手さの違いを立ち上がりの時点から感じていたので、いつも以上に集中して先に先に準備しておかないとだめだな…と早い段階で気付きました。後半に入って自分たちの時間帯も増えて、自分たちがボールを持ってやりたいサッカーもできたと思いますが、結果を見たら1-3。本当に嫌な時に相手は点を取ってきましたね」
板倉がこのように話す「ちょっと違う」チームの中で、堂安は先発した。じっくりパスを回してポゼッションを高めるPSVの中で、1つ1つ感触を確かめるように、右サイドで何度もボールに触った。
多少パスがズレたとしても、クオリティの高い選手たちは繋いでくれる。このフローニンゲン戦では、決定機を演出することや、ゴールを決めることはできなかったが、最後まで流れの中で消えることはなかった。
先発してフル出場するのは、まだフローニンゲンに所属していた頃、8月10日に行われたトゥエンテ戦以来のことだ。およそ1ヶ月半ぶりとなる90分間のプレーに、堂安自身、試合後に「疲労感は今まで以上に感じています」と振り返ったが、後半のアディショナルタイムでも、ペナルティエリアの中で果敢にゴールを狙いに行っている。
「監督がどう考えてフルで使ったかは分からないですけど、個人的には90分間できたのは良かった、というのはありますね」と、PSVのクラブ史上初めて先発した日本人選手は振り返ったが、試合の途中で替えられなかったことは、ファン・ボメル監督の中で少なくとも及第点の出来だった、と言えるのではないか。
「自分が結果を出していけば変わっていくかな」
もちろんPSVに移って初めて、これだけ長くプレーしたことで、改めて感じた“課題”もある。
「やっぱり前に前に行く選手が多いので、その流れに自分も付いていかないといけない。3人、4人で攻め切るっていう形が今多いですし、そこに入っていけるようにしないといけないなって感じました。そのあたりは、まだまだ改善できるかな、とは思います」
PSVはポゼッションを高めて機を伺うというよりは、行ける時には前線の選手たちだけでガッと速攻で行くチーム。ドニエル・マレンやステーフェン・ベルフワイン、この試合は途中出場のブルマ、さらには右SBのデンゼル・ドゥムフリースらが絡み、一気に突き進む。
速攻を仕掛ける選手たちにとって「ファーストチョイス」となるのは、よりゴールに近い選手、得点に直結するプレーだ。
「こう(チームメイトは)ゴール前に向かっていくから、俺に出せるパスがあっても、前に選手がいればセンターフォワードに(パスを)出すので、PSVの選手は。そこの判断のファーストチョイスの違いは感じましたね」
こうしたPSV特有のスタイルへの適応は、やはり実戦の中でこそ培われるものだろう。トレーニングだけでは限界がある。そして、こういった“課題”に対する「気付き」が、何より“適応の1歩”と言えるのではないか。
そして堂安は、「ゴール前」で味方からのパスを引き出すためには、改めてゴールが必要だと考えている。
「(パスを)要求するところもそうですし、後は自分が結果を出していけば変わっていくかな、と思います。今日のフローニンゲン戦ではシュートチャンスが2、3本あったので、そこで決め切れないといけなかったですし…そこの自分の強みは出していかないとな、と思います」
PSVに移籍して、初めて先発を飾った堂安。1つ1つ、着実に前に進んでいるようだ。
(取材・文:本田千尋【アイントホーフェン】)
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